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 本日ここに学士の学位を授与された二一名の諸君、修士の学位を授与された六一名の諸君、専門職の学位を授与された八名の諸君、そして博士の学位を授与された一三三名の諸君に、東北大学を代表して心よりお祝い申し上げます。また、留学生の諸君においては、言葉、文化、習慣などの壁を克服し、学位を取得された今日までの努力に対して深く敬意を表します。そして、今日の日に至るまで諸君を支えて下さった方々、特に、諸君のご両親に、また結婚しておられる方にはそのご家族の方々にも、心よりお祝い申し上げます。

東北大学は明治四〇年(一九〇七年)の建学以来、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念を掲げて、研究の成果を人類社会が直面する諸問題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献してきました。

 その歴史は、東北大学に関わる人々のたゆまぬ挑戦の歴史でもあります。

本日ここに学位を授与された諸君は、このような本学で、それぞれの専門分野において深い研鑽を積み、高い学識を修得し、東北大学で育まれた「Challenge(挑戦)」、「Creation(創造)」、「Innovation(革新)」という三つのキーワードを基軸に行動する研究マインドをもって、物事を本質的に、そして総合的に捉えるアプローチの方法を学びました。これからは社会の中で、あるいは大学等の研究機関において、より広範で深い学識、より高い総合力、そしてよりスピードある行動が求められることでしょう。また、知的好奇心をバネとしながら、常に地球社会のありようと人類の未来を見据える見識も求められることでしょう。

 

 国のボーダーレス化が進む国際社会にあって、人類は環境問題、エネルギー問題、少子化問題、高齢化問題、医療問題、食糧問題など、空前のスケールで展開する深刻な課題に直面しています。本学で学んだ諸君には、どのような進路を進むにしても、東北大学で学んだことに確信をもち、この私たちの社会が多くの課題を抱えていることを忘れないでいただきたい。そして人類はこれからどんな地球社会を築くのか、その社会において諸君はどんな挑戦を続けていくのかを常に念頭において、グローバルな事象で揺れ動くそれぞれの活動の場で、その探究の最前線を担っていただきたい、そう願っております。

 そうした諸君に、私は特に伝えたい二つのことを、この新たな門出のお祝いの言葉として贈ることにします。

 私が贈りたい第一のメッセージは、「「なぜ?」という疑問に挑み続けよう!」ということです。

 「過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望を抱け。大切なことは、何も疑問を持たない状態に陥らないことである。」相対性理論の生みの親、アルバート・アイシュタインの言葉です。アインシュタインは自分自身に対して、そして自分の目の前にある自然現象に対して、「なぜ?」という探究を繰り返すうちに、物質、エネルギー、光、相互作用、空間、時間などに対するイメージがひらめき、それを理論で解き明かしたのです。彼は歴史上において最も天才という称号が似合う科学者かもしれません。しかし、「科学する心」は誰にとっても同じです。大事なのは、不思議を素直に見つめ、なぜだろうかと思考実験することです。日常の多くの場面では「これはこういうものだ」と疑うことなく判断しがちです。しかし、こうだと決められていることをそのまま受け入れていては、新しい発想は生まれません。なぜそうなのか、日常の中で起きる疑問を少しでも遡って思考実験することが大切です。それが日常生活の中の「科学する心」なのです。

 さらに大事なことは、表面的なものにとらわれず、その背後にある本質を見抜く力、深い洞察力です。単に現象を表面的に見るのでなく、その本質をイメージし、そこからその現象を捉えるようにしてください。そうすれば、環境や条件が変わった時でも、その本質イメージに沿って自分で自律的に答えを導き出せるのです。もちろん時にはイメージから演繹したものと異なる結果が現れることもあります。「それもなぜ?」という疑問を持って考えることにより、直観と思考との間で新しい本質イメージがひらめいて、独創的な創造へと発展していくのです。

 第二のメッセージは、「出る杭になって打たれよう!」ということです。

 昔から「出る杭は打たれる」と言われますが、国家あるいは分野の垣根が崩れるボーダーレスの時代には、自由闊達な起業家精神に満ちた「出る杭」が求められます。

「出る杭」になるにはエネルギーが必要です。エネルギーの源泉は強い意志力です。はみ出ることがあっても、失敗することがあっても、志を高く、夢と倫理観をもって、ゴールに向かって突進していただきたい。私にとっての最大の誇りも失敗しないことではなく、倒れるごとに起き上がることにあります。何かあることを試み、そして失敗する人間の方が、何にもしないで成功する人間よりどれだけ良いかわかりません。故事ことわざに「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があります。解釈はいろいろありますが、爪を出さなければならない場面なのに「能ある鷹は爪を隠す」のままでは困ります。むしろ「出すぎた杭になって叩かれない」くらいのマインドをもって行動を起こしていただきたい。

 もちろん「出る杭」もむやみに出ろということではありません。激しい時代の変化に柔軟に対応して、自らが変化をつくり出すために「出る杭」として行動するのです。そして、トライアンドエラーを繰り返すスピードをもって行動することで、溢れる未来を創造する担い手となることができるのです。

自分の選んだ道を信じ、前向きに挑戦を続け、ゴールへたどりつくまで一ミリずつでも進んでゆく。そんな思いが明日への扉を開けていくものと信じます。未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことにあるのです。

 第一は、「なぜ?」という疑問に挑み続けること。

 第二は、出過ぎた杭になるくらいの行動力を発揮すること。

 先輩たちが築いてきた社会、その社会を起業家精神に満ちた行動によって時代の変化に応じたものに変革し、それを次の世代に継承することを、バトンを受け継いだ諸君に大いに期待いたします。

 これが本日ここに学位記授与式を迎えた諸君に対する、私からのお祝いのメッセージです。

 私たち東北大学は、「世界リーディング・ユニバーシティ」を目指して、人類社会の様々な課題に挑戦していくことにより、社会から信頼、尊敬、そして愛情を受けられる大学として、人類社会の発展に貢献できるものと信じます。また同時に、東北大学は、諸君のこれからの人生にとっていつまでも有意義な存在であり続けたいと思います。東北大学は世界各国からの学生が学ぶ大学です。この大学で培った国際的ネットワークと友情は諸君の大切な財産となるでしょう。留学生の諸君には、日本を、そしてこの東北大学を第二のふるさととして、母国と日本との、そして東北大学との架け橋となっていただきたいと思います。

 本日の学位記授与式には多くの留学生の諸君がいますので、ここで簡潔に英語で送別の言葉を述べたいと思います。

Now, I would like to switch my speech from Japanese to English, because wehave many international students. So I would like to talk directly to them inEnglish.

I, as president of Tohoku University, sincerely hope that your experiences and achievements in Tohoku University shall help you contribute to the development of your countries and to the world peace through your forthcoming activities. Finally, I wish to reiterate my hearty congratulation to all of you, and wish you every success in your future endeavors.Thank you very much.

最後にここに一堂に集われた諸君一人ひとりが、学問に対し、そして東北大学に対しいつまでも変わらぬ愛をもち、不断の努力を惜しむことなく、未来を見つめ、新たな世界の扉を開かれることを心から祈念して、私の式辞の結びといたします。

   

平成21年9月25日 東北大学総長 井上 明久

(於:川内萩ホール)

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