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派手な雄は何のため?〜熱帯メダカのゲノム解析が明らかにする性差の多様性の遺伝基盤〜

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:大学院生命科学研究科分子行動分野・助教・安齋 賢
研究室ウェブサイト

【概要】

クジャクの羽のようなオス特有の派手な装飾はどうやって進化してきたのでしょうか?オス特有の派手な装飾は、異性に「モテる」ため、同性を打ち負かすために進化したと考えられていますが、どのような遺伝子によって派手な装飾が生まれたのかはよくわかっていませんでした。

インドネシアのスラウェシに生息するメダカ(1)の一種、ウォウォールメダカのオスは「赤いヒレ」が特徴です。本研究では、ウォウォールメダカを用いてオスのヒレを赤くする遺伝子を特定し、赤いヒレを持つことの意義を明らかにすることに挑戦しました。

まず、近縁でオスのヒレが赤くないセレべスメダカの全ゲノム配列を決定し、ヒレが赤くなるウォウォールメダカとの違いを解析することで、csf1(2)という遺伝子がヒレを赤くする候補遺伝子であることを特定しました。ゲノム編集(3)でウォウォールメダカのcsf1を破壊するとオスのヒレの赤色がなくなりました。csf1がヒレを赤くする原因遺伝子だということがわかったのです。csf1は男性ホルモンを投与することで発現量が上昇することもわかったので、オスにのみ赤色が強く発色することを説明できました。

さらに、ゲノム編集によってヒレの赤色を失ったオスを利用して行動実験を行ったところ、メスは「ヒレが赤くないオス」にあまり惹きつけられませんでした。さらに、捕食者は「ヒレが赤くないオス」を捕まえようとしました。 他の生物種でも類似の研究を実施することで、「派手なオス」の出現という進化の謎に迫ることが期待されます。

本研究は、国立遺伝学研究所、琉球大学、東北大学、基礎生物学研究所、龍谷大学、インドネシア科学院、サム・ラトゥランギ大学の共同研究として実施されました。

図1:行動実験の結果の概要

【用語解説】

(1)メダカ(科)
ダツ目に属する小型魚のグループで、これまでに37種が報告されている。日本ではミナミメダカとキタノメダカの2種が知られているが、その他ほとんどの種は東南アジアから南アジアにかけての熱帯域に分布している。特に、赤道直下のインドネシア・スラウェシからは、世界中のメダカの半数以上に相当する21種ものメダカが報告されており、しかもそのほとんどが固有種であることから、この地域はメダカ科魚類のホットスポットとして知られている。

(2)csf1遺伝子
colony stimulating factor 1の略で、マクロファージなどの血球の分化に関わる因子として発見された。血球以外にも、骨や神経など体内の様々な組織において、細胞の分化・増殖を制御する機能を有している。魚類では、黄色・赤色色素細胞の分化に関わる因子としても知られている。

(3)ゲノム編集
任意のDNA配列を認識してゲノムを切断する酵素を利用して、標的遺伝子を思い通りに改変する技術の総称。シャルパンティエやダウドナらが開発したCRISPR/Casシステム(2020年ノーベル化学賞受賞)の登場により、広く用いられるようになった。原理上、ほぼ全ての生物に適用可能であることから、進化学や生態学で用いられる様々なモデル生物における遺伝子機能解析への応用が期待される。

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
助教 安齋 賢(あんさい さとし)
TEL: 022-217-6219
E-mail:satoshi.ansai.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院 生命科学研究科 広報室
TEL:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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