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女は男よりも偏見が強いか? 海野道郎教授
Column No.008 女は男よりも偏見が強いか?

 もう30年近くになるが、社会調査の第一人者と目されていた先生の指導を受けながら、東京都内で成人男女を対象とする調査を行った。在日韓国・朝鮮人(「日本に住む朝鮮系の人」)と「精神病院に入院したことのある人」に対する偏見、それが調査のテーマであった。予算の制約もあり700人足らずの都民を対象とした訪問面接調査だったが回収率も高く(93%)質の高い信頼できる調査だったと思う。

 そこから一つの事実が発見された。「男に比べて女の方が、朝鮮系の人に対する偏見が強い」という傾向だった。なぜだろうか。

 この結果から、「女は本性的に偏見が強いのだ」と考えることもできる。もしそうなら、他のいろいろな対象に対しても、女の方が偏見が強いはずである。実際、精神病院に入院したことのある人に対する偏見も、女の方が強い。やはり、「女は本性的に偏見が強い」のだろうか。

 しかし、社会科学を学ぶ人間は、そのような本性論を好まない。「なぜ、どのようなプロセスで、そのようなことが生じたのか」と問う。われわれは、黒人を対象にしたアメリカの偏見研究を参照した。そこには、黒人との接触と白人の偏見との関係について矛盾する結果が報告されていたが、その中に、黒人との単なる接触は白人側の偏見を減少させず時として増大させるが、共同で課題解決に当たった経験は偏見を減少させる、という知見があった。

 われわれは調査に際して、「朝鮮系の人との接触頻度」について、「付き合ったことのある人数」、「話をしたことのある人数」、「見かけたことのある人数」の3段階で尋ねていた。このうち、「付き合ったことのある人数」を性別と偏見との関係の中に導入すると、性別と偏見との関係は、ほとんど消え去ってしまった。つまり、付き合った人数が多いほど偏見が減少するという関係が男女共に見られ、、同じ程度の接触頻度なら性別に関わらず偏見は同程度なのである。性別と偏見との間に関係が見られたのは、朝鮮系の人々との接触機会が多い人の割合が、女よりも男の方が多かったからだった。

 この知見は重要である。「女は本性的に偏見が強いのだ」と考えている限り、問題解決の糸口は見つからない。しかし、「接触頻度」が媒介しているのだ、ということが分かれば、接触機会を梃子に、問題解決の可能性が拡がってくる。

 そのときから30年近く経ち、女性の社会的地位も変化した。今、同じ調査をしたなら、どのような結果が得られるのだろうか。


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