私たちが何かを考えたり、身体を動かしたりできるのは、全て脳の働きによります。言いかえれば、脳は私たち自身であります。しかし、私たちの脳の働きに関してはほとんど解明されていません。今回のサイエンスカフェでは、自分の脳の働きを目で見る実験を皆さんに行ってもらいます。不思議なワンダーランド「脳」を一緒に探検してみましょう。

開催日 : 2010年10月17日(日)14:00~16:00
会場 : 秋田県 秋田市民交流プラザALVE 1階きらめき広場
ポスター(PDF 903.2 KB)
1959年生まれ。千葉市出身。東北大学加齢医学研究所教授。85年東北大学医学部卒業、89年同大学院医学研究科修了、スウェーデンカロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師、東北大学未来科学技術共同研究センター教授を経て2006年より現職。08年東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサー。「情報通信月間」総務大臣表彰、科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞。脳とこころの関連を脳機能イメージング手法により研究。研究成果の社会還元活動も積極的に展開し、学習療法や脳トレ商品群を世に送り出した。

笑いは心を癒し、リラックスし、免疫力を高めるといわれていますが、脳は休んでいる状態とのこと。この状態が続くのは、どうゆうものなのでしょうか。
笑っているときには、気持ちはリラックスしているのに、前頭前野は活動が活発になります。普通は、リラックスをした時には、前頭前野の活動は普段よりも下がります。笑いで何故このような状態が現れるのか科学的な理由は未だに解っていません。ちなみに、同じ様に、リラックスしてるのに前頭前野が活発に働くものとして、ペットに触っている時があることも実験で見つけました。
脳の活性化の写真として血流の増加などの写真が挙げられることがあるが、「活性化=血」の理由が分からない。実際に神経回路が増えた、などのデータなら納得できるが…
脳が活性化するとは、脳の細胞がたくさん働くことを意味しています。脳の細胞がたくさん働くと、働いた細胞にエネルギー(酸素とブドウ糖)を補給するために、自動的に使った細胞周辺の脳の血液の流れ(局所脳血流)が速くなります。私たちが持っている脳機能イメージング装置の中でも、機能的MRIと呼ばれる装置、近赤外計測装置(サイエンスカフェで体験していただきました)は、この局所脳血流を計測しています。
右手の人が左手を使って日常生活をおくれば、脳の活性化につながるのか?
まったくつながりません。手の運動を支配しているのは、大脳の前頭葉の運動領域ですが、これは大脳のほんの一部です。このほんの一部の中での働き方は、右利きの方が左手を使ったほうがたくさん働きますが、脳のその他の大部分の働きにはほとんど影響しません。
きき手やきき足は、脳が使いやすいほうを使うと思うけれど、きき手ときき足が違う人がいるのはなぜですか。
利き手は、細かい作業をするときに、どちらの手をより使う傾向があるかで決まります。一方で、一般的に利き足といわれているものは、筋力がより強い方の足を指しています(ちなみに科学的な用語や定義ではありません)。したがって、そもそも「利き」の定義が異なるので、左右で同じ方である必然性もないと考えられます。
「ゲーム」(リラックス)での「脳トレ」(活性化)は、矛盾にならないのか。
一般的なTVゲームは、ゲームの遊び方に慣れると、前頭前野に強い抑制がかかるため、脳を活性化し、脳の機能を向上させる、いわゆる「脳トレ」効果はありません。この事実は2010年にNatureという科学雑誌に論文も発表されています。しかし、私が提唱した「脳トレ」ソフトは、産学連携研究を行い、ゲームに慣れても常に前頭前野が活性化し続ける特別なものです。これで遊ぶことにより、高齢者のさまざまな脳の働きが良くなることを証明し、2010年に米国の会議で発表しました。
テレビを見ていると脳は休むというお話でしたが、テレビ番組の内容によるのではありませんか。また、テレビ同様の状態で一方的な講義(つまらない授業とか)が行われる時も同じでしょうか。もっと言えばテレビ視聴する塾があるようですが大丈夫でしょうか。
もちろん全てのTV番組を見ている時の脳活動を計測することはできませんので、断言はできませんが、これまでさまざまなジャンルのTV番組を見ている時の脳活動を計測した結果、教養番組でも学習番組でも、ほぼ全ての番組で前頭前野の活動に抑制がかかる(脳が休む)という結果しか出てきていません。ただし、私たちは、見ることで前頭前野が活性化する番組を、脳機能を計測しながら作成し、これは現在も宮城県を中心に毎日放送されていますので、脳機能イメージング研究の力を使えば、脳が休まないTV番組も作れると思います。塾でテレビを、視聴(テレビで授業)をしている事実があることは知りませんでしたが、これまでの我々のデータを元に考えると、科学的根拠はありませんが、個人的にはあまりお勧めではないように思います。
心を見ることによって、さまざまな分野(学習・運動能力、心の悩み、認知症、医学、人間関係の改善等)に応用が効くことがわかった。倫理的に悪用される心配はないか。
脳研究に関する知識や技術が、悪用されることは十分にありえます。ですから、私たち研究者は、研究計画を倫理委員会の承認を得ることにより、第三者の目で、危険性や悪用の可能性がなくなるよう注意を払っています。また、こうした脳科学の知識が社会にどのような影響を与えるのか、悪い影響を与えないためにはどうしたらよいのかを考える、神経倫理学という新しい学問も始まりました。
先生の経歴の中で、京大で類人猿の研究をなさったところに興味を持ちました。赤ん坊の知能の発達段階を見る上でも役に立つのでしょうか。
私は大学院生時代に、京都大学霊長類研究所に内地留学をして、ニホンザルを使った脳の研究を行っていましたので、直接類人猿の研究に携わってはいません。類人猿(チンパンジー)の心理学研究は、当時私が居た隣の部屋で行っていましたが、言葉の獲得の過程の研究など、人間の乳幼児の発達の研究に直接や役立つような基礎的研究が行われていましたし、現在も、そのような研究が行われています。