〇材料科学高等研究所 教授 藪浩
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
持続可能な発展を実現する水素社会において、燃料電池は中心的な役割を果たすことが期待されています。燃料電池の正極で起こる酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)は燃料電池の性能を決定する支配要因であり、その反応効率を向上させる触媒として白金炭素(Pt/C)が用いられています。しかしながら資源制約や地政学的理由、そして高コストであることから、白金(Pt)を用いない触媒が求められていました。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のHao Li(ハオ リー)准教授(ジュニア主任研究者)と藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)、北海道大学、及びAZUL Energy株式会社(仙台市、伊藤晃寿社長)からなる研究グループは、高価なPtを用いないM-N-C触媒(注2)の一種で青色顔料として知られる金属アザフタロシアニン誘導体触媒(注3)を合成しました。その触媒活性を水素イオン濃度(pH)に対して系統的に測定し、電場とpHの効果を組み合わせたシミュレーションで性能をベンチマークすることで、実験・理論の両面から高い触媒活性を示すORR触媒の探索指針を見出しました。
本研究成果は、現地時間の3月15日に英国化学会の雑誌であるChemical Science誌のオンライン速報版に掲載されました。
図1. 「ダンスパターン」を示す触媒の分子構造と炭素上での吸着構造。それぞれの分子の外縁部についた官能基の違いが起こす、炭素上の吸着パターンの変化を明らかにした。
【用語解説】
注1. 酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)
空気中の酸素を電気的に還元し、過酸化水素(H2O2)あるいは水酸化物イオン(OH-)に変換する反応。燃料電池や金属空気電池における放電時の正極反応であり、発電効率を決める重要な反応の一つ。反応を効率良く触媒するために通常はPt/C等が使用されている。
注2. M-N-C触媒
Pt/Cにおける白金ナノ粒子の代わりに炭素網面中に窒素で錯化された遷移金属(特に鉄やコバルトなど)を導入することで、これらの金属がORR反応の触媒活性サイトになるように設計された炭素触媒。カーボンアロイ触媒の一種であり、金属錯体と炭素源となる高分子などを高温焼成することで得られる。
注3. 金属アザフタロシアニン誘導体触媒
青色顔料として知られる金属フタロシアニンのベンゼン環を窒素を含有するピリジン環に置換した分子であり、研究グループは特に鉄を中心金属として持つ鉄アザフタロシアニンがORR触媒として高い活性を示すことを以前の研究で明らかにしている(参考文献1)。
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 藪 浩(やぶ ひろし)
TEL: 022-217-5996
Email: hiroshi.yabu.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇電気通信研究所 准教授 サイモン グリーブス
研究室ウェブサイト
【概要】
NIMS、Seagate Technology(米国メーカー)、東北大学の研究グループは、データセンタの記録装置として用いられるハードディスクドライブ(HDD)において、磁気記録媒体を3次元化することで多値記録が可能であることを実証しました。IoTやDXに伴う記録媒体容量拡大の需要が高まる中、この実証は重要な意味を持ちます。
現在、HDDは垂直磁気記録方式が用いられており、記録密度を現在の1.5 Tbit/in2(テラビット/平方インチ)よりも飛躍的に増やすことができる磁気異方性の高い鉄白金(FePt)を用いた熱アシスト磁気記録方式(Heat-Assisted Magnetic Recording, HAMR)が、Seagate Technology社により実用化されています。しかし、このHAMRでさえ10Tbit/in2を超える超高密度磁気記録は困難とされています。そのため、10Tbit/in2級の超高密度磁気記録には、新しい原理の磁気記録方式が望まれています。
そこで当研究グループは3次元磁気記録法を提案しました。この方式は、従来の2次元記録層とは異なり、記録層を3次元的に積層することで記録密度を大幅に増加させます。現在のHAMR媒体は、非磁性の非晶質炭素マトリックス中に数nm(ナノメートル)の粒子状FePtを均一に分散させた2次元記録層からなります。この研究では、同様に非晶質炭素中に分散したルテニウム(Ru)粒子をスペーサーとすることで、格子整合したFePt/Ru/FePtの単一粒子を作製し、上下のFePtを独立なものとして、FePtの記録層を3次元的に配置しました。その結果、上下のFePt層がそれぞれ異なる磁化反転とキュリー点を示しました。これは、書き込みレーザーの出力の調整により3次元多値記録が可能であることを意味しています。
今後、FePt粒子のダウンサイジング、上部FePt層の配向および磁気異方性の改善、FePt層の更なる多層化を進め、高密度HDDとして実用化に適した媒体構造の実現を目指します。
本研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センターのP. Tozman特別研究員、高橋有紀子グループリーダー、Seagate Technology社のThomas Chang研究 員、東北大学のSimon Greaves教授によって行われました。本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CREST「情報担体を活用した集積デバイス・システム」JPMJCR22C3の助成を受けたものです。
本研究成果は、2024年3月24日付で学術誌「Acta Materialia」誌にオンライン掲載されました。
図1(a)現行のHAMR方式及び(b)3次元の磁気記録方式の模式図。3次元磁気記録方式では各記録層のキュリー点に100 K程度の差を付け、書き込み時のレーザー出力を調節することで各層の書き込みを行います。
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 サイモン グリーブス
TEL:022-217-5458
E-mail: greaves.simon.john.a4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail:riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部
助教 松林 英明
研究者ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
PI3K(ホスホイノシトール3-キナーゼ)は、細胞の運動や増殖、がん化などに関わる重要な酵素で、抗がん剤のターゲットとなるなど医学的にも重要な分子です。東北大学 学際科学フロンティア研究所の松林英明助教らは、PI3Kのアミノ酸配列の中に、従来知られていなかったAP2結合配列を発見し、このAP2結合配列が、PI3K本来の酵素活性とは別に、細胞膜を細胞内側へ取り込む働き(エンドサイトーシス)を誘発することを明らかにしました。さらにAP2と結合できないように改変したPI3Kは、細胞をより速く運動させることから、PI3KとAP2との結合が細胞運動のブレーキとして働くことが示されました。これまでPI3Kは、その酵素活性によって細胞運動のアクセルとして機能すると考えられてきましたが、本研究の成果によって、PI3Kには、AP2結合配列を介したブレーキ機構も内蔵されていることが分かりました。PI3Kの新たな制御機構が明らかになったことで、PI3Kが関わる疾患の機序解明や、それらの治療薬開発のための知見となることが期待されます。
本研究成果は、オンライン科学誌Nature Communicationsにて、2024年3月23日付で公開されました。
図A:PI3Kのドメイン構造とAP2との結合予測構造
PI3Kは、p110のABDドメインとp85のiSH2ドメインが結合する形で二量体を形成しています。本研究では、iSH2ドメインの中にAP2と結合するモチーフ(YxxΦモチーフ、di-leucineモチーフ、acidic cluster)があることを見出しました。AlphaFold2予測構造は、AP2とiSH2のYxxΦモチーフとの結合状態の構造を予測したものです(iSH2ペプチドはYxxΦモチーフを含む16アミノ酸の配列)。
【用語解説】
注1. エンドサイトーシス:
エンドサイトーシスは、細胞がその膜をくぼませて細胞膜や外部の物質を取り込むプロセスです。この過程により、細胞の外にある栄養素やシグナル分子などを細胞内に取り込むことができます。エンドサイトーシスは、物質の細胞内への輸送、細胞表面の受容体の調節などに重要な役割を果たします。
注2. AP2:
AP2複合体はエンドサイトーシスにおける中心的なアダプター分子の一つで、細胞内に取り込まれる細胞膜上のタンパク質のモチーフを認識し、クラスリンと呼ばれるタンパク質を結びつける働きがあります。クラスリンは、取り込まれる細胞膜をつつむ包装材のような役割を果たし、クラスリンに囲まれた小胞が「荷物」として細胞内部へと運ばれます。
(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
助教 松林英明
TEL: 022-795-6966
Email: hideaki.matsubayashi.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
特任准教授 藤原英明
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇大学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの一種であるGNEミオパチーは、10代後半から30代にかけて出現することが多く、体幹から離れた部位から筋肉が萎縮、変性し次第に体の自由が奪われていく有効な治療法のない希少疾病です。我が国の患者数は400名程度と推定され、指定難病の一つに数えられています。東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の青木 正志教授らのグループは、2010年から医師主導治験として第Ⅰ相試験、第II/III相試験、ノーベルファーマ株式会社が治験依頼者となる有効性確認試験を実施し、GNEミオパチーにおけるアセノベル®徐放錠500mgの治療効果を明らかにしました。これらの結果をもとにノーベルファーマ株式会社が薬事承認申請を行い、2024年2月29日に厚生労働省医薬品第一部会において製造販売承認が了承され、3月26日に正式な製造販売承認を取得しました。
開発がきわめて困難といわれているウルトラオーファンの疾患に対する治療開発の成功例となり、GNEミオパチー患者の早期治療につながることが期待されます。
図1. 国内第Ⅱ/Ⅲ相試験でアセノベル投与により上肢筋力合計点数が有意に改善
【用語解説】
注1. 遠位型ミオパチー:遺伝的な筋肉の病気(筋疾患)の一つです。理由は不明ですが、筋疾患の多くは、体幹に近い筋(近位筋)から障害されます。ところがこの遠位型ミオパチーでは、体幹から遠い筋(遠位筋)、例えば足首を動かすような筋肉や指先を動かすような筋肉から障害されます。そのような遺伝性筋疾患を総称して、遠位型ミオパチーと呼んでいます。
注2. GNEミオパチー:遠位型ミオパチーの一つで1980年代の日本からの臨床報告が疾患概念確立の端緒となりました。GNE遺伝子はシアル酸という糖の一種を身体の中で合成するのに必要な酵素の設計図です。患者はこの酵素の機能が低下していて、シアル酸が出来にくくなっています。
注3. アセノベル®徐放錠500mg:一般名はアセノイラミン酸で、シアル酸の一種です。GNEミオパチーで足りなくなったシアル酸を補うため経口投与可能な薬剤として開発されました。
注4. ウルトラオーファン:オーファンドラッグは対象患者数が本邦において5万人未満、医療上特にその必要性が高いものなどの条件を満たし、厚生労働大臣が指定した医薬品です。対象患者数が1,000人未満の疾患は、さらに医薬品の開発が困難であり、ウルトラオーファンと呼ばれています。
(研究に関すること)
東北⼤学⼤学院医学系研究科神経内科学分野
教授 青木 正志(あおき まさし)
助教 鈴木 直輝(すずき なおき)
TEL: 022-717-7189
Email: naoki.suzuki.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
FAX: 022-717-8931
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
【これまでの連携実績】
これまで東北大学・吉田和哉 教授、北海道大学・高橋幸弘 教授の研究グループは、2009年より地球観測のための50kg級超小型人工衛星(マイクロサット)の共同開発を進めており、このクラスの衛星では打ち上げ数、運用成功率ともに国内の大学・企業の中でトップクラスです。特にフィリピン大学ディリマン校、フィリピン科学技術省(DOST)とともに開発した「DIWATA-1」(2016)、「DIWATA-2」(2018)では、フィリピン国の宇宙からの災害監視、宇宙人材育成等に大きく貢献しました。
これらの成果をもとに、2020年に北海道大学と東北大学と共同で第4回宇宙開発利用大賞「宇宙航空研究開発機構理事長賞」を受賞するなど、これまでも国内大学・企業の中でも群を抜く50kg級超小型衛星開発と国際協力について多くの連携を行ってきました。
【強みを活かした今後の方向性】
組織対組織での連携を行うことにより、それぞれの研究開発実績を基盤とし、以下の4つの観点から「ニーズ・ドリブンの世界的競争力を持つ研究開発」および、これらを推進可能な「国内外の宇宙人材育成」を積極的に推進します。
これらの観点は、いずれも世界に対する技術的優位性の更なる強化につながるものであり、両大学は連携し、卓越した超小型衛星開発利用拠点の構築を目指していきます。
【用語説明】
注1. スペース・トランスフォーメーション
宇宙空間というフロンティアにおける活動を通じてもたらされる経済・社会の変革
東北大学大学院工学研究科
教授 吉田 和哉
電話番号:022-795-6992
Email:yoshida.astro*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
北海道大学大学院理学研究院
教授 高橋 幸弘
電話番号:011-706-9244
Email:yukihiro*sci.hokudai.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇電気通信研究所 教授 石山和志
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
丸嘉工業株式会社は、東北大学電気通信研究所石山和志教授、および豊田工業大学工学部藤﨑敬介教授と実施した共同研究により、電気自動車など高周波化が進むパワーエレクトロニクス回路の小型・軽量・低損失化に大きく貢献できる革新的進歩をもたらす新磁性材料の実現を発表しました。
なお、本研究成果は、日本時間2024年3月15日(金)公開のJournal of Magnetism and Magnetic Materialsに掲載されました。
図1.液体急冷法により作製した19 μm厚の6.5wt%Si-Fe合金
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 石山和志(いしやま かずし)
電話: 022-217-5487
Email: kazushi.ishiyama.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所総務係
TEL: 022-217-5420
Email:riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部
助教 齋藤 勇士
研究者ウェブサイト
【概要】
国立大学法人東北大学学際科学フロンティア研究所( 所⾧: 早瀬敏幸、以下「東北大学際研」) と株式会社ElevationSpace(代表取締役CEO:小林稜平、読み:エレベーションスペース、以下「ElevationSpace」)が取り組む、高い安全性と低コストを両立するハイブリッドスラスタ実現に向けた共同研究について、2023 年10 月~2024 年2 月にかけて、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事⾧:山川宏、以下「JAXA」)の協力のもと実施した、実機に近い試験モデルによる燃焼試験に成功したことをお知らせします。
軌道離脱を実現するような高い推力と、小型衛星に搭載可能な大きさ、経済性、安全性を兼ね備えるハイブリッドスラスタは、世界でも宇宙実証に至っている例がなく(※1)、ElevationSpace が2025 年に打ち上げを予定している無人小型衛星で世界に先駆けた実用化を目指します。
本ハイブリッドスラスタは、打ち上げ数の急増する小型衛星市場で高い需要が見込まれるほか、月以遠への高頻度な宇宙探査実現にも寄与すると考えられ、我が国の宇宙産業市場の拡大や宇宙開発領域における国際競争力向上のため、研究開発を加速していきます。
【注釈】
※1 2024 年2 月 株式会社ElevationSpace 調べ
(研究に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所
新領域創成研究部
助教 齋藤 勇士
TEL:050-7788-1561
Email: yuji.saito*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 藤原 英明
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇未来科学技術共同研究センター
学術研究員 福原 幹夫
研究者ウェブサイト
【発表のポイント】
ChNFの伝導電子はアミニル基(N●H)のN誘起ラジカル(注2)であることを明らかにしました。
【概要】
バイオマス化合物であるキトサンはセルロースに次いで地球上での賦存量(ふぞんりょう)(注3)が多い天然の化合物であり、セルロースのOH基がNH基に置換しただけの酷似した分子構造を持っています。キトサンは蟹・海老や昆虫の甲殻類、烏賊の骨、カビ、キノコ等の菌類の細胞壁を構成するキチン(注4)から容易に生成されますが、大きな用途が見つかっておらず、廃棄物として扱われるのが現状です。
東北大学未来科学技術共同研究センターの福原幹夫学術研究員と橋田俊之特任教授、東京大学の磯貝明特別教授らの研究グループは共同で、ChNF組織を制御した厚さナノメートルサイズのシート材に半導体特性と蓄電特性が発現することを見出しました。シート材のI(電流)-V(電圧)カーブは、負電圧領域に顕著な負性抵抗が現れるn型半導体(注5)特性を示しました。また電子スピン共鳴法(注6)の測定から伝導電子はアミニル基(N●H)基の不対電子ラジカルであることを明らかにしました。
研究グループは、既に植物性ケナフを原料とするセルロースナノファイバーに同様の特性を発見しており、今回の動物性キトサンの結果と合わせると低廉で自然界に広く賦存するバイオ素材による半導体作製、さらには「ペーパーエレクトロニクス(注7)」の実用化が期待されます。
本研究成果は、2024年3月1日に米国物理学会誌AIP-Advancesにオンライン掲載されました。また本論文は、注目度の高い論文としてEditor's pick に選定されました。
図1. -210V から+80V までの電圧間を1.24V/sの上下速度で掃引した時のI-V特性。-210~-170V間にN型負性抵抗が現れ曲線は振動する。挿入図:-180Vで7.8MHzを示すFFTスペクトラム。
【用語解説】
注1. キトサン:
キチンを加水分解により脱アセチル化して得られるポリグルコサミンで不溶性の食物繊維。
注2. アミニルN●H基のN誘起ラジカル:
キトサンのβ-1,4 結合グルコサミン基における N●Hアミニル基中の対電子をもつ窒素N原子から励起された不対電子。フリーラジカルまたは有利基とも呼ばれる。
注3. 賦存量(ふぞんりょう):
全自然エネルギーから現在の技術水準では利用困難なものを除いたエネルギーの大きさ。
注4. キチン:
蟹や海老の外骨核に含まれているN-アセチルグルコサミンのポリマー。
注5. n型半導体:
負の電荷を持つ自由電子がキャリアとして移動することで電流が生じる半導体。例えば、4価のSiに微量の5価元素のPやAsを添加すると一つ余剰の電子が生じ色々な特性が発現する。
注6. 電子スピン共鳴法:
ラジカル(不対電子)を持つ試料に磁場中でマイクロ波放射し,マイクロ波とラジカルの間で起こるマイクロ波を吸収して励起する原理を利用してラジカルの種類や量を測定する手法。
注7. ペーパーエレクトロニクス:
セルロースやキトサンを基材として紙本来の特性を利用したエレクトロニクス。
(研究に関すること)
東北大学未来科学技術共同研究センター
学術研究員 福原幹夫
TEL: 080-1069-4789
Email: mikio.fukuhara.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学未来科学技術共同研究センター 広報
TEL: 022-795-4004
Email: niche-pr*niche.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇東北大学大学院理学研究科
附属地震・噴火予知研究観測センター
准教授 太田雄策(おおた ゆうさく)
研究室ウェブサイト
【概要】
ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)、ソフトバンクの子会社で位置補正情報の生成・配信事業を手がけるALES株式会社(以下「ALES」)、東北大学大学院理学研究科、京都大学防災研究所、およびソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム(以下「本コンソーシアム」)※1は、令和6年能登半島地震に関する地殻変動の調査分析を継続して実施しています。また、政府の地震調査研究推進本部 地震調査委員会や地震予知連絡会、国内外の関連学会に分析した内容を報告するなど、さまざまな研究・調査活動に協力しています。※2
本コンソーシアムは、ソフトバンクが全国3,300カ所以上に設置している高密度なGNSS※3観測網(以下「ソフトバンク独自基準点」)のうち、能登半島エリアのデータを活用して統合解析することで、令和6年能登半島地震による水平変動や上下変動の地震時変位量と、それに基づく断層面上でのすべり分布などを推定しました。また、2020年から継続している能登半島での地震活動に伴う隆起などの地殻変動に関する詳細の分布も解析しました。これらの成果は、政府の地震調査委員会などで報告され※4、令和6年能登半島地震の発生後および発生前から継続している地震活動の評価などに活用されています。
このような地震の評価には従来、国土地理院のGEONETや、大学などの研究機関が設置するGNSS観測点が主に活用されていました。今回これらの観測点に加えて、ソフトバンク独自基準点で取得したデータも合わせることで地殻変動を具体的にデータで示して、より詳細に地震の描像を得られたことは、ソフトバンク独自基準点のデータが持つ空間的な稠密性(ちゅうみつせい)の高さや有用性を示すものです。
ソフトバンクとALESは、今後も本コンソーシアムの活動を通して、地震だけでなく、地球科学に関するその他の分野(火山、気象、電離圏など)の研究活動にも協力します。さまざまな現象の理解が進むことで、自然災害の高精度な予測を可能にするなど、防災・減災に貢献することを目指していきます。
ソフトバンク独自基準点、国土地理院GEONET、京都大学・金沢大学観測点のGNSS統合解析によって得られた、令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)の発生時と発生後の地殻変動。赤丸は1月1日に発生した地震の震央(気象庁による情報)を表す。
(左)地震時地殻変動。2023年12月22~31日と2024年1月22~31日(1点のみ2月9~18日)の差を地震時変動とした。
(右)対数関数フィッティングによって得られた地震後32日間の地殻変動。
【用語解説】
※1 本コンソーシアムには、国内の21研究機関28部局と民間企業3社が参画しています。詳細はこちらをご覧ください。
※2 本コンソーシアムの成果の一覧は、こちらをご覧ください。
※3 GNSS(Global Navigation Satellite System)とは、米国のGPSなど、上空を周回する人工衛星から送信される電波を利用して、受信点の位置を正確に把握する衛星測位システムの総称です。日本政府は国産のQZSS(準天頂衛星)「みちびき」の利用を促進しています。地面に固定された受信点であれば、時間間隔をおいて計測することで、その間に生じた地殻変動を3次元的に把握することができます。
※4 地震調査研究推進本部 地震調査委員会の評価資料は、こちらをご覧ください。
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科
附属地震・噴火予知研究観測センター
准教授 太田雄策(おおた ゆうさく)
電話:022-225-1950
Email:yusaku.ohta.d2*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022−795−6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇多元物質科学研究所 准教授 押切友也
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
持続可能社会の実現のためには、エネルギー問題の解決が不可欠です。その方法論の一つとして、太陽光エネルギーを化学資源に変換する人工光合成(注2)の実用化が待たれています。しかし、太陽光が単位時間あたりに単位面積を通過する光子(注3)の数であるエネルギー密度(光子束密度(注3))は低く、複雑な反応の実現は困難であるとされてきました。
東北大学多元物質科学研究所の押切友也准教授と中川勝教授の研究グループは、一般的な放送衛星(BS)からの受信用アンテナの100万分の一という極めて微少なサイズのパラボラ型の金属反射面と半導体から構成される光ナノ共振器を開発し、可視光を捕集して金属ナノ粒子に集めることで光強度を4桁(10,000倍)増強できることを、電磁界シミュレーション(注4)を用いて明らかにしました。
局所的に光の強度を増大させると、そこで生成する電子と正孔の数も増大します。その結果、従来は困難とされてきた窒素の還元によるアンモニアの製造や、二酸化炭素の還元による炭素化合物の製造といった、多電子反応を推進する新たな光化学反応場として開発した光ナノ共振器の活用が期待されます。
本成果は、科学誌The Journal of Physical Chemistry: C に 3月14日付で、オンライン掲載されました。
図1. 一般的なBS受信用パラボラ型アンテナ(左)と、本研究で用いたナノサイズのパラボラ型光共振器(右)。1ナノメートルは10億分の1メートル。
【用語解説】
注1.光共振器
光の共振により干渉が生じ、特定の波長の光を一定時間、一定の空間に光を閉じ込めることが可能な装置。本研究で用いた、金属反射膜と半導体から構成されるパラボラ型光共振器と、金属ナノ粒子が示すプラズモンは、どちらも光共振器の一種と言える。
注2.人工光合成
植物の光合成の仕組みをまねるところから始まった、人工的に太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換させる反応。ここでは、i)太陽光中の可視光を光エネルギー源として用いる、ii)水を電子源として用い、水の酸化に基づいて酸素を生成する、iii)エネルギー蓄積反応により、始状態よりも高エネルギー物質を生成する、という条件を満たすものを指す。
注3.光子、光子束密度
光子は物質の最小単位である素粒子の一つで、光(電磁波)を粒子と考える場合の名称。光子束密度は単位時間あたりに単位面積を通過する光子の数。光量子束密度ともいう。典型的な太陽光の光子束密度は波長400 nmで1× 1015 光子∙ cm-2∙s-1 である。
注4.電磁界シミュレーション
4つの電界・磁界(電場・磁場ともいう)についての基礎方程式を数値的に解くことで、電界・磁界分布の物理構造の相互作用を解析するシミュレーション。
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 光機能材料化学研究分野
准教授 押切 友也(おしきり ともや)
電話:022-217-5671
Email:tomoya.oshikiri.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野
教授 寺田 賢二郎
研究者ウェブサイト
【概要】
東北大学災害科学国際研究所と日本工営の共同研究チームは、地震計観測網を活用し、地震発生時に都市全体の建物被害を瞬時に予測できる技術を開発しました。
この技術では、事前(災害発生前)に、対象となる都市全体に関する地震シミュレーションを実施します。断層から地中を通って地表面まで到達する地震動の伝播と、地表面の振動による、全ての建物の揺れをシミュレーションによって計算し、被害の程度を数値で表します。さらにこの計算を多数のケースで実施し、その結果をデータ科学技術で分析して、都市の建物被害の空間特性を把握しておきます。実際に地震が発生した際は、この事前に把握しておいた空間特性と、既存の観測網から得られた少数の建物の振動データを組み合わせ、都市全体の建物被害を瞬時に予測することが可能となります。
地震の発生前および発生後に都市全体の被害状況が予測できれば、様々な災害パターンに対応した都市の防災および発災後の緊急支援・応急復旧に役立ちます。例えば、「この都市のどの地域で被害が大きいのか?」「避難所や病院などの重要施設の被害状況は?」「建物の倒壊によって通れなくなっている道路は?」なども推測できます。また、本技術を継続的に活用していけば、現状の観測網において、どこに観測点を追加すれば予測精度が向上するかも理論的に導き出せるため、「観測網を強化するために地震計を追加で設置するのであればどこがよいか?」という問いに答えることも可能となります。
開発する技術のイメージ図
東北大学災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野
教授 寺田 賢二郎
電話番号:022-752-2132
Eメール:tei*irides.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇大学院歯学研究科 教授 鈴木治
研究室ウェブサイト
【概要】
日揮ホールディングス株式会社(代表取締役会長CEO 佐藤雅之)は、日揮グループの機能材製造事業会社である日本ファインセラミックス株式会社(代表取締役社長 田中宏、以下、JFC)が、骨の再生能力に優れ、生体吸収性が高い「リン酸八カルシウム(英名:Octacalcium Phosphate、略称:OCP)※1」について、今般これまで困難とされてきた量産化に世界で初めて成功し、幅広い医薬品・医療機器製造会社との協業を目指してサンプル出荷を開始しましたので、お知らせいたします。
OCP粉末
【用語解説】
※1:化学式はCa8H2(PO4)6・5H2Oと表記され、水溶液中からのHA形成の前駆体の一つであり、また、骨アパタイト結晶の前駆体とも考えられてきた生体材料。リン酸オクタカルシウムとも称されている。化学式が示す通り、多量の結晶水を含むため、HAやβ-TCPと異なり、単一結晶相として焼結できないことから、生体由来高分子、天然由来高分子、合成高分子と組みあわせた複合体の研究が報告されている。β-TCPと同様に生体内吸収性を示す。また、OCPは骨芽細胞など、骨組織に関連するいくつかの細胞を活性化する能力を持つことが報告されている。
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
顎口腔機能創建学分野
教授 鈴木 治(すずき おさむ)
Email: suzuki-o*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
広報室
TEL: 022-717-8260
Email:den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇大学院医学系研究科分子代謝生理学分野 教授 酒井寿郎
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
脂肪組織にはいくつかの種類があります。白色脂肪組織(WAT)はエネルギーの貯蔵や供給を行うのに対し、褐色脂肪組織(BAT)はエネルギーの燃焼に重要なミトコンドリアが多く、熱を生み出す組織として知られています。個体が寒冷にさらされると、褐色脂肪細胞に似たベージュ脂肪細胞(注3)がWATの中に出現し、寒冷への適応を可能にします。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は脂肪を燃焼するため、肥満や糖尿病の治療標的として注目を集めています。
東北大学大学院医学系研究科の酒井寿郎教授らの研究グループは、マウスにおいてエピゲノムの書き換えを行う酵素(注4)の活性を欠失させると、WATでミトコンドリア増生(注5)が起こらなくなり、ベージュ脂肪細胞が作成されなくなることを明らかにしました。さらにこのマウスは年を取るにつれて体重が増加し、代謝異常が起きました。またヒトの皮下脂肪のエピゲノム書き換え酵素の発現と肥満度や血中コレステロール値は、負の相関を持つことを明らかにしました。肥満や生活習慣病に対する新たな治療法や予防法への応用につながる成果です。
本研究成果は、科学誌iScienceオンライン版に3月18日に掲載され、4月19日27巻4号に掲載されます。
図1. 野生型マウスでは寒冷刺激によってJMJD1Aがリン酸化され、BATではクロマチンルーピングを介して熱産生を促し、WATではヒストン脱メチル化を介してベージュ化、ミトコンドリア増生を促進しています。脱メチル化活性を失ったJmjd1a-HYマウスではBATの活性化は起こるが、ヒストン脱メチル化を介したWATのベージュ化、ミトコンドリア増生を起こせず、エネルギー消費量が低下して肥満とインスリン抵抗性を呈します。
【用語解説】
注1. エピゲノム:塩基配列以外の後天的に書き換えられる遺伝情報。DNAのメチル化修飾や、ヒストンのメチル化、アセチル化などの翻訳後修飾などが知られる。
注2. ミトコンドリア:酸化的リン酸化を行い、エネルギーを消費しATPを合成する細胞内小器官。脱共役反応による熱産生も行う。
注3. ベージュ脂肪細胞:脂肪を消費し、熱を産生する働きを持つ脂肪細胞。長期間の寒冷刺激で、皮下の白色脂肪組織中に出現する。
注4. エピゲノムの書き換えを行う酵素:ヒストンの翻訳後修飾を付加する酵素や除去する酵素などが知られる。
注5. ミトコンドリア増生:ミトコンドリアの数が増えること。寒冷刺激を受けて出現するベージュ脂肪細胞では、ミトコンドリアの数が増えて熱産生を促進させる。
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科分子代謝生理学分野 教授 酒井 寿郎(さかい じゅろう)
TEL:022-717-8117
Email: jmsakai*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
※部局長候補者については、2024年3月末で任期満了を迎える部局長のみ
東北大学総務企画部広報室
TEL: 022-217-4816
E-mail: koho*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
〇大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻
特任准教授(研究) 平木岳人
【概要】
YKK AP株式会社(本社:東京都千代田区、社長:魚津 彰、以下、YKK AP)と国立大学法人東北大学(総長:大野 英男、以下、東北大学)は、2024年4月1日より共同で次世代型アルミニウム資源循環のため共同研究講座を開設します。
YKK APはビジョン「Evolution 2030」の柱に地球環境への貢献を掲げ、循環型社会実現に向けた仕組みづくりを推進しています。製品素材のリサイクル技術確立を目指し、2030年度までにアルミリサイクル率100%(国内)達成に向け、アルミ鋳造設備の再構築や技術開発・研究など環境価値創出に努めています。
一方、アルミリサイクルプロセスにおいては、アルミ以外の素材(樹脂等)から発生する副生ガスや大量に発生する副生廃棄物(ドロス)の適正処理が重要な課題であり、これらの副産物をも循環利用可能なプロセスの設計開発が求められています。このアルミリサイクル副産物の循環利用は従来研究で未だ解決に至っておらず、その解決を図るため金属材料分野で高い実績を誇る東北大学内に共同研究講座を設置し、持続可能なアルミリサイクル社会実現に向けて以下の研究を実施します。
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
特任准教授 平木 岳人
TEL: 022-795-7493
Email: takehito.hiraki.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科 情報広報室
担当 沼澤 みどり
Tel:022-795-5898
Email:eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇東北メディカル・メガバンク機構 教授 荻島創一
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
世界各国でゲノム医療・研究、創薬開発のためのインフラとして、バイオバンクの整備が進み、欧州ではそのネットワーク構築も行われています。日本でも日本医療研究開発機構(AMED)「ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)」の研究プロジェクトで主要な14のバイオバンクが参画するバイオバンク・ネットワーク注1を構築し、バイオバンク横断検索システムの運用を行うなど利活用の促進に取り組んできました。
このたび、さらなる利活用の促進を図るため、バイオバンク・ネットワークに参画するバイオバンクの分譲申請を共通して行える利用申請システムを開発し、試行的な運用を開始しました。アカデミアや企業のゲノム医療研究、創薬開発の研究者などの利用者は、バイオバンク横断検索システムで検索した試料・情報について、共通の利用申請フォームに一度記入するだけで複数のバイオバンクの担当者にアクセスでき、分譲申請がスムーズに進むことを可能にしました。
バイオバンクが協力して構築した本申請システムを用いて、総計60万人を超える試料・情報が一つのバイオバンクであるかのようにスムーズに利活用できるようになるための一歩となり、よりよいゲノム医療研究、創薬開発が実現し、成果の創出につながると考えられます。
図. 利用申請システムの表示画面
【用語解説】
注1. バイオバンク・ネットワーク
日本医療研究開発機構(AMED)によるゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)の課題「ゲノム医療実現推進のためのバイオバンク利活用促進に向けたバイオバンク・ネットワーク構築とバイオバンク利活用促進利活用促進に関する研究開発」に参画する以下14のバイオバンクによるネットワーク。
<ネットワーク参画バイオバンク>(2024年2月現在)
バイオバンク・ジャパン (BBJ)
東北メディカル・メガバンク計画(TMM)
ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク (NCBN)
・ 国立がん研究センター(NCC)
・ 国立循環器病研究センター(NCVC)
・ 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
・ 国立国際医療研究センター(NCGM)
・ 国立成育医療研究センター(NCCHD)
・ 国立長寿医療研究センター(NCGG)
京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンター (KUB)
東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンター (TMD)
筑波大学附属病院つくばヒト組織バイオバンクセンター (THB)
岡山大学病院バイオバンク (OBB)
神戸大学医学部附属病院バイオリソースセンター(KBR)
信州大学医学部附属病院バイオバンク信州(BBS)
注2. バイオバンク横断検索システム
研究目的に合致する試料や情報が、どこのバイオバンクにどれだけ保管されているかについて簡単に無料で調べることができるウェブ上の検索システム。
2019年10月の初版公開以来、試料品質管理情報・同意情報の項目を追加した第2版(2020年11月)、疾患特異的臨床情報を追加した第3版(2021年9月)、前向き採取による試料を識別するための項目を追加した第4版(2023年3月)を公開、累次のアップデートを重ねながら運用を行っている。
https://www.biobank-network.jp/cross-search
(研究に関すること)
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
統合データベース室
教授 荻島 創一(おぎしま そういち)
TEL: 022-274-6038
Email: ogishima*megabank.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道担当)
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
教授 長神 風二(ながみ ふうじ)
TEL: 022-717-7908
Email: tommo-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇材料科学高等研究所 教授 藪浩
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
次世代のエネルギーデバイスには、高出力・高容量だけでなく環境負荷が低いことも求められます。しかし一般的な電池には、環境負荷が高くて資源量に制限のある様々な重金属やプラスチックが材料として多用されてきました。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)、電力中央研究所の小野新平上席研究員、東北大学発ベンチャーのAZUL Energy株式会社(宮城県仙台市、伊藤晃寿社長)、英国のスタートアップであるAMPHICO(アンフィコ、登記名:Amphibio Ltd、英国ロンドン、亀井潤社長)からなる研究グループは、燃料電池と金属空気電池の一種であるマグネシウム空気電池(注3)を独自の安全な電極触媒と紙をベースに作製し、環境負荷の高い重金属やプラスチックをほとんど使わず、塩水という身近な材料をトリガーにウェアラブルデバイスを駆動するのに十分な1.8 Vの電圧と100 mW/cm2以上の出力、968.2 Wh/kg(Mg)の容量を示す高性能な「金属空気紙電池」を実現しました。
本電池は塩水をトリガーとして発電します。この特徴を活かし、コロナウイルス感染に伴う血中酸素濃度の低下を監視するウェアラブルなSpO2測定器の電源として、また、溺れた際に要救助者の位置を特定するGPSセンサーを搭載したスマートライフジャケットの電源として利用できることを実証しました。
本電池は高性能でありながら、土壌や海水中に豊富に存在するマグネシウム、安全な触媒、紙、炭素など、環境に優しい素材で構成されているため、廃棄時の環境負荷が非常に低く安全であり、様々なウェアラブルデバイスや非常用電源などへの応用が期待されます。
本研究成果は、現地時間の3月18日に英国化学会による科学誌RSC Applied Interfacesのオンライン速報版に掲載され、同誌のoutside coverにも採択されました。
図1. 金属空気紙電池の模式図と性能(左)、及び様々なウェアラブルデバイスへの実装(右上)。右下は用いた正極触媒の作製方法。
【用語解説】
注1. SpO2測定器
パルスオキシメーターとも呼ばれ、動脈における酸素飽和度(SpO2)を測定する医療機器。酸素に結合したヘモグロビンとしていないヘモグロビンでは色が異なることから、波長の異なる光を当ててセンサーが受け取るそれぞれの光の量を比較して飽和度を算出する。
注2.GPS
Global Positioning Systemの略で、米国防総省が開発した代表的な衛星測位システム(GNSS)。人工衛星を利用して現在位置を測定するシステムで、受信機が複数の衛星から電波を受信することで緯度・経度・高度を割り出すことができる。GNSSには他に日本の「みちびき」、EUのGalileo、ロシアのGLONASS、中国の「北斗」、インドのNAVICがある。
注3. マグネシウム空気電池
負極材料にリチウムより豊富なマグネシウムを用いた電池。水や食塩水を注ぐことで発電する。長期保存可能な使い切りの一次電池は実用化されており、非常用や災害用として販売されている。一方、繰り返し充放電できる二次電池は、次世代の蓄電池の1つとして注目されている。
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 藪 浩(やぶ ひろし)
TEL: 022-217-5996
Email: hiroshi.yabu.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇大学院医学系研究科心療内科学分野 教授 福土審
研究室ウェブサイト
【概要】
千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの須藤佑輔特任研究員、平野好幸教授らの研究チームは、全国5施設との共同研究により脳機能画像の大規模解析を実施し、世界で初めて神経性やせ症における脳機能異常の網羅的な解明を行いました。その結果明らかになった全脳45領域間の機能異常は、神経性やせ症の病態理解を深めると共に、同疾患の診断マーカーや治療上のターゲットになることが期待されます。
本研究成果は2024年3月19日に、学術誌Psychological Medicineのオンライン版で公開されました。
図1 神経性やせ症で生じていた機能的結合性の変化(模式図 赤線:機能亢進 青線:機能低下)
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科心療内科学分野
教授 福土 審
TEL: 022-717-8162
E-mail: sfukudo*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
E-mail: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています
〇大学院農学研究科
准教授 加藤 俊治
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
東北大学大学院農学研究科と株式会社 J-オイルミルズは2019年4月から取り組んできたJ-オイルミルズ 油脂イノベーション共同研究講座をさらに3年間延長し、2027 年 3 月 31 日まで開講することをお知らせします。
本共同研究講座は、これまで食用油脂の酸化について研究に取り組んでまいりました。食用油脂の適度な酸化は食品に好ましい風味を与える一方で、過度な酸化は食品の味や香りを損なう要因となっています。しかし、酸化のメカニズムは極めて複雑であるため、酸化を完全にコントロールする方法は確立されていません。
5年間にわたる共同研究で研究チームは酸化油脂を詳細に分析する方法を複数構築し、熱・光酸化によって生じる成分と生成経路を解明してきました。今回、共同研究講座を3年間延長することによって、油脂の酸化に関するさらなる基礎データ収集を進め、これまで得られた熱・光による油脂の酸化に関する知見やオリーブオイルの風味に関する知見を基に、油脂のおいしさや健康価値の創造、実用化を視野に入れた応用研究を展開していきます。
(研究に関すること)
東北大学大学院農学研究科
准教授 加藤 俊治
TEL: 022-757-4420
Email: shunji.kato.b5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科
総務係
TEL: 022-757-4003
Email: agr-syom*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
〇多元物質科学研究所 教授 芥川智行
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
【概要】
有機材料は、その分子集合様式や分子間に働く様々な相互作用を化学的に制御することによって多彩な機能を引き出すことができます。現在の電子デバイスのほとんどはシリコンに代表される無機材料で作られていますが、有機材料に置き換えることによって、柔らかくて曲げに強い、真空装置がいらない印刷技術で、短時間で製造できるなど様々な利点があります。
研究グループは、高いホール移動度を有する半導体特性を有する有機材料のベンゾチアノベンゾチオフェン(BTBT)(注3)骨格に極性水素結合(注4)ネットワークを導入して強誘電性を発現させ、半導体特性との両立に成功しました。半導体特性と強誘電体特性は、外部電場に対して電流を流す性質と電荷を保持する性質であり互いに相反する物性であることから、その分子設計の指針は異なります。今回これらを両立させることにより、外部電場に応答可能な分子集合体の創製が可能となり、有機半導体特性のON/OFF制御の実現に成功しました。本成果は、次世代有機エレクトロニクスの機能制御のための技術開発に新たな可能性を拓くと期待されます。
本研究の成果は米国現地時間の2024年3月14日、学術誌Journal of the American Chemical Societyにてオンライン掲載されました。
なお本成果は、東北大学多元物質科学研究所 大学院生(大学院工学研究科)の三部宏平氏と芥川智行教授、信州大学学術研究院理学系の武田貴志准教授、新潟大学教育研究院自然科学系の星野哲久特任准教授、京都大学大学院工学研究科の関修平教授と松田若菜博士、東北大学大学院工学研究科の松本祐司教授と丸山伸伍准教授および山本俊介助教、同 大学院生(研究当時)の島田一輝氏と辻田香奈瑛氏らの共同研究によるものです。
図1.分子1の構造.赤:テトラデシルアミド基。青:BTBT骨格
【用語解説】
注1.半導体:電気を良く通す導体と絶縁体との中間の性質を持つ物質や材料。半導体を材料に用いたトランジスタや集積回路に利用されています。
注2.強誘電体:外部に電場がなくても双極子モーメントが整列しており、かつその方向が外部電場に対して反転できる物質です。双極子モーメントが自発的に整列した状態が強誘電状態でランダムな状態が常誘電体となり、温度により常誘電体-強誘電体相転移を示します。
注3.ベンゾチアノベンゾチオフェン(BTBT):2つのチオフェン環と二つのベンゼンが縮環した電子供与体であり、ホールをキャリアとする優れたp型有機半導体材料として有機エレクトロニクスで用いられています。
注4.極性水素結合:水素結合は、電気陰性度が大きな原子に共有結合で結びついた水素原子が、窒素、酸素、フッ素などの孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用です。極性水素結合は、異なる種類の原子間に位置する水素原子から形成し、双極子モーメントが存在します。
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 芥川 智行(あくたがわ ともゆき)
TEL: 022-217-5653
Email: akutagawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています