インタビュー東北大学


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Interview-P.02

これからの目標


mark周囲の期待も大きいと思うのですが、自分の研究を今後どのように発  展していきたいと考えられていますか?

 2つの方向性で考えています。私自身のコアのチームに関しては大学院生やポスドク(大学院博士課程終了直後の若手研究者)とで、脳と心の関係を解

き明かす研究をしっかり行い学者として世界に巣立って欲しい。
  学者である私個人の研究に関しては、税金を使っている研究ですから、研究者の自己満足で終わってはいけないという気持ちがすごくあります。私たちが見つけた脳科学の成果を社会に還元するという活動を、私自身が窓口となって、企業と連携しながら強化させていこうと思っています。

  実際に社会貢献としてかなり実を結んでいることとして、福祉・教育の分野では自治体が動き出すまでの活動になっていますし、企業も協力してくれるようになってきています。

  新しい活動としてはIT産業の大手と共同研究が始まります。あとはガス会社との共同研究、旧財閥系の財団からも脳科学に投資したいという話も出ており、脳科学を用いながら公共事業を興していこうという大きなうねりが起きつつあります。

先生はたくさんの本を執筆されていますが、執筆の動機はなんでしょうか?

 最初に書いたのは子供用の本でした。大学で行っている脳科学がどんなに面白く、大学はどんな楽しいことをやっているかと、学校ではやらない最先端の科学技術を伝えたいと思ったからです。とにかく脳科学って面白いぞという意識を持って欲しかったからですね。

大学の先生がこれまで殆どやってこなかった子供を対象にする事に興味を持たれたのは何故ですか?

 脳科学をどこに社会還元するかというと、一番大きいのは子供の教育問題なのです。 脳科学は幅が広く、深くてとっかかりが難しいんです。われわれが簡単にやれる事というのは、子供たちが勉強の先に何があるかということを教える事なのです。最先端の科学技術を伝える事で、学ぶ事への興味を持ってくれれば、学ぶ事は難しいことではないと感じてもらえると思ったのです。


脳を鍛える

最初は子供で、次に大人向けに本を書かれた動機はなんでしょうか?

 2つの意味合いがあります。
  表向きは脳科学の知識で音読とか計算トレーニングをすると、脳がジョギングや水泳をするのと同じように鍛えられると解ったからです。それを世の中に伝えない手はないと思い、本を書くことで広めようと思ったわけです。根拠のあるものとして表に出し、やれば確実に脳の健康に役立つのだという、全く新しい考えから出されたものです。

  もう1つは子供の教育と繋がっています。勉強ブームを作りたいと思ったのです。大人が家庭で勉強する姿を見せることで、子供達に「自分もやりたい」という気持ちが起こることはモニターを使って収集したデータにも現れています。子供たちに "家で勉強することはストレスではない"と自然に思ってもらえるというわけです。

昔の日本人は「読み・書き・ソロバン」ということを大事にしてきましたが、科学的に考えたのではなく、自然に知っていたということですね?

 
長い時間かけて我々の祖先が絞り込んできたものは、今の科学に照らしても必ず正しく真理をついているのです。それが戦後の急成長の中でいろいろな物が入り、ごちゃごちゃといじりだしたお陰で、おかしくなったと脳科学者の目には映っています。

現代は情報に振り回されているように思えますが、その中で「読み・書き・計算」を重視するというのは実際難しくないでしょうか?

 そんなことはありません。実際の教育現場ではすでに変わってきています。いくつかの小・中学校では読み書きが重視されてきており、子どもたちの脳発達に良い影響を与えていることがわかりだしてきています。

  一方、現代の情報化社会では、多くの情報の中から必要なものを拾おうとして便利なITを用いだしたことは、脳発達には良くないと考えています。現代人の脳機能は確実に利便性の中で落ちています。人間は進化の過程の中で脳を発達させてきました。その過程にITが入ったことが脳を逆に退化させる方向に向かわせ、我々はその屈曲点にあると思います。

  ITの中にも脳に対してもっと良い影響を与えるITもあると思うので、その辺の研究をすべきだと思っています。ITをどのように進化させるかを考えるのが研究者の役目であり、ITを限られた範囲で使用していこうと思っています。

最近の中学生は、小学校4,5年の算数ができないといわれていますが、今の教育が計算重視でないことに原因がありますか?

 基礎・基本の土台なしに応用・発展という上屋を大きくした教育がいけなかったと思います。学ぶべき情報が多いから上屋を広くしないとならなかったのです。しかし、土台がないと上屋が建たないことにやっと最近気がつきだしたのだと思います。

ドリルに関心を持ったということは、現代教育の欠点に気づき、基礎教育をやれば元通りになるということがわかってきたからでしょうか?

 子供の教育についてはそうでしょうが、ドリルは大人向けに作りました。高度成長が終わり、物質的な豊かさを求める時代が終わり、大人達がその後何を求めるかというと、精神的豊かさなんですね。精神的な豊かさは、まさに脳の働き具合そのものですから、その大切な脳をいかに鍛えればより豊かになるのかを、簡単な方法で世の中に示しているわけです。

計算力の低下は国語力の低下ということを聞きましたが、作文を書くという事がかなり有効だということで、十数年前にどんどん作文を書かせるメソッドが開発されたことがありましたが、それはかなり有効だったということですね?

 全ての学力の力というのは国語なのです。算数も理科も社会も国語の力です。 読み書きが少なくなってきたことで、国語力がかなり落ちていると言えます。文化審議会の国語分科会の委員をしていましたが、中教審に提案したのは、とにかく国語の時間を増やし、小さい時から読む力、書く力を強化しましょうということでした。この考えは脳科学がしっかりとサポートしています。すなわち、読み書きが脳の力を促す教育だということです。
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