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自然免疫応答分子STING活性制御機構の解明 自己炎症性疾患治療薬への応用に期待

【発表のポイント】

  • DNAウイルスに感染すると、自然免疫応答経路の1つであるSTING経路*1が活性化し、自然免疫・炎症応答が生じますが、STINGの異常な活性化はSAVI*2やCOPA異常症*3などの自己炎症性疾患を引き起こします。
  • COP-I小胞*4によるSTINGのゴルジ体から小胞体への逆行性輸送が、STING経路の不要な活性化を防いでいることを明らかにしました。
  • ウイルス感染時などに産生されるSTINGリガンドはこの機構を阻害することでSTINGのゴルジ体への蓄積を促していることを発見しました。
  • SAVIやCOPA異常症では、このSTINGの小胞体における局在の維持機構が破綻することでSTINGが恒常的に活性化してしまっていたことから、STINGの活性化阻害剤がこれらの自己炎症性疾患の治療に有用であることが期待されます。

【概要】

DNAウイルス感染すると、シグナル伝達経路であるSTING経路が活性化し、I型インターフェロン*5を誘導することで感染防御に寄与します。ウイルス感染時にSTINGが小胞体からゴルジ体へ移動して活性化する分子機構はすでに明らかとなっていましたが、ウイルス感染のない定常状態にSTING経路が活性化しないようにする分子機構は不明でした。今回、東北大学大学院生命科学研究科の向井助教・田口教授らのグループは、ウイルス感染の刺激がない状態でも、STINGが小胞体からゴルジ体へ移動しており、COP-I小胞が常にSTINGをゴルジ体から小胞体へ戻すことでSTINGの活性化を抑制する機構が存在することを明らかにしました。本研究は、定常状態でのSTINGの制御機構、及びその機構の破綻に起因する疾患の分子機構を初めて明らかにした重要な報告です。

本研究成果は、1月4日付でNature Communications誌(電子版)に掲載されました。

図1 野生型細胞と変異型α-COP発現細胞のSTINGの細胞内局在
野生型細胞ではSTING(緑)は小胞体マーカー(ER:マゼンタ)とよく共局在するが、変異型α-COP(K230N)発現細胞ではゴルジ体から小胞体への逆行性輸送が阻害され、STINGが細胞核(青)近傍のゴルジ体に蓄積している。

【用語解説】

*1 STING経路:
Stimulator of interferon genesの略。小胞体に局在する4回膜貫通型タンパク質で、細胞質DNAの出現に反応してゴルジ体へ移動し、自然免疫・炎症応答を活性化する。ゴルジ体で活性化したSTINGは、TBK1(キナーゼ)、IRF3(転写因子)をリクルートし、TBK1によってリン酸化されたIRF3がI型インターフェロンを産生する。この一連の経路をSTING経路と呼ぶ。

*2 SAVI:
STING-associated vasculopathy with onset in infancyの略称であり、STINGの点変異に起因する常染色体顕性の遺伝性自己炎症性疾患。SAVI型の恒常活性化体のSTINGが発現してしまうことで、恒常的なI型インターフェロンの産生、全身性の炎症、特に皮膚炎、間質性肺炎を呈する。

*3 COPA異常症:
COP-I複合体のαサブユニットであるα-COP(遺伝子名:COPA)の点変異に起因する常染色体顕性の遺伝性自己炎症性疾患。恒常的なI型インターフェロンの産生、間質性肺炎を呈する。

*4 COP-I小胞:
ゴルジ体から小胞体への輸送を担う輸送小胞。COP-I小胞は、7種類の異なるタンパク質サブユニット(α, β, β', γ, δ, ε, ζ)から構成されるコートタンパク質複合体が小胞を形成する。αサブユニットであるα-COP(遺伝子名:COPA)はCOPA異常症の原因遺伝子である。

*5 I型インターフェロン:
ウイルス感染時に誘導される抗ウイルス応答を担うサイトカイン。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当: 田口 友彦(たぐち ともひこ)
電話番号: 022-795-6676
Eメール: tomohiko.taguchi.b8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当: 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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