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フラストレート磁性体の量子相転移の圧力・磁場制御を実現 三角格子反強磁性体の新しい量子相の発見

【発表のポイント】

  • 三角格子反強磁性体でスピンが最小のS = 1/2の系においては、量子揺らぎ*1と幾何学的フラストレーション*2により、多数の安定状態をもつことが、理論的に予想されてきた。
  • この予想を検証するために、高圧力をモデル物質に加えて歪ませることで、安定状態を決定する磁気相互作用を精密に制御し、さらに強い磁場を加えることで量子ゆらぎを変調させたところ、複数の量子相転移*3を発見した。
  • 2ギガパスカルの高圧と25テスラの強磁場、電子スピン共鳴*4を組み合わせることにより、新量子相を研究する手法が確立し、様々な系への応用が期待される。

【概要】

東北大学金属材料研究所付属強磁場超伝導材料研究センターでは、ドイツHelmholtz-Zentrum Dresden-RossendorfのS. A. Zvyagin研究員、米国National High Magnetic Field LaboratoryのD. Graf研究員、神戸大学研究基盤センターの櫻井敬博助教、大阪府立大学理学系研究科の小野俊雄准教授、東京工業大学理学院の田中秀数教授らとの国際共同研究において、圧力によってスピンS = 1/2三角格子反強磁性体Cs2CuCl4の結晶を歪ませることで、交換相互作用を精密にコントロールし、25テスラまでの強磁場下で電子スピン共鳴(ESR)という手法で調べることで、逐次的に現れる複数の新たな磁気相を発見しました。

三角格子反強磁性体では、全ての磁気相互作用を満足させる安定状態が存在しない幾何学的なフラストレーションと呼ばれる状態を持ち、多数の状態がせめぎ合っていることが知られており、小さな刺激で状態が劇的に変わることが予想されていました。特に、磁気の単位であるスピンが最小の1/2を取る場合は、量子揺らぎが大きく、この効果が増幅されます。しかし、これまで、その予想に対する系統的な実験による検証は殆ど行われていませんでした。本研究では高圧力と強磁場の2つの物質を制御するパラメータを組み合わせて変化させることで、三角格子反強磁性体に複数の逐次的な量子相転移を発現させることに成功しました。本研究成果は、2019年3月6日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

【専門用語解説(注釈や補足説明など)】

※1 量子揺らぎ:
量子力学的な不確定性関係に由来して、スピンが古典的なベクトルと考えた場合の安定構造から揺らぐ効果。フラストレーションを持つ系では量子揺らぎが特に大きくなることが知られています。

※2 幾何学的フラストレーション:
三角形の各頂点に位置したスピン間に反強磁性的相互作用が働く場合、全ての最近接スピン対を反平行に配置することができないため、安定な状態に落ち着くことができません。これを幾何学的フラストレーションと呼びます。

※3 量子相転移:
固・液体間の相転移のような通常の温度変化によるものとは異なり、絶対零度で磁場、圧力、化学組成の変化などによって起こる相転移で量子揺らぎによって支配されます。

※4 電子スピン共鳴(ESR):
周波数一定の電磁波を物質に照射しながら静磁場を掃印すると、物質の磁気的なエネルギー準位の差と電磁波のエネルギーが等しくなる磁場で電磁波の共鳴吸収が生じる現象。この測定によって交換相互作用の精密な見積もりが可能になります。今回、ESR測定用に特別に開発された電磁波が透過できるジルコニアをピストンに用いた圧力セルを用い、これと25テスラ無冷媒型超伝導磁石を組み合わせることで、Cs2CuCl4の高圧強磁場下での交換相互作用の決定に成功しました。

図1. 三角格子に歪みを生じさせてフラストレーションを制御する高圧力と量子揺らぎを制御する強磁場を組み合わせて新たな量子相転移を発見し、電子スピン共鳴によって歪みによる交換相互作用の変化を精密に決定した。右は実験から得られた温度・圧力相図と交換相互作用の変化率。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究内容に関して>
東北大学金属材料研究所
付属強磁場超伝導材料研究センター
担当: 木村 尚次郎
電話: 022-215-2154
E-mail:shkimura*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関して>
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
担当: 冨松 美沙
電話: 022-215-2144
E-mail:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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