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宮城県沖地震発生に至るまでの過程を捉える

  1978年6月12日に宮城県沖のプレート境界でM7.4の地震が発生し,仙台市を中心に各地で大きな被害を受けた.この宮城県沖地震から今年でもう26年が経過しようとしている.
  平均繰り返し間隔が37年なので,今後11年以内に次の宮城県沖地震が起こる確率が50%である.国の地震調査研究推進本部は,過去の地震発生履歴データに基づいて全国の地震発生確率を推定し,公表している.宮城県沖地震はその中で最も高い発生確率である.繰り返し間隔にはゆらぎがあり,最も短かった1861年の宮城県沖地震の場合26年3ヶ月である.本年9月にはそれと同じ26年3ヶ月に達する.

  理学研究科地震・噴火予知研究観測センターでは,迫り来る宮城県沖地震の予測精度向上を目指して,重点的な取り組みを進めている.宮城県沖地震のようなプレート境界地震については,近年の研究の進展により,その発生に至る応力集中機構が明らかになってきた.この理解に基づいて,次の宮城県沖地震の発生に至るまでの過程を詳細に捕捉しようとするものである.以下に簡単にその取り組みについて紹介する.

  東北日本は典型的な「プレート沈み込み帯」に位置し,プレートの沈み込みに伴って発生する地震や火山活動の研究に格好のフィールドを提供してきた.その結果,地球上で最も研究の進んでいる沈み込み帯の一つとして常に注目を浴びてきた.プレート境界地震の応力集中機構の研究についても,同様に東北日本が世界をリードしている.これには,長期間にわたって蓄積された観測データと,それを用いた丹念な解析が重要な役割を果たした.

 そのような研究の結果,プレート境界地震は,以下のような過程を経てその発生に至ると考えられるようになってきた.プレート境界地震は,それまで固着していたプレート境界面で,固着がはがれ急激にすべることにより発生する.このプレート間の固着状況が場所により顕著に違いがあることがわかってきた.プレート境界面上で強度が大きくしっかり固着している領域(アスペリティ)はあらかじめ決まっていて,ずるずると非地震的にゆっくりすべる領域(安定すべり域)に囲まれてパッチ状に分布している.まず,アスペリティの周囲で定常的あるいは間欠的にゆっくりとした非地震性すべりが生じる.これがアスペリティへの応力集中をもたらす.

 
 さらに周囲の非地震性すべりが進行し,アスペリティにかかる応力は増大する.やがて蓄積した応力がアスペリティの強度の限界にまで達し,アスペリティは急激にすべる.地震の発生である.  

  従って,プレート境界地震の予測精度を向上させるためには,アスペリティの周囲で非地震性のゆっくりすべりがどのように生じ,それがどう進展していくかを詳細に捕捉することが決定的に重要である.
  地震・噴火予知研究観測センターでは,東京大学地震研究所等の他機関とも協力しながら,宮城県沖のアスペリティの周囲で生じるであろう非地震性すべりの時間発展の様子を捉えるべく研究を進めている.

  非地震性のゆっくりすべりは通常の地震計では直接捉えることができない.GPS(汎地球測位システム)や孔井式歪計・傾斜計を用いた陸域における地殻変動観測の強化をはかり,非地震性すべりの検知能力を向上させた.震源直上での観測が可能となれば検知能力はさらに向上する.そこでGPSと超音波測距を組み合わせて用いる,海底での地殻変動観測手法の開発を行っている.

  また最近の研究によって,プレート境界面上には,小地震を繰り返し起こす小さなアスペリティが多数分布していることがわかってきた.これらの小さなアスペリティは周囲の非地震性すべりの量に応じて小地震としてすべることから,その発生数をカウントすることにより非地震性すべりの時間発展を追うことができる.あたかもプレート境界に埋め込んだ歪ゲージのような役割を果たしてくれるのである.このような繰り返し小地震を長期間にわたる地震波形記録から系統的に抽出し,非地震性すべりの時間発展を追うべく研究を進めている.そのため海底地震観測を含めた高感度地震観測の強化もはかっている.さらには,アスペリティの実体やアスペリティの相互作用を明らかにするために,地殻構造の調査を行ったり,室内実験や数値シミュレーションによる研究を進めている.

  次の宮城県沖地震は今後十数年のうちに発生するであろう.その発生に至るまで,プレート境界で順次生じると予測される現象を,できるだけ詳細に捕捉しようと我々は努力しているところである.


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