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神が創った究極のパズルを解く。その感動は計りしれない。
――生物有機化学の研究に取り組んでこられた経緯は、どのようなことだったのですか。
この研究の道に入るきっかけになったのは、大学二年の時に、東北大学の名誉教授でもある中西香爾コロンビア大学教授が生物の現象を化学物質で解明するという講演をされたのを聴きに行ったことです。とても感銘を受けて、自分もそういう生物有機化学の研究の道へ進みたいと思ったのです。それまでは理論的なことをしようと考えていましたが、方向転換をしました。
青いバラが幻の花と言われるのに対して、バラと同じ色素を持つヤグルマギクは、青くなります。分子の構造は同じなのに、なぜヤグルマギクは青くなるかを解明して、ドクターの学位を取りました。ヤグルマギクの色素の研究も80年位誰も解明できなかったことをものにできたので、自信がつきましたね。
生理活性天然物は、生物に対して機能を果たしたり、その行動を制御するなど、様々な働きをもっており、生物現象を化学の力で解明するための無くてはならないツールです。このような化学で生物の謎解きをするといった研究は、非常にエキサイティングで楽しくてしょうがないです。
――今後の研究の展望について、お聞かせ下さい。
昔の天然物化学は、その現象を起こす化学物質はこれだと明らかにすることで終わっていました。私たちの時代は、その化学物質がどこで、どのように作用して現象を起こすのかのしくみを明らかにしないと、面白くないのです。せっかく物質があるので、掘り下げていくことで学問分野を深めていかないと、他分野の方に興味を持って頂くなど他に広がっていきません。他の方の視点が入って、思いがけない広がりが出るものなのです。
生物全般に共通する現象は、生物学者の得意とするところですので、特殊な現象に目を向けると面白い研究になりますね。結構、根が深くて、意外なものが埋まっていたりします。「どんな些細な現象も掘り下げていけば、必ず共通なものに突きあたる」と昔の学者が言ってますが、私もそう思っています。
――次世代の研究者に、何かアドバイスをお願いします。
深刻に考えると研究は進まないので、手を動かしているうちに何か思いつくだろうというスタンスが大事ですね。考え込みすぎる人には、研究は向いてないかもしれません。手を動かして現象をよく観るということは、小学生も大学教授も同じだと、学生に常々言っています。よく観て、よく考えるということをやりさえすれば、誰でも研究ができます。実験が好きだったり、自然現象を観察するのが好きだったりすることが一番の原動力で、自然と手が動きますから、結局、うまく行くのです。うまく行かない時には、上手に息抜きすることが大切です。
私は、ヤグルマギクの研究で自信がついたのですが、その時はほんの些細な思いつきがブレイクスルーのきっかけとなりました。この成功の後は、思いつきがどんどん当たって、いろいろと研究成果につなげることができたのです。1度の成功が、次々とさらなる成功を拓いてくれるものです。とにかく、その問題から離れて一息ついていた時に、思いがけないアイデアが浮かんだりします。風呂に入っている時、道を歩いている時、雑誌を読んでいる時などに、ふっと思いついたりします。リラックスして脳にアルファ波が流れている時が、斬新な着想が生まれたりするのでしょう。ですので、息抜きも大事なのです。
――高校生の皆さんにメッセージをお願いします。
生物界は、宇宙と同じように広いのです。生物のさまざまな現象は、まさに神様が作った究極のパズルと言えます。そのしくみはとても巧妙なので、現象を解明することは謎を解く感覚と近いものです。それだけに明らかになった時の感動は大きいですし、きっとやみつきになると思いますよ。 |