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キラルな層状ペロブスカイト型半導体で光起電力を発現 電位差界面を使わない光起電力材料開発に指針

【発表のポイント】

  • 高効率の太陽電池材料として脚光を浴びる「有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型半導体*1」の類縁体に新しい性質を持たせた材料設計に成功
  • キラル分子*2を組み込むことで、光起電力を発生させるために必要だった電位差界面を必要としない光起電力効果の発生に成功
  • 本手法はバルク光起電力材料の開発に新たな道筋をつけるものと期待

【概要】

国立大学法人東北大学金属材料研究所の谷口耕治准教授、宮坂等教授らは、有機・無機ハイブリッド層状ペロブスカイト型半導体にキラル分子を組み込むことで、光起電力の起源となる電位差界面(p-n接合*3のような異なる物質同士が接する界面)を必要としない光起電力効果*4(バルク光起電力効果*5を発生させることに成功しました。

有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型半導体は、近年、高効率の太陽電池材料として脚光を浴びている材料ですが、光起電力を発生させるには、他の物質と貼りあわせて、電位差を生成する界面(電位差界面)を作る必要がありました。研究グループは、有機・無機ハイブリッド型半導体の構成要素の有機分子にキラリティ*6を持たせることで、バルク光起電力効果の発生に必要な環境(反転心*7を持たない状態)を意図的に作り出すことに成功しました。今回開発した半導体では、組み込んだ分子のキラリティに依存して光起電力の符号が変わるといった、これまでのバルク光起電力材料にはない性質も観測されています。

これまでバルク光起電力効果が研究されてきた無機化合物では、反転心を持たない半導体を新たに設計することは困難なことから、本研究の「有機・無機ハイブリッド化合物にキラル分子を導入する」という手法は、バルク光起電力材料の開発に新たな道筋をつけるものと期待されます。

本研究成果は、米国化学誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に9月7日付で掲載されました。

図1.キラルな有機・無機ハイブリッド層状ペロブスカイト型半導体におけるバルク光起電力効果発生の概念図。キラルな関係にある半導体に光を照射すると、界面無しの物質単体で光起電力が発生し、電場を印加しない状態でも電流(ゼロバイアス光電流)が流れるのが観測される。

【専門用語解説】

※1 有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型半導体: 有機物と無機物から成るペロブスカイト型構造をとる半導体のこと。結晶構造は、二価金属を中心としてハロゲン原子が構成する八面体骨格が頂点共有して二次元的に広がった無機層で特徴付けられ、無機層の層数が異なる様々な類縁体(層状ペロブスカイト型構造)が知られている。有機・無機ハイブリッド層状ペロブスカイト型構造では、無機層と有機アミン分子からなる有機層が交互に積層した結晶構造となっている。A、Bを有機分子、Mを金属、Xをハロゲン元素とすると、化学式は(A)n(B)n-1MnX3n+1で表される。M = PbのAPbX3の化合物が一般に有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型半導体と呼ばれ、高効率太陽電池材料として、近年、大きな関心を集めている。

※2 キラル: 図形や物体が、その鏡像と重ね合わすことが出来ない性質をもつこと。右手と左手の関係があること。

※3 p-n接合: p型(電子の少ない)半導体とn型(電子の多い)半導体が一つの結晶内でつながった部分のこと。

※4 光起電力効果: 物質に光を照射することで電圧が発生する現象のこと。

※5 バルク光起電力: 物質そのものが持つ空間反転対称性の破れにより発生する光起電力のこと。

※6 キラリティ: 図形や物体が、その鏡像と重ね合わすことが出来ない性質のこと。掌性。

※7 反転心: 空間座標(x, y, z)を(−x, −y, −z)に変換する際の原点のこと。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

◆研究内容に関して
東北大学金属材料研究所 錯体化学物性部門 准教授
谷口 耕治 (タニグチ コウジ)
TEL:022-215-2032
Email:taniguchi*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学金属材料研究所 錯体化学物性部門 教授
宮坂 等 (ミヤサカ ヒトシ)
TEL:022-215-2030
Email:miyasaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

◆報道に関して
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
冨松(横山) 美沙
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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