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手を添えるだけでも視覚処理は促進される 手の周囲の無意識的注意効果とその利き手との関連に関する発見

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授  塩入諭
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • トップダウン注意※1を固定し、手が見えない状況で実験することで、手周囲の注意効果がそれらと異なる脳内処理によることを示しました。
  • 手周囲の注意効果が利き手と関連することも明らかにし、手周囲の注意効果が右利き被験者に特有である可能性も指摘しました。

【概要】

注意効果には意識して向けるトップダウンの注意と明るい対象など目立つ刺激に向けられるボトムアップ注意※2が知られています。それに対して、手の周りなどの刺激に対する注意効果の存在も知られていますが、トップダウン注意やボトムアップ注意との関連は不明でした。東北大学の研究グループは、手が見えない条件でも手の位置が視覚処理を促進する注意効果が生じることを明らかにしました(図1)。これは手の周辺への注意誘導が、視覚のボトムアップ信号による影響ではなく、いわゆる体性感覚情報による手の位置の情報が視覚に影響することであることを示します。また、視覚刺激の提示位置を固定しトップダウン注意が特定の場所に向けられていたことから、意識的に向ける注意とは別のメカニズムの働きであることがわかります。

さらにこの効果は、左利きよりも右利きのほうが大きいということも見出されました。また脳波を用いた注意効果の計測から、左利き被験者の手の周辺の注意効果はトップダウン注意と関連している可能性があることも示されました。利き手の個人差については様々な議論がありその原因はわかっていません。利き手と身体性注意※3の脳機能との関連を指摘した点でも興味ある研究成果と言えます。

 今回発表の論文は2022年2月7日、オープンアクセス科学誌「Cerebral Cortex Communication」に掲載されました。

図1 (左) 鏡を解してディスプレイを観察することで、手を見えない状況で手の位置の効果を計測するための刺激。対象とする視覚刺激位置に手がある場合(Near)と反対側にある時(Far)の視覚処理を比較することで、体性感覚による手の位置が視覚処理の促進効果を計測できる。(右)フラッシュラグ効果※4と呼ばれる現象によって注意効果を測定した結果(フラッシュラグ効果は、注意位置で減少する)。Near条件では Far条件に比べてフラッシュラグ効果が小さいことが示された。手の位置が視覚処理を促進するといえ、この効果はいずれの手であるか、左右いずれの位置であるかによらずに生じることもわかる。

【用語解説】

※1 トップダウン注意:視線を正面に向けながら視野の片隅でものをみることができます。そのときには視線と独立に意識的に注意を向ける対象を決め、その位置での情報処理を選択的に促進していると考えられています。視線を固定していても、注意を向けた位置に提示された視覚情報はそれ以外の位置に提示された場合に比べて、処理が早く正確であり、また見落とすことが少ないことが知られています。

※2 ボトムアップ注意:視野内に突然光るものが現れた場合に、そこに注意が引きつけられます。そのような場合には、視線も向けられますが、視線が固定されている場合でもその効果があることは実験的に示されています。また、視線移動がある場合も注意効果はそれに先立って生じていることもわかっています。

※3 身体性注意:身体近傍の刺激に対する処理の促進効果。例えば視覚刺激の検出にかかる応答時間を計測する課題に対して、手が視覚提示画面に近づける場合、膝の上に置いた場合より短時間で検出できるなどの実験結果が示されています。

※4 フラッシュラグ効果:運動刺激に隣接する位置に短時間呈示された刺激(フラッシュ刺激)が、運動刺激に対して遅れた位置に知覚される現象であり、注意を向けることによって効果が減少することから、注意の計測に利用できることも知られています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所 教授 塩入 諭
TEL:022-217-5468
E-mail: satoshi.shioiri.b5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL:022-217-5420
E-mail: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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