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転写因子Nrf2による糖尿病性腎臓障害の保護作用 〜ストレス応答性転写因子Nrf2と糖尿病性腎臓病〜

【本学研究者情報】

〇東北メディカル・メガバンク機構バイオマーカー探索分野 准教授 宇留野晃
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 自然発症糖尿病モデルマウスであるAkitaマウス※1と、転写因子Nrf2※2の遺伝子ノックアウトマウス※3を組み合わせた複合変異マウスの腎臓では、酸化ストレス、炎症、線維化が増加していることがわかりました。
  • Nrf2遺伝子ノックアウトAkitaマウスでは、血液中で尿毒症物質が増加し、腎臓の糸球体※4や尿細管※5が障害を受けるなど、糖尿病で引き起こる変化が悪化していることが明らかになりました。
  • Keap1※6の遺伝子改変によるNrf2活性化マウスとAkitaマウスを組み合わせた複合変異マウスの腎臓では、尿細管の変化が抑制されていました。Nrf2は糖尿病で引き起こる障害から腎臓を保護していることが明らかになりました。

【概要】

糖尿病性腎臓病※7は重症化すると血液透析導入の可能性もある重要な疾患ですが、進行を抑える治療が主流で本質的な治療法は存在しません。糖尿病では、酸化ストレスや炎症を原因とする腎臓の障害が知られています。Nrf2は、酸化ストレスを消去する因子の発現量を増加させ、炎症を引き起こす因子の発現量を低下させます。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構の宇留野晃准教授らのグループは、糖尿病モデルAkitaマウスとNrf2の遺伝子ノックアウトマウスを組み合わせた複合変異マウスの腎臓では、腎臓の糸球体の毛細血管および酸化ストレスが増加した尿細管が拡大し、血液中の尿毒症物質の濃度が上昇することを発見しました。AkitaマウスでNrf2を活性化すると、尿細管での円柱※8の形成が軽減することがわかりました。

現在、糖尿病性腎臓病に対する治療薬として、Nrf2を活性化する薬剤の臨床試験が進められています。本研究で得られた知見を利用することで、糖尿病性腎臓病の新しい治療法の開発が加速することが期待されます。この成果は、学術誌Redox Biologyオンライン版で2022年11月3日に公開されました。

【図1】 腎臓における抗酸化分子グルタチオンの分布
質量分析イメージングによる、抗酸化分子グルタチオンの分布。糖尿病モデルであるAkitaマウスでは、腎臓の表面に近い皮質と呼ばれる領域でグルタチオンが多く分布していたが、Nrf2ノックアウトAkitaマウスでは、腎臓全体でグルタチオンが低下していた。

【用語解説】

※1 Akitaマウス
インスリン遺伝子の自然変異による糖尿病モデルマウスで、糖尿病の合併症の研究に有用なモデルである。

※2 転写因子Nrf2
転写因子とはDNA に結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質の総称。転写因子Nrf2は、酸化ストレスなどのストレスに応答して活性化し、酸化ストレスを軽減する酵素の遺伝子発現を増加させ、炎症を引き起こす因子の遺伝子発現を低下させることで、細胞をストレスから保護する働きを担っている。

※3 遺伝子ノックアウトマウス
遺伝子工学手法を用いて、染色体の遺伝子座に変異を導入して、特定の遺伝子を無効化した遺伝子改変マウス。遺伝子産物の機能を調べるために重要なモデル動物である。

※4 糸球体
腎臓で血液から老廃物をろ過する役割を持つ毛細血管の集まった球状の構造体。

※5 尿細管
糸球体でろ過された原尿から、必要な成分を再び血液中に吸収することで尿と血液の調節を行う、管腔状の構造体。

※6 Keap1
転写因子Nrf2に結合するタンパク質。Keap1に含まれるシステインというアミノ酸が酸化ストレスのセンターとして機能し、さらにNrf2のタンパク質の分解を調節するためのアダプターとして機能してその活性を調節している。

※7 糖尿病性腎臓病
典型的な糖尿病性腎症に加え,顕性アルブミン尿を伴わないまま糸球体濾過量が低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む疾患。

※8 円柱
腎臓の尿細管で、尿細管内容物が尿細管腔を鋳型として固まったもの。さまざまな腎臓の障害で発生する。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究内容に関すること>
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構機構長
東北大学 大学院医学系研究科 医化学分野
教授 山本 雅之(やまもと まさゆき)
電話番号:022-717-8084
Eメール:masiyamamoto*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
ゲノム解析部門
准教授 宇留野 晃(うるの あきら)
電話番号:022-273-6210
Eメール:uruno*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道担当>
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
広報・企画部門
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
FAX:022-717-7923
Eメール:pr*megabank.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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