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巨大な磁気抵抗を示す磁性材料を発見 ~トンネル磁気抵抗素子材料の開発に新しい展開 ~

【本学研究者情報】

〇材料科学高等研究所/先端スピントロニクス研究開発センター 教授 水上成美
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 準安定(注1)な体心立方結晶構造(注2)コバルト中のマンガン元素が示す強い磁気的性質に着目しました。
  • 産業に親和するスパッタ法(注3)ならびに加熱プロセスで高い特性を示す材料素子を作製することに成功しました。
  • 半導体と磁気抵抗素子が融合した不揮発性磁気抵抗メモリの素子開発に新しい展開が生まれると期待されます。

【概要】

現在、膨大なデジタル情報を効率よく処理するソフト・ハードウエアの開発や、スマート社会を実現するセンサーの開発が大きな社会的要請となっています。トンネル磁気抵抗素子は、不揮発性メモリの一種である磁気抵抗メモリ(MRAM)や磁気センサーの主要素子として、国内外の大学や研究機関、企業で研究開発が精力的に行われています。

東北大学材料科学高等研究所の一ノ瀬智浩研究員(研究当時、現・産業技術総合研究所 研究員)と水上成美教授は、巨大なトンネル磁気抵抗効果(注4)を示す準安定な磁性材料を発見しました。素子材料開発に新しい指針を与える成果です。

本研究では、準安定な体心立方結晶構造コバルト中のマンガン元素が示す強い磁気的性質に着目し、データ科学等ハイスループット材料探索手法も援用しつつ、産業に親和するスパッタ法ならびに加熱プロセスで高い磁気抵抗特性を示す材料素子を作製することに成功しました。開発した材料素子は室温で350%、5ケルビンにおいて素子抵抗が1000%以上の巨大なトンネル磁気抵抗効果を示すことが明らかとなりました。これまでのトンネル磁気抵抗素子の研究開発では、熱力学的に安定な体心立方結晶構造を有する鉄系合金が主に用いられてきました。本成果は、従来の材料開発とは一線を画する新しい方向性を示すものです。今後数年の研究を経たのちに社会実装を目指した取り組みを推進します。

本研究は2023年5月29日に材料科学の学術誌Journal of Alloys and Compoundsの電子版に掲載されました。

図1. (a) トンネル磁気抵抗素子と磁気抵抗の模式図。(b) 本研究で研究された準安定体心立方構造コバルトマンガン系合金の結晶の模式図。 (c) コバルトマンガン系合金の熱力学的安定相の一つである面心立方構造の模式図

【用語解説】

注1. 準安定
熱力学的に真の安定状態ではないものの、大きな擾乱がない限り安定に存在できるような状態を指します。

注2. 体心立方結晶構造
結晶構造の一種で、立方体の8個の頂点と立方体の中心に各々一ヶ原子が配置されている結晶格子構造です。

注3. スパッタ法
薄膜や薄膜を積層した多層膜構造を作製するときの作製手法の一つで、磁性材料薄膜等からなるデバイスの大量生産等に用いられています。

注4. トンネル磁気抵抗効果
磁性体/絶縁体/磁性体の三層からなる素子。各層の厚みは1~数十ナノメートル。磁性体は導体で、磁性体間に電圧を加えると、量子力学的な現象である電子のトンネル効果により絶縁体の中を電流が流れます。その際、一般に二つの磁性体の磁化の向き(NあるいはS極)が平行の時は電流が流れやすく、反平行な場合は電流が流れにくい、つまり素子の電気抵抗が磁化の方向で変化します。この物理現象はトンネル磁気抵抗効果と呼ばれます。1995年に室温で比較的大きな磁気抵抗比が東北大学ならびに米国MITで独立に発見され、現在に至るまでのトンネル磁気抵抗素子の研究開発が続いています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 水上成美
TEL: 022-217-6003
E-mail:shigemi.mizukami.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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