Interview-P.05

東北大学が目指す新しい方向

 今の時代をどのように捉えられていますか?

  非常に幼稚な産業技術の時代は既に終わり、程度の差こそあれ、産業技術の高度化は、どの産業分野でもはっきりしています。特にエレクトロニクス、半導体が顕著な例です。学問の理論に基づいていないような技術だけでは通用しない時代が必ず来ます。ですから、大学の役割が非常に重くなり、産学官連携が本質的にますます大学に求められる時だと思います。半導体産業など、新しい学問に基づいた産業技術分野でなければまったく役に立たない時代です。

国立大学法人化した東北大学が目指すべき方向についてはいかがですか?

 これまでの国立大学では、教授会で1人でも反対者がいると、なかなか物事が決まりませんでした。しかし国民は、そのような権限を教授会に与えたのでしょうか?大学教授は国民から月給をもらっているわけで、社会をよりよいシステムに変えて欲しいから国民はお金を出しているのです。今回の国立大学法人化で、世の中は"大学に変わって欲しかった"のです。なぜなら、今までの大学は自浄能力がなかったから、やむを得ず独立法人化の道が選択されたのです。黒船で外から揺さぶる方法しかなかったのですよ。今の日本国の赤字予算700兆円に及ぶ借金を何とかして欲しいと国民は思っているのですから、その期待に応えるのが大学ではないでしょうか。次々と新産業を創出して、強い日本にしてやる義務と責任が大学に課せられているのではないでしょうか。

未来科学技術共同研究センター(NICHe)は全国の大学の手本になっているようですが。

  NICHeは学問と産業界の産業技術の橋渡しをする拠点として作られました。大学内における研究科、研究所とNICHeの橋渡し役が技術社会システム専攻です。世の中がマネージメント・オブ・テクノロジーと言っている時に、東北大学はマネージメント・オブ・サイエンス&テクノロジーと言っていたのです。世の中の人には、東北大学は歴史の先を読んでちゃんと手を打っている大学だということを見て欲しいですね。

最近ビッグ・プロジェクトでの「失敗」が目立ちますが、この現実をどう思われますか?

 
私も若い頃、いろいろなプロジェクトのメンバーとして多くの体験をしました。プロジェクトというのは、失敗すると「そして誰もいなくなった」ということになります。企業からお金や人を出してもらっているのですから、成功すればみんな幸せになれるのですが、失敗すると関係者は左遷されるのです。そうなれば皆辞めてしまいますよね。そして誰もいなくなってしまいます。

 そういうことを目の当たりにして、プロジェクトというのは”しくじるといけない”というのが骨身にしみましたので、自分が責任者となって仕事をする時は、引き受けたプロジェクトは絶対に成功させなければならないということを強く決意しました。
  「失敗に寛容であれ」などということはあり得ません。駆け出しの若い人に許されるだけです。多額のお金と大勢の人をそのために使うのですから、失敗は絶対に許されない事だと思っています。若い人にアトランダムにチャンスを与えることは良いことだと思いますが、ビッグ・プロジェクトに関しては、失敗したら徹底的に責任を取らなければなりません。プロジェクトを必ず成功させるために、若い時から実力を磨き続けるのです。

 大きな研究開発プロジェクトでは、申請課題の20分の1、30分の1しか採択されません。採択された人とされなかった人の落差が激しいですよね。私は採択件数を絞ったとしても、申請金額は一文も減らさずそのまま出そう、結果責任を問おうと言っています。というのは、少しでも申請額を減らすとそれを失敗の言い訳の理由にするからです。責任を持つということは、言ったことはやらせる、しくじったときはしかるべき責任を取らせるということです。しくじる人というのは、成功するための仕事の仕方ができていないから、しくじるのです。成功する人は成功する仕事をしているので、そういう人のところに若い人がどんどん入っていって、成功する仕事の仕方をさせるということを学ぶべきだと思います。

先生は先ほど「言葉の壁を乗り越える」研究を半導体の立場から進めると言われましたが、人文・社会系との融合が大切ではないでしょうか?

  
社会・人文学科の先生にも頑張ってもらわなければだめです。NICHeは学問に基づいた新しい産業を創作ることがミッションです。世界中の誰もが欲しくなる物を、世界中の誰もが買えるような価格で作り出す産業を興すことなのです。世界中の人が欲しくなるような物は何であるかを考えるのは誰がするのでしょうか?世界中にはいろいろな民族習慣の人がいて、それぞれ歴史、風俗、習慣、好みが異なるわけです。どういう地域の人は何が好きで、何を求めているかが解るのは、人文・社会系の先生方なのです。人文・社会系の先生方と理工医系の先生方の連携が不可欠です。

東北大学はいろいろな可能性を秘めていると思いますが。

 そうだと思います。学生諸君の大半は大学を卒業すると産業界に入って行きます。ですから、大学の重要なミッションは大学を卒業した学生が夢と希望を持って社会に飛び込んで出行くような産業界を育てることだと思います。
  どの大学に行くかということがその後の若い人たちの人生に大きく影響しますよね。本物を学べ実践できる大学と、お話しか聞けないだけの大学では結果が全く違います。人が育つにはO.J.T.以外にありません。学生諸君が自分の未来のために、どの大学に身を託すかが学生諸君にとっては重要な選択だと思います。 今自分が高校生だったら、この国における赤字国債、増税、年金減らしの現状をみて、やはり国を興せる産業界に行こうと考えたと思います。商品企画や世界戦略のためには、文学、歴史、宗教等を新産業創造戦略に取り混ぜて行った方が日本の国に役立つだろうと考えます。

社会人教育についてはどう思われますか?

  私の研究室は社会人ドクターが非常に多い研究室です。日本は比較的企業間の人の流動が少ない国ですので、企業の研究者は視野が狭くなりがちです。そこで、時々大学に来てドクターコースなどで勉強し直すことが必要です。
  大学の1研究室は通常、研究費として約350万円与えられますが、私の研究室では120人を超える研究者がいますので、毎年10億円程度の研究費が必要ですから、外に出て研究費を稼いでこないとだめなのです。これからの企業人は、これまでのように会社の中に閉じこもっているのではなく、外と積極的にコンタクトを取って、なるべく大きな荒波に揺さぶられないと実力を磨けないと思いますね。

 日本企業が停滞して長いですが、我々が頑張って育てた学生を企業が潰しているケースがなきにしもあらずだと思います。ですから社会人ドクターはすごく良い制度だと思っています。社会人コースで1年学んだ人は、入った時と出る時では全く違います。人が変わったようになって出て行きます。視野の広さ、論理的、システム的な物事の詰め方など全然違ってきます。これからは、企業の上司も将来を予見・洞察する能力を備え、全体を見抜く力を持ち、部下にしっかりと遠い目標を与えないといけないのです。その日の気分で物を言いつけているような上司じゃだめだと思います。

受験のための大学ランキングや大学の首都圏集中についてはどう思われますか?

 受験産業では、どこの大学に受験生を何人入れたかというのかがビジネスなのでしょうから、そんなことに惑わされてはいけません。日本の役に立つ人材を多数育成する大学はどこかということが大切です。

  東北大学の良さは、首都圏と比べると通勤・通学の時間がかなり少なく、平均して1人毎日2時間余分に仕事ができます。それは大きな違いです。これからはどんどん人の能力に依存した産業に変わっていきます。通勤に多くの時間のかかる場所で人中心の仕事ができるのでしょうか?これは私の率直な問いです。本当に自分の才能を磨き、何年か後に生かすことを考えるのならば、首都圏にはない利点がここ仙台にあると強く思います。教授が学生と接する時間が長いという点で、日本の若者を育てるためには最適の大学だと言えます。学生諸君の伸びは、教授が手塩にかけた時間の長さと内容で決まります。

それでは最後に受験生へのメッセージをお願いします。

 諸君にとっていちばん大切なことは"自分の人生をきちんとデザインする"ことで、どういう人生を生きたいのか十分考えて、その目的に向かって自分を磨き上げていく一生を送って欲しい。

  私はいろいろな人の本を読みまして、その結果、世界史的に見ても織田信長は飛びぬけた偉人だと思っています。桶狭間の戦いで、信長は自分に「今川義元候田楽狭間にてご休憩」との情報をもたらした人を第一の功労者にしたわけです。世界で初めて情報に最大の価値を見い出した人間です。
  さらに信長は、楽市楽座すなわちフリー・マーケットのシステムを世界で始めて実施し、宗教支配の暗黒の中世を近世に変革するために100年を超えるルネッサンス運動を要したヨーロッパに対し、比叡山焼き討ちで一晩にして中世から近世への変革を成し遂げ、一発打つと15分〜20分間次の弾が撃てなかった当時の鉄砲(火縄銃)に、多段連的方式という利用技術を導入することにより、戦の戦法を抜本的に革新するとともに、石山本願寺・蓮如を攻め落とすため鉄張りの船を英国より265年早く海に浮かべた。

 そういう人を歴史上に持つ国の学生ですから、自信を持って自分の一生をデザインし、一生自分を磨き続けて欲しいですね。これは学生諸君にも社会人にも言えると思います。
 物事を主体的に考えて自分がやる、自分がやるために必要な能力を磨きつづける・・・そういう生き方の方が人生は圧倒的に面白いですから。


 
本日は先生の研究と教育にかける熱い想いをたくさん語って下さいまして、ありがとうございました。
 
大見先生が受賞された数々の輝かしい賞をご紹介いたします。
 
  井上春成賞、市村産業賞(功績賞)、大河内記念技術賞、
業績賞((社)電子情報通信学会)、 科学技術長官賞、紫綬褒章、
産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞等、数々。
 
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