写真 Column-No.01
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鈴木厚人教授写真鈴木厚人教授プロフィール
国際協同研究の舞台裏

 平成12年8月に東北大学が主催したRE2000仙台フォーラムにおいて,「グロ−バルな大学間ネットワークの構築」 「21世紀の先端学術と高等教育の構築」に加えて,「国際的協同研究の推進」がコミュニケとして採択され た。

  “国際協同研究の推進”は国際交流の柱の一つであり,法人化後の東北大学が目指す国際教育研究拠点形成の根幹とも言える。 私が所属する理学研究科で は,現在,大小〜60の国際協同研究が進行中である。今後,さらにこれを発展させるために,研究科組織としての支援基盤の構築を検討している。国際協同研究の重要性は高まる一方である。

  しかしながら,国際協同研究にはプラス面だけではなく,マイナス面があることを覚悟しておかなければならない。それは研究そのものではなく,協同研究のプロセスにおいて,これまでに経験したことがないようなトラブルに多々遭遇する。そして,その解決にかなりの時間が費やされる。このようなトラブルは,双方の文化,習慣,価値観等の相違に起因すると考えられる。そこで,この種のトラブルを一つでも未然に防ぐために,老婆心ながら下記のような同意書の作成を推奨する。もちろん,研究分野によってはこのようなトラブルはなく,スムーズに協同研究が行なわれているものと思われる。口数,声の大きさ,体力で勝負する我々の研究分野(素粒子物理の実験的研究)のみの特有の現象かもしれないが?

  我々は現在,東北大学と米国12研究機関 (ハワイ大,UCバークレイ,ローレンス・バークレイ国立研究所,スタンフォード大,カリフォルニア工科大,ニューメキシコ大,アラバマ大,ルイジアナ州立大,テネシー大,デューク大,ノースキャロライナ大,ノースキャロライナ州立大,ドレクセル大),中国1研究機関(高能エネルギー物理学研究所)からの研究者と大学院生の計98名からなる協同研究(日本における)を行なっている。中核的研究拠点形成プログラム(COE)に選定され予算措置された研究の,しかも実験装置建設の途中段階から,各研究機関長の親書を携え、僅かな予算措置の可能性を秘めて協同研究を申込んできた米国グループに門戸を開放したのは,偉い先生方の助言に基づき日本における学術研究の国際化を強調することが第一の目的であった。しかし,このような見栄を張ったために大きなつけが回ってきた。

  米国グループの予算獲得のために,ワシントン(米国エネルギー省)に足を運んでの応援,各研究機関への研究費支援要請の応援,米国研究者間の喧嘩の仲裁などは序の口である。最も注意しなければならない事は,口八丁で目立ちたがり屋が多くいる米国グループ に,表面的でさえも“軒先を貸して母屋を取られない”ようにしなければならない。
 日本グループが充分な研究能力を持っていても,主導権を握るための体制固めが重要になる。 ここで“同意書”が威力を発揮する。

 
 協同研究を開始する前にもめそうな事項を列挙し,取決めを交わして文章化する。そしてそれらをまとめて,各研究機関代表者のサイン入りの協同研究同意書を作成する。我々の場合の同意書は以下のようなものである。

Purpose:研究の目的,協同研究の意義。

History:“誰が研究を提案”,“どこが予算措置を行なったか”,“いつ研究がスタート”,“協同研究の発端,経緯” 等を年次順に記述 。

Organization of the Collaboration :協同研究運営体制の明記( Spokesman,Executive Committee,Collaboration Council, Collaboration Meeting)

Responsibilities:実験装置建設の役割分担,経費分担の確認

Operation Costs:実験開始後の実験装置の運転経費,維持管理経費の分担基準を決める。一般に此の種の経費支出は各国も渋るため,早期に釘をさすことが必要。

Onsite Operation:データ収集が開始されると,実験装置の稼働点検,データの質のチェック等,実験装置の性能維持やデータの質の確保のために1日数人一組のシフト体制を敷く。全員が少なくとも1週間,日本に来てシフト業務を果たすことを義務付けている。

Collaboration Meeting:年2〜4回,日本と米国で開催。

Publication Policy:論文の著者順の取決めは頭が痛くなる。素粒子物理の社会では,2〜3名の共著でもアルファベット順に著者を並べる。しかし日本では依然として筆頭著者を重んじる傾向にある。
  このため苦肉の策として,重要論文(全体で解析)は研究機関順に並べる。ホスト機関の東北大学が筆頭,以下はアルファベット順。各機関内ではアルファベット順に著者を並べる。このような方式では,日本人が常に筆頭著者になる。博士論文を投稿する時は,所属する研究機関が最初で論文作成者が筆頭。その他は上記に従う。

Cessation:ある研究機関が協同研究から撤退する場合の取決め事項。この研究機関が持ち込んだ実験装置は,Collaboration Councilメンバーの90%以上の賛成が得られなければ持ち帰ることを禁止する。

Public Relation:報道関係者のコントロールはExecutive Committeeが担当。
等々
  このような同意書を交わしても,なんだかんだと理由をつけて破ろうとする。国際協同研究は精神的な苦労が付きまとう。


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