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確率動作スピン素子を用いた高性能・省電力「P」コンピューターを実証 ~機械学習や組合せ最適化に適した高い演算性能と電力効率が明らかに~

【本学研究者情報】

電気通信研究所 教授 深見俊輔
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 確率的に動作する新規スピン素子とプログラマブル半導体(FPGA)を用いて、量子コンピューター(注1)に似た機能を持ち、室温で複雑な問題を省電力で高速に解くコンピューター - 確率論的(「P」)コンピューター(注2) - を構築。
  • 開発したPコンピューターで組合せ最適化問題などを例にその性能を評価。
  • 古典コンピューターで確率的な演算を行う場合と比べて約5桁高い演算性能と約1桁低い消費電力を実現できることが明らかに。

【概要】

東北大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(アメリカ)、メッシーナ大学(イタリア)の研究チームは、機械学習や組合せ最適化などの用途で威力を発揮する確率論的(「P」)コンピューターを開発し、優れた演算性能と電力効率を明らかにしました。

人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)(注3)の進展に伴いコンピューターに要求される演算性能は飛躍的に増大しており、一方で昨今の社会情勢の中ではコンピューターの省電力化もまた重要な課題です。これら要求の全てを従来型(古典)コンピューターで対応するのは難しく、古典コンピューターが苦手とする問題に特化した新概念コンピューターの研究開発が活発に行われています。

今回研究チームは、機械学習や組合せ最適化などを高速かつ省電力で解く「Pコンピューター」を、自然の熱で状態が確率的に変化する新規スピン素子とプログラム可能半導体回路(Field Programmable Gate Array; FPGA)(注4)を用いて構築し、その性能を評価しました。組合せ最適化を例に、古典コンピューターで確率的アルゴリズムを実行した場合と比較し、Pコンピューターは約5桁高い演算性能と約1桁低い消費電力を実現できることを明らかにしました。

今後本技術を発展させることで、低炭素社会の実現に向け需要が高まっている、エッジで複雑性の高い問題を省電力で処理する情報機器などの実現に繋がるものと期待されます。

本研究成果は、2022年12月3-7日(米国時間)にアメリカで開催される学術会議 「International Electron Devices Meeting: IEDM」で発表されました。

図1 構築した確率動作スピントロニクス素子からなる確率ビットとFPGAからなる確率論的コンピューター(Pコンピューター)の写真

【用語解説】

注1.量子コンピューター
量子力学的な0状態の1状態の重ね合わせが可能な量子ビット(Qビット)が情報の基本単位となるコンピューター。Qビット間でのもつれ合い(相関状態) によって複数の状態を同時にとることができる点で古典的なビットとは異なっており、これによって高速な計算ができると期待されている。1981年にリチャード・ファインマンが行った講演において、自然界の量子力学的に記述される現象を効率的に計算する仕組みとして紹介されている。

注2.確率論的コンピューター
短時間で出力信号が0と1の間で確率的に変化し、かつ各ビットを電気的に相関させられる確率ビット(Pビット)が情報処理の基本単位となるコンピューター。0と1の重ね合わせ状態を持ち、かつビット間でもつれあい(相関状態)を形成できる量子ビット(Qビット)とは本質的に異なるが、一定の類似性があることから、量子コンピューターと並んで新概念コンピューターの一つとして注目されている。注1の1981年にリチャード・ファインマンが行った講演において、量子コンピューターと並んで、確率的な自然現象を効率的に計算する仕組みとして紹介されている。

注3.デジタルトランスフォーメーション(DX)
企業や社会が人工知能やインターネット上のビッグデータ等のデジタル技術を活用し、生活の利便性の向上や業務効率化を図ること。

注4.プログラム可能半導体回路(Field Programmable Gate Array; FPGA)
ユーザーが現場(Field)で論理回路の機能をプログラムできる論理集積回路。パソコンの頭脳であるCPU(Central Processing Unit)と比べると、汎用性では劣るものの、論理回路の構成を変えられることから、ユーザーがプログラムした計算を行う速度は速くなる。一方、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)と比べると、速度では劣るものの、ユーザーが機能を書き換えられ汎用性が高いという特徴がある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)

東北大学電気通信研究所
教授 深見 俊輔
電話 022-217-5555
E-mail s-fukami*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所
総務係
電話 022-217-5420
E-mail riec-somu*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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