地球環境・エネルギー資源の問題への関心が高まる中、新エネルギーの一つとして燃料電池の研究・開発が進められています。将来、携帯電話や自動車、家庭用の発電システムなど、私たちの身近なところで使われるようになると期待されている燃料電池ですが、実際どのようなしくみで発電するのでしょうか?燃料電池が普及すると私たちの暮らしも変わるのでしょうか?今回は、近い将来私たちの身の回りで活躍するかもしれない燃料電池について考えてみたいと思います。

開催日 : 2008年3月21日(金)18:00~19:45
会場 : せんだいメディアテーク
佐多准教授は、イオン導電性セラミクス材料の研究が専門です。特に燃料電池などに用いられる固体電解質材料の薄膜・多層膜化による研究を中心に,燃料電池の高性能化を目指した研究を進めています。2000年には、2年間客員研究員を務めたドイツのマックスプランク固体研究所で行った、フッ化物イオン導電体多層膜の研究成果を共同研究者であるMaier教授と共にNature誌に発表し、固体電解質材料を扱うイオニクスの分野で注目を集めました。

水素以外の燃料はないだろうか?
燃料電池の特徴の一つに燃料の多様性があります.化学反応の過程で移動する電子を外部回路に取り出して利用するというしくみのため,原理的にはどんな燃料でも発電することができます.水素が注目されているのは,多様な製造方法があること,地球上に豊富に存在する元素であること,反応した物質が安全な水であること,などの多くのメリットがあるからです.
いつコスト的に手に入るようになるのかが知りたい
もう間もなく一般家庭でも使えるようになる,と言ってもよいと思いますが,コストが十分下がるには,燃料電池がユーザーに受け入れられ,需用が拡大して工業化が促進される必要があります.普及を促進するためには費用面での支援も重要です.
イオンになるところが重要だとのことだが,どうやってイオン化するのか
燃料電池発電では酸素と水素の濃度差が駆動力となって,酸素イオンまたは水素イオンが電解質を通り抜けようとします.電解質に入る前にイオンになる必要があるわけですが,それぞれの電極が電気的につながっていると,電極を介して酸素や水素は電子をもらったり与えたりすることが可能になります.言い換えると,開回路状態では“起電力”は発生しますがイオン化することはありません.実際,イオン化するまでには分子が電極表面に吸着し,これが解離して2つの原子となり,そこで電子をもらったり与えたりするというプロセスを経ています.これらのプロセスは必ずしもスムーズに進むわけではありません.触媒は電子をもらったり与えたりするのを助ける役割を担っています.
バイオエタノールの需要の増加によって穀物の値段が上がったように,燃料電池を使うことによってガスの値段は上がらないのか?
バイオエタノールの場合は“食糧”と“エネルギー”という全く異なる需要が対象となったため,大きな価格差が生じて穀物の高騰につながったものと考えられます.このような問題を避けるために“食糧”以外の植物からバイオ燃料を取り出す技術の開発が行われています.燃料電池を使う場合,燃料の変換の仕方が異なるだけですので,このような種類の問題は特に生じないでしょう.
現存する内燃機関の最大の効率と実在する燃料電池の最大の効率は?
内燃機関として火力発電所を例にとると,長年の研究・開発によって高度な技術が確立されており,最新式のものでは50%を超える効率が得られています.燃料電池の場合は種類によっても異なりますが,700℃程度で作動する1kW級のSOFCで約45%という値が報告されています.発電の規模や供給・利用方法も異なるため,直接値を比較するのは難しいのですが,火力発電所からの送電による数%のロスと燃料電池のコジェネレーションによる熱エネルギーの利用を考慮すると燃料電池を利用した時の効率が高くなります.
反応にかかわる電子数は起電力にどうかかわるのか?
発電で得られるエネルギーは発電時に流れた電荷量×電圧に相当します.つまり,この電圧(=起電力)は発電時に得られる電気エネルギーを流れた電荷で割ったものに等しくなります.流れた電荷は反応に関わる電子数に比例するので,燃料電池発電で得られる起電力はこの電子数に反比例します
水素を作るためのエネルギーやコストが余計にかかったり,結果的により多くのCO2が発生することはないのか?
現在のメタンから水素を製造するプロセスでは,メタンと水蒸気あるいは酸素との化学反応(改質)によって水素を取り出す方法が主流となっています.この場合は改質のプロセスでCO2が発生しますが,燃料電池のエネルギー変換効率が高いため,結果的に排出する CO2を既存のシステムより減らすことができます.また,水の電気分解による水素生成では電力エネルギーが必要になりますが,自然エネルギーによって発電したエネルギーを使うと,CO2の発生を抑えることができます.例えば,アイスランドでは地熱,水力エネルギーを使って水素エネルギー社会を作るという試みを行っています.
水素を作るために化石燃料を使っているが,化石燃料がなくなったらどうするのか
化石燃料が枯渇する前に,技術的にもコスト的にも再生可能な自然エネルギーが十分実用的なものになっている必要があります.エネルギー以外の用途でも貴重な資源である化石燃料はできる限り有効に利用するよう努め,再生可能なエネルギー社会を構築することが理想です.
安心で安い触媒や電解質などの材料の研究開発は?
燃料電池の心臓部にあたる電極(触媒)や電解質の低コスト化や材料の安全性は大変重要な課題です.世界中の企業や大学・公的研究機関で高性能化と同時に研究開発を進めています.
燃料電池は水素やメタノールなどの危険な物を使用しているが,その安全性はどうしているのか?
燃料としての特性の違いから,危険性において従来の燃料と異なる点もありますが,従来の燃料と同様,安全性を確保するべく研究開発が行われています.メタノールは規制が厳しく,特に携帯型の燃料電池の普及を難しくしていました.最近,携帯型燃料電池のために安全に取り扱うことが可能なカートリッジ式のメタノール容器の開発が進められており,規制も緩和されてきています
スペースシャトルに積んだ液体燃料1コの量と価格は?
NASAのホームページによると,酸素,水素のタンクそれぞれ1つあたり,354 kg,42 kgの量が入っているそうです.同じ分子数では約16倍重い酸素の方が圧倒的に重くなりますが,それぞれの分子数の比では反応に必要な酸素:水素=1:2にほぼ等しい分量です.燃料電池発電でそれぞれのタンク1つを消費すると400 L弱の水が得られることになります.価格についてはわかりません