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令和元年9月東北大学学位記授与式告辞

令和元年9月 東北大学学位記授与式告辞

【冒頭の挨拶】

本日ここに、晴れて学士の学位を授与された61名の皆さん、修士の学位を授与された154名の皆さん、専門職の学位を授与された19名の皆さん、そして博士の学位を授与された159名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。
 また、この間、皆さんが晴れて本日を迎えることを心待ちにし、支援をしてくださったご両親、ご家族、関係者の皆様に、心よりお慶びを申し上げます。
 皆さんは、日本を含め世界40カ国・地域から、各自さまざまな目的をもって本学の門を叩かれました。ここに、国際色豊かで、多彩なバックグラウンドをもつ皆さんを本学から送り出すことができて、私たちもたいへん嬉しく思います。また皆さんは、日本で「平成」から「令和」に改元されてから、本学では初めての学位授与者となります。

【東北大学の歴史】

東北大学は、今から112年前の1907年の建学以来、「杜の都」あるいは「学都」と呼ばれる仙台の地にあって、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念のもとに、多くの指導的人材を輩出し、イノベーションを駆動する世界的研究成果を挙げてきました。
 一昨年の6月には、世界の有力大学と伍していくことを使命とする「指定国立大学法人」の最初の三校に選ばれました。これも、長年にわたる様々な取組とその成果に裏打ちされてこそ、実現したものです。

【データの世紀、不揮発記録に対する東北大学の貢献】

さて、21世紀は「データの世紀」であると言われます。現在、私たちが利用しているデータのほとんどは、本学関係者がたゆまぬ研究から生み出したハードディスクドライブやフラッシュメモリに納められています。本学は、次世代の不揮発メモリの開発でも世界をリードしており、「データの世紀」の基盤に大きな貢献を果たしています。

【データの価値が分野横断的に波及するこれからの世界を切り拓くこと】

保存したデータは活用してこそ価値が生まれます。例えば、東北大学でも地域の皆さんのご協力を得て実施される大規模な調査により、健康状態の情報やゲノム情報を蓄積し、その解析・理解を通して一人ひとりに合った「個別化医療」や「個別化予防」を実現するために役立てようとしています。一方、人文・社会科学の領域でも、データ駆動型の研究手法の重要性が高まっています。本学の文学研究科では、全国に先駆けて「計算人文社会学分野」を新設し、4月より活動を開始しています。

【データの重要性、「ファクトフルネス」】

データは私たちに「バイアス」や「思い込み」の存在も教えてくれます。例えば、「人口爆発(population explosion)」という言葉がありますが、国連の統計では世界の人口は2100年の110億人に向かって徐々に飽和していくと予測されています。もちろん今から30億の人口が増えますから、80年間余りの間に食糧・エネルギーさらには温暖化という喫緊の課題、すなわちグローバルイッシュー、を解決していかなければならないのは言うまでもありません。しかし、リアルなデータからは、「爆発」という語感から受ける印象とは異なった未来像が浮かび上がってきます。
 また、世界で極度の貧困にある人の割合は、過去20年間で約半分に減っています。ハンス・ロスリングらがその著書「ファクトフルネス」で示したように、私たちは世界の将来像を悲観的に考えがちですが、世界は多くの問題を抱えながらも人々の多大な努力の結果「良くなってきている」と見ることができることも忘れてはなりません。
 世界の人口が2100年に向けて増える間、30歳以下の人口はほぼ一定であるとも予測されています。したがって世界中で高齢者が次第に増えていくことになります。私たちは、構成員が健康で豊かに老いていく社会をいかにしてつくるかという課題は、とりわけ日本独特のものであると考えがちですが、データは、これも世界に共通するグローバルイッシューであることを物語っています。

【Post-truth時代における科学的方法論】

このような「バイアス」や「思い込み」に加え、今日、社会問題化している、いわゆる「フェイクニュース」の広がりは、まさに、「Post-truth時代」というべき異形の時代の到来を告げています。これまで皆さんは、東北大学において、ディシプリンによらず、広い意味での「科学的方法論」を身に付けてきました。この「科学的方法論」を原動力として常に自ら考え続け、多様化するグローバル社会で真の価値を生み出し、力強いリーダーシップを発揮してください。皆さんにとって、正確なデータや知識、そして、「科学的方法論」こそが、「Post-truth時代」を突破するための唯一無二の羅針盤であるとも言えるでしょう。

【東日本大震災の経験】

8年半前に発生した東日本大震災についてお話しします。2011年3月の発災直後、本学では、構成員が自発的に100以上のプロジェクトを立ち上げ、復興を後押ししました。また、一年後には災害科学国際研究所を創設し、大震災の教訓をもとに世界の防災減災の推進に貢献してきました。
 2015年3月に仙台で開催された第三回国連防災世界会議において、「仙台防災枠組み(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction)」が採択され、災害による人命の損失や経済的損失などを削減する、七つの防災達成目標に向けて各国が取り組むことが合意されました。本学は、その基盤となるデータ、災害被害統計を整備するため、国連開発計画(UNDP)と連携して災害統計グローバルセンターを設立し、「仙台防災枠組み」の達成に向けて大きく貢献しています。同じ2015年の9月には国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、さらに、12月には気候変動抑制に関する「パリ協定」が合意されました。このように「仙台防災枠組み」は、「SDGs」および「パリ協定」とともに、「国際社会の三大アジェンダ」と言うべき行動指針を形づくっています。その策定に中心的役割を果たした東北大学は、グローバルイッシューに取り組み、これからの世界があるべき姿、すなわちサステナブルな世界の実現に向けて先進的に行動する世界有数の大学となっているのです。皆さんは、そのような重要なアイデンティティを共有するコミュニティの一員でもあるのです。

【萩友会、世界ネットワーク】

これから皆さんは、様々な人々と連携して、新たな社会を創っていくことになります。そのとき、本学のコミュニティの一員であることが、皆さんにとって大きな力となるでしょう。本学には、全学同窓会である「東北大学萩友会」のもとに、国内には50を超える同窓会があり、海外にも、ニューヨークやインドネシア、ベトナムなど7か所の同窓会があります。もし同窓会がなければ、皆さん自身で立ち上げてください。本学のネットワークも大いに使って、世界をより良い場所にしていき、皆さん自身も豊かな時間を過ごしてほしいと思います。
 そして、そこでまた、皆さんとお会いできる日を、心から楽しみにしております。

ここに出席されている多くの日本語を母国語としない卒業生、修了生のために、英語でお祝いの言葉を述べます。

I would also like to take this opportunity to congratulate our non-Japanese speaking graduates.
As President of Tohoku University, it is my honor to be the first to applaud your success today.

We are currently living in an ever-changing world, with rapid transformations of the societal structure. Important issues such as the Sustainable Development Goals or the appropriate treatment of disruptive technology have to be approached immediately.

Still you can observe the steady progress and beneficial improvements to the everyday life of the people. Our university's members are involved in many important efforts. There are developments to advance medical care, improve digital technology and make our communities a better space. These actions are greatly impacting society on a global scale.

On the other hand, there is also an alarming trend where a shared objective, academic standard for truth is overlooked or sometimes neglected and the difference between fact, knowledge, opinion and belief is blurred.

However, I am convinced, that you have gained the wisdom for a more fundamental understanding of your surroundings during your time here at Tohoku University and that you acquired necessary skills to distinguish fact from opinion in this post-truth era.
I would like to encourage you to continue your engagement as valued member of our university, since there are never enough voices of reason.

Tohoku University has a global alumni network managed by our alumni association 'Shuyukai'. So you will have the benefit to keep in touch with your community, be informed about recent advancements and - most importantly - help each other as friends and family.
Our doors are always opened and we are all here as family to help in case you feel the need to come home.

You are always welcome and you will always be appreciated.
Congratulations on your graduation and all the best for your future.

あらためて、本日は誠におめでとうございます。
 皆さんが今後、世界に向けて大きく飛躍することを心から期待して、私の式辞といたします。

2019年(令和元年)年9月25日


東北大学総長

大野 英男

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