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カゴメ格子物質で実現する不純物に強い非従来型超伝導

【本学研究者情報】

大学院理学研究科物理学専攻 准教授 水上雄太
研究者ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 2020年に発見されたカゴメ格子構造を持つ超伝導体CsV3Sb5において、不純物に強い新しいタイプの非従来型超伝導が実現していることを明らかにしました。
  • 不純物量を系統的に変えた実験により、本カゴメ格子物質の超伝導が、超伝導転移温度より高温で現れるボンド秩序(電荷秩序)の揺らぎによって生じていることを示しました。
  • 本研究結果は、カゴメ格子物質で期待される特異な電子状態や超伝導状態を理解する上で重要な知見となることが期待されます。

【概要】
 東京大学大学院新領域創成科学研究科の六本木雅生大学院生、石原滉大助教、水上雄太助教 (研究当時、現在東北大学大学院理学研究科准教授)、橋本顕一郎准教授、芝内孝禎教授、同物性研究所の上床美也教授らは、仏エコール・ポリテクニークおよび米カリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同で、二次元カゴメ格子構造を持つ新規超伝導体CsV3Sb5において、不純物に強い非従来型超伝導(注1)が実現していることを明らかにしました。カゴメ格子とは、籠の網の目の模様を意味する「籠目」状に原子が配列した状態のことを指します。カゴメ格子構造を持つ金属物質では特殊な電子状態や超伝導状態が期待されていますが、多くの場合、カゴメ格子構造を持つ物質は絶縁体でした。ところが最近、完全なカゴメ格子をもつ超伝導体CsV3Sb5が発見され、大きな注目を集めています。この物質では、超伝導転移温度より高い温度領域において、電子の飛び移りやすさがある特定のパターンをもつボンド秩序(電荷秩序、注2)と呼ばれる状態が実現しており、超伝導との関係が指摘されていました。

 今回、不純物が超伝導状態に与える影響を系統的に調べたところ、他の非従来型超伝導体では観測されていない、不純物に対して強固な超伝導が実現していることが分かりました。この結果は、本物質において、ボンド秩序に関連した新しいメカニズムによって非従来型の超伝導が実現していることを示しており、今後、カゴメ格子物質で期待される特異な電子状態や超伝導状態を理解する上で重要な知見となることが期待されます。

 本研究成果は202327日付けで、英国科学誌 Nature Communications にオンライン掲載されました。

カゴメ格子超伝導体CsV3Sb5で実現するボンド揺らぎによる新規超伝導状態

【用語解説】

(注1)非従来型超伝導
金属をある温度まで冷やしたときに、電気抵抗がゼロになる現象を超伝導という。超伝導は多くの金属で見られる普遍的な相転移現象であり、そのほとんどは絶対零度(約マイナス273℃)付近の低温で、2つの電子が格子の揺らぎによってペアを形成することで生じる(注3参照)。一方で、一部の超伝導体では、格子揺らぎとは異なる揺らぎによって超伝導電子ペアが形成され、非従来型の超伝導を示す。非従来型超伝導体の代表例である銅酸化物超伝導体は、液体窒素温度(マイナス196℃)よりも高い温度で超伝導が発現するため、高温超伝導体と呼ばれる。

(注2)ボンド秩序(電荷秩序)
電子が隣接する原子間を飛び移る大きさに偏りが生じ、空間的に増減のパターンが形成される状態のことを指す。CsV3Sb5では、超伝導転移温度より高温において、電子が密になっている部分と疎になっている部分が周期的に空間変化する電荷秩序と呼ばれる状態が実現しており、ボンド秩序が電荷秩序の起源である可能性が提案されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科 物理学専攻
准教授 水上 雄太(みずかみ ゆうた)
電話 022-795- 6476
E-mail: mizukami*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)


(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL 022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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