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平成27年度東北大学入学式

東北大学へ入学した皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生2,594名、大学院生2,402名、合計4,996名の才気溢れる皆さんをお迎えすることができたことは、私どもの大きな喜びとするところであります。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を今日まで、愛情をもって励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様に対し心より祝意を表します。そして皆さんにはこれまで献身的に支えてくださったご家族や関係者の皆さんへの感謝の気持ちを忘れないでいただきたいと思います。

東北大学の一員になられた最初の日に、まずは東北大学がどのような大学であるかについて、お話をいたします。
 東北大学は、明治40年(1907年)に、日本で3番目の帝国大学として建学された歴史ある総合大学です。建学当初から本学は、時代のフロントランナーとして、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神をもとに、研究の成果を人類社会が直面する諸課題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の持続的発展に貢献してきました。世界トップレベルの研究型大学として、10の学部と16の大学院研究科、3の専門職大学院、そして6の附置研究所という陣容を誇り、国際的な専門学術誌への発表論文数でも多くの分野で世界のトップを争う位置にあります。また、この仙台の地は、「杜の都」「学都仙台」とも呼ばれ、東北大学のキャンパスは、その四季の気配を色濃く映す杜の緑に包まれた日本屈指の環境の中にあり、世界へ飛翔していく学び舎として理想的な条件を備えているものと、私たちは自負しています。

さて、このような歴史と伝統を持つ東北大学も、4年前の東日本大震災では大変な被害を受け、一時は教育研究機能が停止する危機的状況に陥りました。しかし、そのような状況においても東北大学では教職員・学生が一丸となって大学機能の復旧を図るとともに、東北の復興、日本の新生の先導となることを目指して、震災発生1か月後には東北大学災害復興新生研究機構を立ち上げました。そしてその下で災害科学国際研究推進、地域医療の再構築、環境エネルギーなど8つのプロジェクトと100を超える復興アクションを展開し、先月開催された国連防災世界会議では多くの研究成果を報告しております。沿岸部の被災地の完全な復興には、まだまだいくつもの課題が残されていますが、本学のハード面での整備は急ピッチで進み、本年度中には予定していた建物のほとんどが竣工します。また、12月に開通する地下鉄東西線では、大学構内に3つの駅ができ、本学のキャンパスは仙台駅から15分以内で結ばれることになります。本学の新時代の幕開けともいえる年に入学された皆さんには、この新しい環境を存分に生かして、思い切り羽ばたいてほしいと願っております。

皆さんは今、希望にあふれ、それぞれに思いを定め目標に向かって邁進しようとしていることと思います。これまでの勉学とは異なる高度で専門的な知識に早く接したいと、望んでいるに違いありません。大学生活は人生の中で最も自由を謳歌できる期間であり、それだけに皆さんが卒業あるいは修了時にどう成長しているかは、皆さん自身にかかっています。言い古された言葉ですが「初心忘るべからず」を肝に銘じて、これからの大切な日々を過ごしてください。
 ただ、せっかくの皆さんの思いに水を差すようですが、今、科学技術を含む専門的知識の在り方や大学の果たす役割について、現代社会から根本的な問いかけがなされています。
 今日、科学技術の進歩が人類社会に大きな恩恵をもたらしたことは誰もが認めることです。その一方で、経済危機、環境破壊、エネルギー問題をはじめ様々な問題が、地球規模の課題として私たちの眼前にあります。そしてこれらの問題は、我々人類の生存そのものを脅かす脅威となっています。さらに困ったことには、科学技術の進歩による恩恵が大きいがゆえに、健全な常識や批判精神など、人の考える力・精神が正常に機能しなくなっていると危惧されています。そこで、このような状況の中で大学に求められるのは、新しい発見や発明、科学技術の開発に向かう「知」だけではなく、現代社会の抱える矛盾を総合的に結びつけ、持続可能な安定した秩序を創出する新しい「知」の在り方を創造するということになります。このような現代社会からの要請を踏まえ、私からはあえて今日の日の皆さんに対し、大学生活の中で、高度な専門的知識を修得することだけではなく、物事を多元的に観ることのできる幅広い教養と批判的思考力、これらのことを不断に鍛えることを求めたいと思います。
 大学の歴史から振り返ると、現在の大学の基礎は、約900年前の中世ヨーロッパに辿りつきます。学生の自治組織、または職員のユニオンとして誕生した大学が次々と創設され、ボローニャ、パリ、ケンブリッジ、オックスフォードなどがその歴史を刻み始めました。中世の大学では、学生はまず哲学部で3学(文法、論理、修辞)と4科(算術、幾何、天文、音楽)の自由7科(リベラルアーツ)を修めて学士の学位を得、さらに修士、博士に進学して神学、法学、医学、学芸のいずれかを専門的に学びました。古き時代は比較的学ぶ道筋がはっきりしていたといえます。科学技術は当初職人階層の手仕事として、リベラルアーツより低級な知識とされていましたが、次第にその有用性が認められ、社会のための科学として国家を最大のスポンサーとして発展してきました。そして今や現代社会は、科学技術という「専門的知識」を原動力とする社会形態のもとにあると言っても過言ではありません。この間の2世紀余を振り返ると、知識は現実を理解する道具であるだけではなく、現実そのものを次々と変え、新しい現実を創造するという力を発揮してきました。「知識は力なり」という言葉は、まさにそれを象徴的に表しています。大学はこの社会の大きな流れの中で、社会に必要とされる高度な専門的知識の追求に多くのエネルギーを割いてきました。確かに、専門的知識は、ある限られた領域で今ある現実を新たなものに変える上で卓抜した力量を発揮します。人類は利便性の高さを求め、より効率的な社会を創ってきました。しかし他方で、専門的知識は、その新たな現実の妥当性や適切性の判断そのものについては必ずしも明快な回答を持ちえません。このことが現代社会の様々な問題を引き起こす大きな要因となっています。つまり、常識や思い込みを疑い、その背後にある空虚さを見破り、物事の本当の姿を見通す知的訓練が必要となるのです。現実を変える手段が日々新たに創出される現代社会において、"how to"に関わる知識と並んで、「何のためか」を問い続け、何を基準に物事を考えるかという"for what"に関わる人間の能力がますます貴重な精神的資源となっています。このことが、私が皆さんに、高度な専門的知識を修得するだけではなく、批判的思考力を不断に鍛えることを求めた理由であります。そして、大学が大学の自治や学問の自由を主張してきたのは、この批判的な思考の基となる思想の多様性を守るためであったことを忘れてはいけません。東北大学は、世の中に貢献するという強固な意志を大学構成員が共有し、学生が科学的考え方を学び、健全な批判的精神を持って、自らの未来を切り拓く力を訓練する場を提供したいと考えています。

東北大学では昨年そのようなことも視野に置き、「高度教養教育・学生支援機構」を立ち上げ、現代社会において必要とされる教養教育、つまり新たなリベラルアーツの枠組みについて議論を重ねてきました。そしてグローバル社会で活躍する人材を育成する観点から、学術分野を深く理解する力や、幅広い多面的な視点から物事を見、多様な尺度で判断できる能力など6つのキー・コンピテンシーを決め、これらのことを入学時から大学院博士課程に至るまでに、必要な時に履修できる体制を整備しました。皆さんには大学生活で得られた知識を基に的確な判断を下す能力と、その判断を下す基準となる個々人の価値基準、つまり人生において何に価値を見出していくかの世界観や人生観を確立していただきたいと考えます。これらのことは受け身の姿勢では得られるものではありません。自ら考え努力することで初めて得られるものです。本学はそのようなことに努力する皆さんを心から支援いたします。

ここで先ほど述べたグローバル人材の育成と大学の国際化について、本学のこれまでの取組みについて触れておきます。現在、東北大学は、「東北大学グローバルビジョン」を打ち出して、日本の大学という存在を超え、ワールドクラスへの飛躍を目指して様々な取組みを展開しています。先程触れた「高度教養教育・学生支援機構」の設置に先立ち、一昨年から文部科学省の支援を得て「東北大学グローバルリーダー育成プログラム」を実施しています。このプログラムでは、海外研鑽を中心にして語学やコミュニケーション力、国際教養力、行動力を鍛えるもので、これまでに1,000人を超える在校生が登録しています。また、「フューチャー・グローバル・リーダーシップ・プログラム」(FGL)は英語で学位を取得できるコースで、今年初めての卒業生が輩出されました。これまでは海外からの留学生だけを対象にしていましたが、2年後には日本人を対象にした英語コースも設置します。新規の試みとして、海外の有力大学との間で協定を結び、将来のジョイント・ディグリーを見越した国際共同大学院プログラムが、この4月から始まります。スピントロニクス分野を皮切りに、データ科学など7つの分野が続きます。このほか、知のフォーラムでは、ノーベル賞受賞者クラスの卓越した研究者を招聘し、1ないし3カ月本学に滞在する中で、皆さんと自由に議論できる場を設けました。この長期滞在型のシステムは、我が国では初めての試みです。世界を代表する学者が、自らの学問や社会の在り方についてどのようなことを考えているのか、直接お話をすることで刺激を受けてもらえれば、この制度を作った意義があります。大いに活用してください。
 また、本学では早い時期に海外で短期間研修することを奨励し、その後の長期留学に繋げたいと考えています。海外留学を支援する奨学金も準備しています。政府と財界が協力して創設した海外留学支援制度「トビタテ!留学ジャパン」も昨年4月から始まりました。すでに皆さんの先輩も何人か応募し実際に海外に出かけています。努力さえ惜しまなければ、海外留学する夢はかなえられます。
 国境を越えた人とモノの動きは今後ますます加速します。皆さんは否応なしにグローバル化した時代を生きていかねばなりません。世界を相手にして生きていくことは厳しいことです。しかしながら、たくましく生きる力さえあれば、活躍の場を世界に広げられる夢のある時代でもあります。早い時期から海外へ武者修行に出かけ、国際的に活躍できる素地を作る努力をしていただきたい。
 皆さんがこれからの学生生活でこれらの課題を成し遂げ、清々しい気持ちで学位記授与式に出席できるよう期待しています。

さて、東北大学は、100年余も前から世界に開かれたグローバルな大学として、常に新たな時代を切り拓いてきました。東北大学のキャンパスも小さな国際社会であり、日本各地はもとより、世界の90カ国以上の国・地域からの外国人留学生が学んでいます。本日の入学式にも、多くの海外からの新入生が参加しています。留学生の皆さんには、言葉や生活習慣に戸惑いがあるかもしれません。しかし、本学の学生、教職員、そしてこの仙台の市民は、皆さんを優しく受け入れ、価値観を共有したいと願っていることは間違いありません。本学で学ぶ決意をした志を忘れず、多くの友人と親しみ、本学で学んだ成果とともに、太い絆を育てていただきたいと願っています。ここでその方々のために短く英語で歓迎の言葉を申し上げます。

Now, I would like to switch from Japanese to English, because we have many International Students here. So, I would like to talk directly to them in English.

First of all, as President of Tohoku University, I would like to welcome you and to extend my heartfelt congratulations.

To seek admission to Tohoku University, every one of you had to make an important decision both mentally and economically. I would like to express my respect and gratitude for choosing Tohoku University, a place where you will meet new people and gain new knowledge.

Tohoku University was founded in 1907 as the third National University of Japan. Our philosophy has been to put "Research First" and maintain an "Open door" policy since our university's foundation. The results of our research have proven useful in solving many problems facing society, and by educating leaders we have contributed to establishing a just and peaceful society.

Although I have little time to speak in detail of the history of Tohoku University, I hope you can understand that Tohoku University is one of the leading Universities in your field and I believe you will enjoy studying here.

Finally, I must make a few concluding remarks in Japanese, but first let me welcome you to Tohoku University. I am sure you will have many good experiences in Japan.

最後になりますが、本日入学された皆さんの大学生活が実り多いものになることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。

平成27年4月3日

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東北大学総長

(於:仙台市体育館)  

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