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平成26年度東北大学入学式

東北大学へ入学した皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生2,558名、大学院生2,418名、合計4,976名の新しい仲間を迎えますことは、私ども東北大学にとって大きな歓びであります。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を今日まで支えてこられたご家族や関係者の皆様に対し心より祝意を表します。そして皆さんには、これまで献身的に支えてくださったご家族や関係者の皆様への感謝の気持ちをどうか忘れないでいただきたいと思います。

東北大学の一員となられた最初の日ですから、まずは東北大学がどのような大学であるかについて、お話をしたいと思います。

東北大学は、江戸中期の1736年に仙台藩の藩校として設置された「明倫養賢堂」を前身として、明治40年(1907年)に、我が国で三番目の帝国大学として建学されました。本学は建学以来、「研究第一」、「門戸開放」および「実学尊重」の理念のもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、社会を先導する指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献してきました。

「研究第一」を掲げますと、研究が大切で教育は二の次ととられがちですが、本学の理念の意味するところは、より良い教育を効果的に行うには、その背後にそれを支える豊かな研究活動が必須であるとした点にあります。この精神は現在も継承されており、ある新聞社が高校の先生方を対象に実施したアンケート調査では、「大学の総合評価」で10年間、また、「自分が送り出した生徒が入学後に一番伸びた大学」の項目では8年間、といずれも連続して第一位となっております。入学者の個性を大切にしつつ、きめ細かく教育内容の充実に努めてきた本学の姿勢が高く評価されたものと考えます。

本学は日本で最初に女子学生を受け入れた大学でもあります。また、専門学校出身者や師範学校生に門戸を開いた大学でもあります。昨年はちょうど最初の女子学生誕生から百年目という記念の年でした。本学は、また、海外からの留学生も数多く受け入れてきました。中国の近代化に貢献した作家の魯迅が、仙台の地に学んだことは有名な話ですし、そのゆかりの階段教室は今でも大切に保存されています。本日も451名の海外からの留学生を迎えています。皆さんには「門戸開放」の自由な学風の中で、思い切り羽ばたいてほしいと願っております。

「実学尊重」に関しては、すぐに役に立つ学問、実用的な研究だけを重視していると誤解されがちです。しかし、そうではありません。基礎や基盤となる学問や研究も、いずれは社会で実用化されて人類のために活かされると考え、大切に育てていくことを意味しています。

皆さんには、東北大学の一員として、このよき伝統と理念を受け継ぎ、新たな歴史を作っていってほしいと思います。

このような歴史と伝統を持つ東北大学も、3年前の東日本大震災では甚大な被害を受けました。津波によって3名の学生の尊い命が失われ、施設や設備も損傷・損壊し、一時的に教育・研究機能が停止する危機的状況に陥りました。3年が経過した現在でもまだ、一部ではプレハブでの授業や研究が行われています。しかしながら、建物・施設の整備は急ピッチで進んでいますので、本年度中には、皆さんが落ち着いて勉学に取り組める環境になります。

東北大学は歴史上かつてない世界的災害を経験した大学として、東北地方の復興・日本の新生の先導となる使命があります。現在、震災直後に設置した東北大学災害復興新生研究機構のもとに、8つのプロジェクトが進行しています。皆さんには、大震災後の同じ時を生きたものとして、私たちと一緒に様々な問題を解決してくれることを期待しています。

わが国をめぐる国内外の状況は近年大きく変化し、それとともに大学を取り囲む環境も厳しさを増しております。時代の変化に対応して、大学はどうあるべきか、大学の在り方そのものが、今、厳しく問われています。

今日は、大学をめぐる議論の中でいつも話題になる、いくつかのことについて感じていることを少し述べてみたいと思います。

最初は教養教育についてです。東日本大震災時における我が国の指導層の対応を見て、我が国はしっかりとした指導者を育ててこなかったのではないかとの疑問の声が上がりました。そして、大学改革の議論の中で、社会のリーダーに必要な、総合的な判断力の基本となる教養教育の重要性が再認識されてきました。ただ、何をどのように教え、またいかにすれば学びうるのかについては、いまだ明確な答えがありません。皆さんが大学で学ぶことを期待している専門教育と教養教育をどう両立させるかは、古くて新しい問題です。

古代ギリシャではリベラルアーツとして、文法、論理学、修辞学、算術、幾何学、天文学、音楽の7科を修めることが推奨され、比較的学ぶべき道筋がはっきりしていました。近代においても、多くの書を読み、博学な人間が教養ある人とされ尊敬されてきました。現在でも、個々人が知識の量を増やすことは大切です。しかしながら、人類の所有する知識の量はあまりにも膨大になり、一人の人間が全ての領域について、全てのことをよく知ることは不可能になっています。それゆえに、得られた知識をもとに的確に判断を下す能力と、その判断を下す基準となる、個々人の価値基準、つまり人生において何に価値を見出していくかの世界観や人生観を確立することが、大学で学ぶ最も大切なことになると思います。これらのことは、教えを待つという受け身の姿勢で得られるものではなく、自らが考え、努力することによって初めて得られるものです。現代の教養教育は、そのような皆さんの努力を支援するためにあると考えます。

次に国際化の問題です。20世紀後半までのわが国は大学も学生も、社会全体がゆったりと暮らせた良い時代でした。人口は年々増加して一億人を超える社会でしたので、その内需の拡大だけでも産業は成長することができました。大学も学生も、国内で働くことを前提に人生の設計図を描き、あまり大きな矛盾なく暮らすことができました。現時点でも国際化を考える際に障壁となっている言葉の壁は、却って有利に働き、就職に際しても、外国人と競争する必要が全くありませんでした。大学も、学生も甘えが許されていた時代だったと言えます。しかしながら、21世紀に入ると同時に少子高齢化が急速に進行し、労働人口の減少、内需の低下をもたらし、企業の海外移転と産業の空洞化を促しました。加えて新興国の急速な経済成長や、インターネットの普及によるボーダーレス化の進展は、国際化を急速に推し進め、日本企業でも、新入社員の半数以上を外国人が占めることが珍しくなくなりました。

国境を越えた人とモノの動きは今後ますます加速します。皆さんは否応なしにグローバル化した時代を生きていかねばならないのです。世界を相手にして生きていくことは厳しいことです。しかしながら、たくましく生きる力さえあれば、活躍の場を世界に広げられる夢のある時代でもあります。早期留学制度の実施により、内向きだとよく言われる日本人の学生も、機会を与えると積極的に海外にも出ていくことが分かりました。世界を相手に仕事をするために必要な力、大学は皆さんがそのような力をつけられるように、いろいろな機会や場を提供したいと考えています。

本学はこの4月から「高度教養教育・学生支援機構」を立ち上げ、入学当初から大学院までを含めて教養教育を充実させる体制を整備しました。皆さんが国際的に活躍するリーダーとなれるように様々な支援をしていきたいと考えています。

皆さんが日々成長する姿を見ることが、大学に勤務する者の楽しみであります。皆さんが大学生活の中で、体力的にも精神的にもたくましく育つことを期待しています。

さて、本日の入学式には、多くの海外からの新入生が出席されています。留学生の皆さんには、言葉や生活習慣の壁を克服し、本学で学ぶ決意をした志を忘れず、目標を達成していただきたいと思います。そして、多くの友情をこのキャンパスで育み、善き師に巡り合い、我が国と皆さんの母国との太い絆を育てていただきたいと思います。

最後になりますが、本日入学された皆さんの大学生活が実り多いものになることを祈念して私からのお祝いの言葉といたします。

 

平成26年4月3日   東北大学総長 里 見   進  

(於:仙台市体育館)   

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