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平成25年9月東北大学学位記授与式

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された31名の皆さん、修士の学位を授与された109名の皆さん、専門職の学位を授与された5名の皆さん、そして博士の学位を授与された152名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶び申し上げます。

皆さんもご存じのように、アメリカの大学では学位記授与式を“Commencement(開始)”と言います。今日の良き日は、まさに皆さんの人生における大きな区切りで、新たな人生が“始まる”ことを意味しています。職業人として第一歩を踏み出す人は、これから仕事を通じて社会の様々な問題と格闘することとなります。研究の更なる前進を図る人は、更に非常な努力と真摯な研鑽に励むこととなります。あるいは、祖国に戻り、祖国の成長・発展のために働く人もいるでしょう。皆さんの一層の奮励努力を祈って止みません。

さて、1000年に一度という東日本大震災の発生から2年半余が経ちました。皆さんも様々な思いを持ち、それぞれの体験を経て、今日の日を迎えていることと思います。しかし、オリンピックの東京開催決定に沸く一方で、大震災後の東北復興・日本新生は、問題が山積したままです。この悲惨な惨禍を体験して生き延びることができた我々は、『絶望の虚妄なるは希望の虚妄なるに相同じい』という魯迅の言葉の意味を精神的糧としながら、「今の困難」を乗り越え、「より良き未来」を創造していく義務があります。特に未来を切り拓くことを託された若き皆さんには、培った自らの実力に足場を置きつつ、自覚的に何をしていくのかが問われています。

現代社会は、科学技術文明の下にあります。現代社会の中で科学技術文明の部分が大きいほど、その社会は「進んでいる」とされ、「先進社会」、あるいは「先進国」と呼ばれてきました。しかしながら世界の現状を見るとき、先進性を追求することのみで人類社会は本当に幸福になれるのか、疑問が生じないわけではありません。

第二次世界大戦中の1945年、物理学者バネバー・ブッシュは、「戦後、科学はどのように変わるか」というルーズベルト大統領の諮問に対し“Science:The Endless Frontier”という報告書を著して、科学の発達に限界はなく、それに依拠する人類の行動力が無限に向上して繁栄した社会を実現することを予言しました。これまでの科学の進歩を見れば、彼の予言はほとんど正しいと言ってよいでしょう。振り返ると、第二次世界大戦以降の日本も、科学技術の力により、様々な危機や苦難を乗り越え、短期間での高度経済成長、公害の克服、エネルギー効率の向上、死亡率の低下・長寿などを実現してきました。

一方、1972年、ローマクラブの委嘱で結成されたデニス・メデゥスを主査とする国際チームは、“The Limits to Growth ”という研究成果を発表して、人類の人口増加と活動の増大が資源の枯渇と環境の劣化を引き起こして、100年以内に地球環境の持つ許容限界を超えて成長は限界に達することを警告しました。

そして今、人類社会は、進歩した科学技術が日常生活の向上を実現すると同時に、科学技術の恩恵を享受する地球人口・領域の増加・拡大に伴って、資源の枯渇や環境破壊などの地球規模の課題に直面し、さらにはテロ、地震、津波や原発事故などの人為的災害や自然災害が相次ぎ、人類社会存続の脅威の影が地球上を大きく覆っています。つまり、ブッシュが予言した止めどがない発展を続ける科学技術と、メデゥスらが警告した許容限界のある地球との狭間に立たされているのです。

では、この止めどがない発展を続ける科学技術との共存に向けて、社会は、そして我々はどう対処すべきなのか。その基本にあるのが「全体を眺める視点(俯瞰力、総合的な力)をもつこと」であると、私は考えます。そこで、この「俯瞰力、総合的な力」について、少しお話しをいたします。

まず、科学技術の発展を歴史の大きな流れの中で理解しておく必要があります。15世紀から17世紀前半にかけて、「大航海時代」と呼ばれる時期がありました。当時、物理学はまだ幼い段階にあり、地の果てがどうなっているか判明していませんでした。その未知の世界に挑んで、地球が丸いことを実証したわけですが、これはつまり「探検」の時代であったと表現できます。

この「探検して真理を追究する」という「探検の精神」が世界に浸透し、その後の科学の発展を促進します。例えば、地球の探検の延長には宇宙を探査する天文学があります。天体望遠鏡も時代とともに進化し、宇宙望遠鏡による天体観測ではほとんど宇宙の果てまで見えるという、究極に近いレベルまで進歩しています。一方、地球の物質を拡大して細部を観察する顕微鏡も進歩し、今では原子の立体配列まで見えるようになりました。ここでもやはり「探検の精神」が根底にあります。

学問は本来、「探検の精神」のままに探究し続けるほど「細分化」が進んでいくものです。研究を深めるためには、どうしても範囲を狭める必要があるからです。

しかし、この研究の進化に伴う「細分化」には大きな問題が発生します。自然界はもともと継ぎ目がないシームレスなものです。人間が生きていくという行為も「全体的」なものです。科学技術の進歩に伴い、次々と新しい物質や装置などの人工物が作り出されてきましたが、それぞれ「探検の精神」によって進歩してきた「細分化された学問」を基にして作られたため、全体という観点が欠落していました。全体を見ないで作られた人工物が地球上に溢れたことで、一つひとつは人類に役立つものであるにもかかわらず、結果的には分野の異なる人工物と人工物の間の様々な矛盾を引き起こし、地球環境の持つ許容限界を脅かすまでに至っております。

進歩の名のもとに科学者コミュニティでは領域別研究が行われ、社会ではその成果を俯瞰的視点を持たずに活用したため、科学と科学との間や科学と社会との間に不調和が生じ、人口爆発と飢餓、環境破壊など新たな脅威を招来したのです。今、人類は科学技術の進歩と調和、特に地球という大きな自然との調和を図りつつ、人類社会全体が幸せになる道を探るという困難な問題の解決を求められています。

こうした状況を受けて、現代社会が強く求めているのが「サステナビリティ(持続可能性)の精神」です。これまでの時代が極端な「探検の精神」で環境破壊を引き起こしたとすれば、これからの時代は「サステナビリティの精神」で、この地球をできるだけ温存していこうというのが目的となるのです。

持続可能な世界の構築のためには、社会と科学技術が循環系(ループ)を構成して、科学者が社会に知識を提供するだけではなく、全体を俯瞰した上で中立的に行動していくことが必要です。新たなステージを歩まれる皆さんには、知の巨大な構造の中で、専門的・先端的な知識の深化に邁進するだけではなく、視野を広げ、高い位置から全体を俯瞰していくこと、つまり、未知のものを探検することはもとより、サステナビリティという時代の精神の変化に即応して、培ってきた能力をどのように役立てるかを計画し、それを実行していくことが求められています。繰り返しになりますが、これから皆さんが活躍すべき舞台は進歩することだけを追求すればよかった単純で明快な世界ではなく、持続可能な人類社会を創出する新しい世界観が求められる場です。そして皆さんはこれらのことを複雑化するグローバルな世界を相手に成し遂げるという、困難な時代を生きなければなりません。しかしいつの時代も困難を克服し未来を開き、新しい時代を創るのは若い力です。皆さんは本学で多くの師や学友と交わる中で、学問の奥深さとともにその広さを知り、また文化や価値観の多様性を認めることの大切さなど、俯瞰的な視野を持つことの重要性を学んできたと思います。本学で培った実力を遺憾なく発揮して、直面する様々な課題に堂々と立ち向かってください。このことを何よりも切望して止みません。

そしてこれが、本日ここに学位記授与式を迎えた皆さんに対する私からの希望であり、お祝いのメッセージです。

皆さんは、東北大学から旅立っても、東北大学のコミュニティの一員です。皆さんは、全学同窓会である東北大学萩友会の一員でもあります。大学は、ずっとお互いに関わり続けていける関係性を築きたいと考えて、毎年10月にはホームカミングデイを開催しています。皆さんが折に触れ母校を訪ね、この緑豊かなキャンパスで培った師弟の絆と学友との友情を更に深めてくださることを願っています。

東北大学は、世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日は、26カ国、154人の外国人留学生の皆さんが学位を取得しました。外国から東北大学に学び、学位を取得された努力と研鑽に対し、改めて祝意と敬意を表明したいと存じます。留学生の皆さんには、日本を、そしてこの東北大学を第二のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、ここで英語により送別の言葉を述べたいと思います。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because many of you are international students. I would like to talk directly to you in English.

It is my great pleasure to hold the 2013 Autumn Commencement Ceremony of Tohoku University together with the Academic and Executive Staff Members. And I am delighted to express my sincere congratulations on your successful completion of your courses in the Undergraduate and Graduate schools.

Many intractable problems including the global environment, energy, low birthrates, and financial and employment issues challenge the world today. In an effort to negotiate a solution to such problems, the world is struggling to attain new growth through innovation in all areas.

Against this background, you are expected to make use of your skills globally. I also ask you to aim to become global-leaders of a new era.

In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.

The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.

I sincerely hope that your experiences and achievements at Tohoku University shall help you contribute to the development of your countries and to world peace through your forthcoming activities.

Therefore, let us walk together, even when you are away from Tohoku, through alumni networks and your continuing ties to this university. By doing so, we can maintain what is referred to as a “KIZUNA” in Japanese, meaning personal or emotional ties.

Finally, I wish to reiterate my hearty congratulations to all of you, and wish you all the best in the future.

本日は誠におめでとうございます。

 

平成25年9月25日   東北大学総長 里 見   進  

(於:川内萩ホール)   

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