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私達の社会は、人工的に合成された多種多様な有機物質を利用しています。これら合成有機物質は、一般に石油を原料として、数十段階の工程を経て製造されています。一つ一つの工程に化学反応を用いて、その積み重ねによって合成されているわけです。しかし、現在利用されている化学反応にはまだ多くの問題があります。収量が高くない・副生成物を生じる・目的物を精製するのに手間がかかる・希少な元素の触媒を用いる・適切な化学反応が知られていないので、回り道をしなければならない・廃棄物が多く生じる・高い温度や極低温で行うので、特殊な装置を必要とするなどです。これらを解決することができれば、生産コストを削減して経済性を高めることができ、省資源と省エネルギーにつながります。さらに、環境に負荷をかけないで物質を製造することが可能になります。
さて、医薬品の多くも人工合成された有機物質です。炭素原子を連結しただけでは一般に生物活性を示さないので、炭素骨格の上にヘテロ原子とよばれる酸素、イオウ、窒素、リンなどの原子を結合させたものを利用します。ひとつの医薬品を生み出すために、様々な組み合わせで数万ものヘテロ原子化合物を合成して生物活性や安全性が調べられます。また、医薬品となる物質はトン単位で大量合成しなければなりません。このヘテロ原子の結合を生成するに当って、これまでは有機ハロゲン化物の置換反応が利用されていました。ところが私達は、CH結合あるいは不飽和結合から直接合成する方法を開発しました。触媒の開発が鍵となりました。これによって、工程が大幅に短縮できるとともに、廃棄物を減らすことが期待できます。なお、この技術は、医薬品だけではなく、農薬、化粧品、液晶、色素、食品、電子材料、光学材料などの様々な分野でも使えるので、大きな発展性を持っています。
(でも本当は、一番面白いのは新しい反応を発見することそれ自体です)
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