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平成25年4月東北大学入学式式辞

東北大学へ入学した皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生2,581名、大学院生2,418名、合計4,999名の新入生の皆さんを迎え、平成25年度の入学式を挙行いたしますことは、私ども東北大学一同にとり、最も歓びとするところであります。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を今日まで支えてこられたご家族や関係者の皆様に対し心より祝意を表します。そして、皆さんには、これまで献身的に支えてくださったご家族や関係者に対する感謝をどうか忘れないでいただきたいと思います。

最初に東北大学がどのような大学であるかお話をいたします。東北大学は、江戸時代中期の1736年に仙台藩の藩校として設置された「明倫養賢堂」を前身とし、1907年(明治40年)に、日本で3番目の帝国大学として建学されました。本学は建学当初から時代のフロントランナーとして、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神をもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会を実現することをその使命としてきました。東北大学は現在、10の学部と16の大学院研究科、3つの専門職大学院、そして6つの附置研究所を備え、これらが教育研究活動の中心的存在となっています。
  皆さんがこれから生活する仙台の地は、約400年前に伊達政宗がつくりあげた城下町で、四季の気配を色濃く映す‘杜の都’と呼ばれています。杜の緑に包まれた静かで美しい環境の中にある本学は、皆さんにとって新しい価値観や可能性を創出し、世界へ飛翔していく学び舎としての理想的な条件を備えているものと、私たちは自負しています。

東日本大震災の惨禍から2年余の歳月が流れました。東北大学は、歴史上かつてない世界的災害を現場体験した唯一無二の総合大学として、東北地方の再興・わが国の再生の先導となる使命があります。現在、震災直後に設置した東北大学災害復興新生研究機構の下に、災害科学国際研究推進、地域医療再構築、環境エネルギー、情報通信再構築、東北マリンサイエンス、放射性物資汚染対策、地域産業復興支援、復興産学連携推進の8つのプロジェクトと、100を超える復興アクションが順調に実施されています。学内の復旧もおおよそ目処が立ちました。しかしながら東北全体に目を転じますと、大震災後の復旧は遅々とした歩みのままです。私たちは、あの3月11日に感じた思いを風化させることなく、後世に奇跡の復興・再生と呼ばれるような未来を創造すべく、悲しみを希望の光に変える活動に総力を挙げていかなければいけません。本学に入学された皆さんには、大震災の同じ時代を生きたものとして、私たちと一緒に様々な課題を解決してくれることを期待しています。自分に一体何ができるかを考え、あるいは行動しながら、これからの学生生活を送っていただきたいと願っています。

科学技術の進歩は人類社会に大きな恩恵をもたらしました。しかしながらその一方で、経済危機、環境破壊、エネルギー問題をはじめ様々な問題が、地球規模の課題として私たちの眼前にあります。さらに、科学技術の進歩による恩恵が、健全な常識や批判精神など人の考える力・精神を荒廃させつつあるように思います。このような状況の中で大学に求められているのは、新しい発見や発明、科学技術の開発に向かう「知」だけではなく、現代社会の抱える矛盾を総合的に結びつけ、持続可能な安定した秩序を創出する新しい「知」の在り方を創造することにあると思います。これからの大学は、人類の未来に向き合うために、人類がこれまで積み上げてきた哲学、科学技術、政治の役割の基本に立ち返り、現代文明の持続的発展、そして人類の生存のために科学技術をいかに発展させるかを考える場として、また、そのような地球規模の視野で地球社会の未来を思索できるリーダーを育てる場として再構築されなければなりません。皆さんにはこれから新しい知の在り方、新しい世界観を模索する、困難な時代を生きていく覚悟が必要になります。

私は総長として、皆さんがこの未知なる模索の時代へ新しい一歩を踏み出すに当たり、どういった助言を差し上げるか思案せずにはいられませんでした。本日は次の3つのことを強く期待したいと思います。

第一は、卓越性という理想を思い切り追求することです。
 卓越性の追求とは、知的活動、実践的活動を問わず、卓越した存在になろうとする試みです。エリート主義や傲慢さを推奨するものとは異なります。卓越性の追求は、自らをあらゆる面で不断に鍛え、自らの可能性を大きくすることに人一倍努力することと不可分の行為なのです。大学の歴史から振り返ると、現在の大学の基礎は、約900年前の中世ヨーロッパにあります。学生の自治組織として誕生した大学が中世のヨーロッパ各地で次々と創設され、ボローニャ、パリ、ケンブリッジ、オックスフォードなどがその歴史を刻み始めました。中世の大学では、学生はまず哲学部で三学(文法、論理、修辞)と四科(算術、幾何、天文、音楽)の自由七科(リベラルアーツ)を修めて学士の学位を得、更に修士、博士に進学して神学、法学、医学、学芸のいずれかを専門的に学びました。そして、歴史的に優秀な人材を多数輩出してきた大学では、リベラルアーツを重視することはもとより、大学が国という枠組みを超えた人類社会の共通資本であるという自覚を持ち、「卓越性の追求」という伝統を継承して、新しい人類的価値の創造を目指した教育研究を展開してきました。これからも大学は人類社会への貢献という強固な意志を大学構成員が共有して、学生が科学的な考え方を学ぶ訓練の場として機能し続ける必要があります。
 卓越性という理想は遠くにあるものですが、人間の行動力の原動力であり、その理想なき者には、未来を語り、未来に挑戦する資格はありません。皆さんには卓越性という理想をねばり強く追求してもらいたいと思います。

第二は、積極的に対話を楽しむことです。
 元来大学では、教員と学生の対話が重視されてきたという長い歴史があります。先日東北大学で開催した「マイケル・サンデルの白熱教室」も、その対話の重視の形の一つといえます。皆さんの未来には、無限の可能性が広がっています。本学は、様々な分野でグローバルに活躍する教育と研究に高い理想と情熱を持った教員を多数擁しています。本学の教員は、このキャンパスで、歴史と伝統、そして使命を共有することにより、皆さんを心から応援したいと考えています。皆さんが抱いた関心や疑問を躊躇することなく教員にぶつけてください。あるいは教員に容赦なく挑戦してください。論語の中に「良師益友」という言葉があります。優れた師匠と、ためになる友達という意味です。皆さんがこの緑豊かなキャンパスで、生涯の「良師」、「益友」と出会い、たくましく成長されることを期待しています。

第三に、海外武者修行へ出かけていくことです。
 東北大学は、100年余も前から世界に開かれたグローバルな大学として、常に新たな時代を切り拓いてきました。教育研究活動の国際的な舞台は、海外のみに存在しているのではありません。東北大学のキャンパスも小さな国際社会であり、日本各地はもとより、世界各国から学生が集まっているのが大きな特徴です。留学生数は国立大学の中ではトップクラスであり、本学はグローバル30と呼ばれる国際化拠点推進事業の拠点校として、国際色豊かな大学、多様な価値観を尊重する大学、男女共同参画を推進する大学として更なる発展を続けます。
 また、本年度より、リーディング大学院とともに、グローバル人材育成推進事業が本格的にスタートします。これは、日本人学生の留学を促進するための環境整備など、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図る取組を推進することにより、我が国の成長を牽引する役割を担うものです。グローバル社会では、世界を見渡す視野を持って取り組まなければ、地球規模で持続可能な世界を目指すことはできません。利害・対立を超えた他者の価値観の尊重、内発的な自律性の強化、柔軟な合意形成とともに、国際社会における信頼関係の構築も求められます。東北大学は、積極的に海外武者修行へ出かける皆さんを応援していきます。

さて、本日の入学式には、多くの海外からの新入生が参加しています。留学生の皆さんには、言葉や生活習慣の壁を克服し、本学で学ぶ決意をした志を忘れず、目標を達成していただきたいと思います。そして、多くの友人と親しみ、本学で学んだ成果とともに、太い絆を育てていただきたいと願っています。ここでその方々のために短く英語で歓迎の言葉を申し上げます。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because we have many International Students here. So, I would like to talk directly to them in English.
 First of all, I, as President of Tohoku University ,would like to welcome you and to extend my heartfelt congratulations.
 To seek admission to Tohoku University, every one of you had to make an important decision both mentally and economically. I would like to express my respect and gratitude for choosing Tohoku University, a place where you will meet new people and gain new knowledge.
 Tohoku University was founded in 1907 as the third National University of Japan. Our philosophy has been to put "Research First" and maintain an "Open door" policy since our university's foundation. The results of our research have proven useful in solving many problems facing society, and by educating leaders we have contributed to establishing a just and peaceful society.
 Although I have little time to speak in detail of the history of Tohoku University, I hope you can understand that Tohoku University is one of the leading Universities in your field and I believe you will enjoy studying here.
 Finally, let me welcome you to Tohoku University. I am sure you will have many good experiences in Japan.
 I congratulate you again and thank you all very much.

これで私の式辞を終わりにします。
 皆さん、本日は入学おめでとうございます。

 

平成25年4月4日  東北大学総長  里  見  進   

(於:仙台市体育館)   

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