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Society 5.0実現への材料探索に!スピントロニクス材料の電子構造を可視化する新たな測定技術

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 梅津理恵
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 従来測定困難だったハーフメタル※1型磁性電子構造の可視化を新たなX線散乱観測手法により実現
  • ホイスラー合金※2がスピントロニクス※3材料として有望なハーフメタル型電子構造を示すことを実証
  • Society 5.0を加速するスピントロニクス材料研究への応用に期待

【概要】

これまで、スピントロニクス材料が実際に動作する磁場中の電子状態を直接観測することは極めて困難であることが知られていました。大阪大学大学院基礎工学研究科の藤原秀紀助教、関山明教授の研究グループは、東北大学金属材料研究所 梅津理恵教授、大阪大学産業科学研究所 菅滋正招へい教授、小口多美夫教授、黒田文彬博士、入澤明典助教、東京大学物性研究所 原田慈久教授、宮脇淳助教(現・量子化学技術研究開発機構)、日本原子力研究開発機構との大型放射光施設SPring-8※4での共同研究により、動作を想定した磁場中のスピントロニクス材料の電子構造を、磁性の起源となる電子スピン成分に分解して直接観測することに世界で初めて成功しました。

今回、藤原助教らの研究グループは、高輝度放射光軟X線を用いた共鳴非弾性散乱※5により、磁場中での磁気円偏光二色性※6を測定することで、強磁性体ホイスラー合金Co2MnSiがスピントロニクス材料の最有力候補であるハーフメタル型電子構造を有することを実証しました。この手法を用いることで系統的な材料探索に道が開かれ、Society 5.0の実現に向けたスピントロニクス材料研究の加速が大いに期待できます。

本研究成果は、Springer Nature社の「Scientific Reports」に、9月20日(月)18時(日本時間)に公開されました。

図1 RIXS-MCD実験配置とハーフメタル型Co2MnSiのRIXS-MCDスペクトル

【用語解説】

※1 ハーフメタル
金属と半導体の両方の性質を併せ持つ磁性体。その電子状態のスピンの一方(例えばup)が金属的で、もう片方(例えばdown)が半導体的である物質。ハーフメタルに流れる電流は電荷情報に加えスピン情報を併せ持つことから、スピントロニクス分野での応用が期待されています。

※2 ホイスラー合金
ホイスラー合金は3種類の元素からなり、X2YZ組成式で表される化合物を指します。構成元素を様々に組み合わせることにより、強磁性体やフェリ磁性体等の様々な特徴をもった磁性体を合成することが可能で、形状記憶合金や熱電変換材料等、様々な用途で利用できる興味深い材料として研究されています。特にCo2MnSiは非常に高いキュリー温度(〜1000 K)をもち、ハーフメタル型電子構造を持つ強磁性体として知られており、スピントロニクスデバイスへの応用が注目されています。

※3 スピントロニクス
従来の半導体エレクトロニクスで利用されている電子の電荷(電気)に加えて、電子のスピン(磁気)を利用した次世代テクノロジーのことを指します。磁気抵抗メモリ(MRAM)等に利用される技術の総称で、高度情報社会の実現や省エネルギーデバイスの新規開発への利用が期待されています。

※4 大型放射光施設SPring-8
SPring-8(Super Photon ring-8 GeV)は、兵庫県播磨科学公園都市にある理化学研究所の大型放射光施設です。世界最高性能の放射光を生み出すことができ、固体物理、素粒子実験等の基礎科学研究から、バイオ、ナノテクノロジーといった応用研究にまで幅広い研究が行われています。放射光とは、電子を相対論的速度(光速とほぼ同じ速度)まで加速し、磁石により進行方向が曲げられる際に生じる指向性の強い強力なX線を含む電磁波のことを示します。

※5 共鳴非弾性散乱
試料に特定元素の内殻吸収エネルギーに相当する光エネルギーのX線を入射することで、特定元素に由来した電子状態の情報を持つ散乱光を検出する実験手法。測定中に試料に磁場や電場をかけながら測定することが可能です。

※6 磁気円偏光二色性
磁性体に左右の異なる円偏光をもつ光を照射すると、磁性体のスピン偏極電子構造を反映して吸収係数や散乱光の振幅などの観測量に円偏光の左右で差が生まれる現象のことを指します。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 教授 梅津理恵
TEL:022-215-2199
E-mail: rie.umetsu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材・報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:imr-press*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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