写真 Column-No.03
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佐藤源之教授プロフィール
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地雷とフロンティア

  火星探査ロボットの映像を見てわくわくするのは目に見えない物、知らない事への興味である。我々が知る世界と知らない世界の境界が人類のフロンティアである。フロンティアは大航海時代、アメリカ西部開拓など時代と共に形を変えてきた。今日、宇宙は紛れもない人類のフロンティアの一つであるが、地下わずか10cmの様子を直接目で見ることができないという意味で、地中も未だにフロンティアであり続けている。我々が研究している地中レーダは電波を地上から地中に送り込み、反射してくる電波を地上で捉え地中を可視化することで地下フロンティアを拓く地下計測技術である。電子医療技術のめざましい発達は人間の脳活動をつぶさに可視化するまでに至り人間の体内というフロンティアを急速に狭めたが、そこには地中可視化と共通した多くの技術が使われている。

  これまで地下計測技術は化石燃料、地熱エネルギー、鉱物資源、地下水・温泉開発などに利用されてきたが、新しい分野への応用にも広がりを見せている。現在国内だけで毎年2万件もの遺跡調査が行われている。地下計測によって地表面から地下埋設物を発見できればシャベルを使う発掘作業に要する時間と費用を節約できるだけでなく、地面を掘ることで貴重な遺物を破壊する危険を防ぐことも可能となる。
  東北大学は仙台城の遺構の上にキャンパスがあり学内で多数の遺跡調査が行われている。大学キャンパスに隣接する仙台城(青葉城)の石垣修復においては、すべてを掘り返すことが困難な場合に、地中レーダを利用して地中に埋没している石の存在を確認することができた。

研究の目的は研究者自身の興味が発端である。大学の研究は学問の新しい切り口をみつけることに意義があるが、研究者の興味が実際に世の中に役立つことは研究への意欲を膨らませてくれる。
 計測技術の開発では常に計測対象への興味が中心にある。それは研究者が意識するフロンティアの拡大に他ならない。自分の興味と社会の要求が一致したとき研究の展開が始まる。

 

  モンゴルは広大な草原と放牧、白く丸い移動式住居ゲルなど日本人が思い浮かべる通りの美しい国である。しかし都市人口の急増は豊かだった放牧生活の社会構造を変化させたため、多くの社会問題が発生した。水不足はその典型である。私たちは1996年より継続的に首都ウランバートルの地下水を地中レーダで測定し、季節変動の理解や生産量予想などを行ってきた。従来の方法より遙かに正確に水資源を予測した情報をウランバートル市水道局に提供することで将来的な水資源対策へ役立てている。

 イラクの影に隠れがちであるがアフガニスタンの復興支援にも日本は多大な努力を払ってきた。報道でよく知られているようにアフガニスタンの抱える問題の一つが度重なる内戦と外国軍の進入で国中に取り残された膨大な数の地雷である。地雷の探知・除去では作業員が探針を地面に突き刺し一つずつ直接地雷の位置を確かめたり、火薬の臭いを嗅ぎ分ける犬に探査をさせるなど、地道な努力を膨大に積み重ねてきた。我々が足で立つ地面の下に人類活動の負の遺産としての地雷が眠る。そこに科学技術の応用を本気で考える必要がある。

  3月末、カブール市内には桜の花によく似たアーモンドの花が咲き乱れていた。アフガニスタンの暦で正月にあたる日、前日までの町中の喧噪は静まり、代わりに町を見下ろす丘の上にはたくさん人が集まり、楽しそうに話をしている。そこにはテレビ画面で見てきた荒廃した瓦礫の街とは違う日常生活が確実に存在している。しかし彼らの自宅付近には多くの地雷原がそのままに放置されていることも事実である。復興事業の一環として我々の開発した地雷探査装置のテストが今年の夏から現地で開始されることとなった。地下計測技術が必要とされているという実感を持つとき、新たな研究への意欲がかきたてられる。


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