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クォーク物質を重力波で探る -中性子星合体後の重力波から超高密度物質の痕跡を読み取る-

【本学研究者情報】

大学院理学研究科 物理学専攻
助教 富樫 甫(とがしはじめ)
准教授 古城 徹(こじょうとおる)
研究室ウェブサイト

【概要】

理化学研究所(理研)数理創造プログラムのホワン・ヨングジア研修生、開拓研究本部長瀧天体ビッグバン研究室の長瀧重博主任研究員(理研数理創造プログラム副プログラムディレクター)、大阪大学インターナショナルカレッジのバイオッティ・ルカ准教授、東北大学大学院理学研究科の古城徹准教授らの国際共同研究グループは、連星中性子星[1]の合体に対して一般相対性理論[2]に基づいた数値シミュレーションを行い、合体後に放出される重力波[3]の波形から1cm3当たり1兆kgを超える超高密度物質の性質が詳細に読み取れることを示しました。

本研究成果は、重力波天文学において、中性子星の内部構造や超高密度物質の性質の解明に貢献すると期待できます。

中性子星の中心部のような超高圧下では、中性子や陽子からなるハドロン物質[4]が徐々に融解することで、素粒子からなる新物質(クォーク物質[5])が連続的に現れるとする「ハドロン−クォーク連続性[6]」という理論予想があります。

今回、国際共同研究グループはこの理論予想に基づき、連星中性子星合体の一般相対論に基づいた数値シミュレーションを世界で初めて実行し、合体後高速回転する中性子星から放出される重力波を詳細に解析しました。合体後の超高圧状態が(1)ハドロン物質のままとどまる、(2)ハドロン物質が一次相転移[7]を経て、クォーク物質が突然現れる、(3)ハドロン物質が徐々にクォーク物質に変化する、という3パターンのシミュレーション結果には、高速回転運動を特徴付ける重力波の周波数に明らかな違いが出ることを突き止めました。

本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(10月26日付:日本時間10月27日)に掲載されました。

図1 ハドロン−クォーク連続性の概念図
低密度(低圧力)下では、クォーク(赤・青・緑の丸)は陽子や中性子(点線で囲まれたハドロン)中に閉じ込められているが、高密度(高圧力)下では、クォークがハドロンから徐々にしみ出して、最終的にはクォーク物質に変わる。

【用語解説】


[1] 連星中性子星
中性子星は、太陽の1~2倍程度の質量を持つにもかかわらず、その半径が10km程度の高密度星である。その中心部は、1cm3あたり1兆kgを超える超高密度状態であると考えられている。このような中性子星二つが互いの重力により結合したものが連星中性子星で、電波観測などによって銀河系内にも20個程度の中性子星が発見されている。

[2] 一般相対性理論
アインシュタインが1915年に発表した重力理論。重力相互作用を時間や空間(あわせて時空と呼ばれる)のひずみとして取り扱う。ビッグバン宇宙やブラックホール、中性子星などの説明に不可欠の理論である。

[3] 重力波
時空のひずみが波として伝わる現象。アインシュタインが一般相対性理論を発表した直後に予言し、約100年後の2015年にブラックホールの合体からの放出が観測され、その存在が直接的に証明された。

[4] ハドロン物質
私たちの体を構成する原子は、中心にある原子核とそのまわりを取り囲む電子から構成されている。原子核は陽子、中性子、中間子からなり、これら三つあるいは二つのクォークが結合してできる粒子を総称してハドロンと呼ぶ。陽子、中性子、π中間子などは、アップクォークとダウンクォークでできたハドロンの典型例であるが、他にもさまざまなハドロンが存在する。これらのハドロンが多数集まってできた物質をハドロン物質と呼ぶ。中性子星の表面から地下数kmまでは、ハドロン物質でできていると考えられている。

[5] クォーク物質
クォークは物質を構成する最も基本的な素粒子で、質量の軽い順にアップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類がある。中性子星の中心部のような超高圧下では、通常の物質が融解してクォークからできた新物質(クォーク物質)が出現すると理論的に予想されている。このクォーク物質は、カラー超伝導と呼ばれる状態になっている可能性があるが、その性質は未解明である。

[6] ハドロン−クォーク連続性
ハドロン物質に圧力をかけると、徐々にクォークがしみ出してきて、超高密度でクォーク物質に連続的に変化するという予想。

[7] 一次相転移
大気圧下で氷に熱を加えると、0℃で氷から水へ、さらに100℃で水から水蒸気に変化する。このような状態変化(相転移)が起こるとき、温度を変えずに熱の吸収や放出が起こる場合を一次相転移と呼ぶ。従来、ハドロン物質からクォーク物質への状態変化は一次相転移であると考えられてきた。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究内容に関すること>
東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻 
量子基礎物理学講座 原子核理論分野
准教授 古城 徹 (コジョウ・トオル)
Tel: 027-795-3687
Email: toru.kojo.b1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
Tel: 022-795-6708
E-mail: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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