StaffActivity
 
山中一司 大学院工学研究科教授

Staff Activity No.008  「球の表面をくり返し周回する波動とその工学的応用」  
 

 物理学の教科書には、音波や電磁波などのビームは伝搬するにつれて拡がって減衰すると書かれています。これは回折という現象で、波を用いるデバイスの限界になります。どこまでも真っ直ぐ伸びた1本の直線のように伝わる波は、まだ実現していません。ところが私たちは、ボールベアリングの傷の検査法の研究中に、球の表面を大円に沿って伝搬する表面波*は特別な性質を持ち、ある条件を満たす幅を持つビームはどこまで行っても拡がらず、同じ幅を保ったまま元の位置に戻ってきて、何回でもまわり続ける現象を発見しました(図1)。原因を調べると、これは拡がろうとする波本来の性質と、集束しようとする球の性質のバランスによるものと一応説明され**、どんな波でも起こる普遍的な現象であることがわかりました。

 この発見には、物理学上の興味だけでなく多くの工学的応用があり、例えばセンサ−の飛躍的な高感度化を可能にします。そこで、水晶の直径1mmの球に電極を形成して弾性表面波*(surface acoustic wave:SAW)を発生し、50-100周も周回させた信号を受信する水素ガスセンサ−(図2)を企業と共同で開発しています。水素の検出には、水素を吸収すると弾性率が変化する合金の薄膜を周回路上に製膜して用います。

図1 球の大円を周回する表面波のコリメートビーム
図2 水素ガスセンサ−の原理と構造
図3 直径1mmの水晶球による水素ガスセンサー
図1 球の大円を周回する表面波のコリメートビーム   図2 水素ガスセンサ−の原理と構造   図3 直径1mmの水晶球による水素ガスセンサー

 この新しいセンサ−により、従来は異なる方式のセンサーを組み合わせなければ測定できなかった濃度10ppmから100%までの水素を、はじめて単独で検出できる目途が立ちました(図3)。水素ガスの漏れや濃度を検知することで、燃料電池の実用化を支援する技術として注目され、科学技術振興調整費プロジェクトにおいて、異方性のある結晶球における表面波の挙動の解析と、精密な電極作製技術などの開発を進めています。

 今回発見された現象は、弾性波に限らず理論的には光でも電磁波でも起こるはずなので、将来各種のセンサーや信号処理・制御デバイスに応用できると期待しています。

   * 表面波:物体の表面に沿って伝わる波で、内部には入りません。地震波の場合は地球の表面を伝わってくる波です。
     弾性体における表面波を弾性表面波と呼びます。
   ** これだけの説明では納得できない方もあると思います。まだ分かっていない面が多いのでさらなる研究が必要です。


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