2005年8月26日 第1回サイエンスカフェ
宇宙にも雷 ~不思議な発光現象の発見~
講師:福西 浩 東北大学大学院理学研究科 教授
プロフィール
福西教授は、オーロラや地球周辺の宇宙空間の研究で世界をリードする多くの研究成果をあげています。南極観測隊には4度参加し、越冬隊長や夏隊長も務め、研究室からは初めて女性越冬隊員をはじめ多くの学生を南極観測隊に送り出しています。雷雲上方の放電発光現象のパイオニアとして、この分野で最先端の成果をあげ、新しい研究領域を開拓した研究者に贈られる日本気象学会堀内賞を昨年受賞しています。
開催情報
開催日:2005年8月26日(金)
概要
Q&A
A.雷についての質問
雷はどのようにして発生するのか?上空で何が起こっているのか?また雷の発生の仕組みがまだきちんとは分かっていないとの話だがどういうことか?
雷には雷雲と地上間の放電(落雷)、雷雲内の放電(雲内放電)、雷雲間の放電(雲間放電)の3種類がある。空気は絶縁体だが、高圧をかけると放電が起こる。この放電が起こる限界の電圧は絶縁破壊電圧と呼ばれ、地上(1気圧)では1 cm当り約30キロボルトである。絶縁破壊電圧は気圧に比例して低下するので、上空ほど低い電圧で放電が起こる。
絶縁破壊電圧の発生源は雷雲の中で進行する電荷分離である。上昇気流によって水滴が上空に運ばれると、上空ほど低温のために水滴は氷の粒(氷晶)に変化する。成長した氷晶はあられと呼ばれ、周囲の小さな氷晶とぶつかりあいながら落下するが、その際、氷晶とあられの衝突によって電荷分離が起こる。気温が-10℃以下になる高度領域では雷雲の上方に分布する小さな粒子の氷晶はプラス(正)に、下方に分布する大きな粒子のあられはマイナス(負)に帯電する。
雷放電の仕組みはかなり解明されてきたが、実際の雷雲では正電荷と負電荷の2層構造よりももっと複雑な多層構造をしており、その電荷分布をつくりだす電荷分離過程の詳細はまだ解明されていない。また、正極性落雷と負極性落雷の放電過程や雲内・雲間放電過程に関しても未解明の問題が多数残されている。
正極性落雷は地表が負に帯電しているから起こるのか、それとも落雷が進行する過程で地表が負に帯電するのか?
負極性落雷雷は雷雲の下方に分布する負電荷がそれによって地表に誘導された正電荷と中和する放電で、一方正極性落雷は雷雲の上方に分布する正電荷がそれによって地表に誘導された負電荷と中和する放電である。落雷の原因は雷雲内で電荷分離が進行し、地表との間に高い電圧がつくり出されるためである。したがって地表の帯電は雷雲内の電荷によって誘導されたもので、地表が正に帯電するか負に帯電するかは地表と対峙する雷雲の電荷の符号による。
正極性と負極性の落雷があるとのことだが、正極性落雷には正極性のものを身につけると安全か?また負極性落雷のように、避雷針等で落雷を誘導することが可能か?
雷雲と地表間の電圧が絶縁破壊電圧を越えると、まず放電路をつくりだす線状のリーダが雷雲から地表に向かって進展していく。負極性落雷の場合は階段状に進展するのでステップトリーダと呼ばれている。このリーダが地表に到達し放電路が完成するとこの放電路を通って雷雲の電荷と地表の電荷が急激に中和する。この段階はリターンストロークと呼ばれ、放電路に大電流が流れ、その電流による空気の加熱によって稲妻と雷鳴が発生する。負極性落雷の場合の避雷針の役目は、雷雲から地表に進展するリーダを誘導することによってリターンストロークの大電流を避雷針に流れ込ますことである。正極性落雷に関しても避雷針は正電荷領域から伸びるリーダを誘導し放電路をつくり出すので、負極性落雷の場合と同じ役目を果たすことができる。
人体への落雷は、人体が避雷針のように雷雲から進展するリーダを誘導することで起こる。したがって何かを身につけて落雷を防ぐことはできない。身につけた金属片が落雷を誘導するのではなく、人体が地表の突起物の形をしているためにリーダを誘導するのである。落雷が心配されるときの安全対策は、落雷の大電流が流れ込まない場所(自動車やコンクリートの建物の中など)に直ちに避難することである。そうした場所がないときは地表からの突起物にならないようにできるだけ姿勢を低くすることである。また高い樹木の近くは樹木に落雷する確率が高いので、その周囲にも大電流が流れかえって危険である。安全対策としては、できるだけ高い樹木からは離れることである。
日本では正極性の雷が冬に多く、夏には少ないのはなぜか?
夏の雷の90%以上は負極性落雷である。夏は上昇気流が強いために、雷雲の下部に負電荷のあられ、上部に正電荷の氷晶の構造が持続される。その結果、地表近くに分布する負電荷とそれによって地表に誘導される正電荷の中和(負極性落雷)が起こりやすい。一方冬季の北陸地方ではシベリアからの冷たい気流が暖かい日本海の上を通過する際に寒冷前線が発達し、前線付近で上昇気流が起こり雷が発生する。しかし上昇気流は夏ほどは強くないために負電荷を担う下部のあられが短時間で落下してしまい、上部の正電荷の氷晶だけが残る。その結果この正電荷とそれによって地表に誘導された負電荷との中和(正極性落雷)が起こりやすくなる。冬季の北陸地方の雷の50%近くは正極性落雷である。
雷やスプライトが極地方で少ないのはなぜか?オーロラと関係があるのか?
雷は上昇気流による雲の中での電荷分離が原因なので、地表が高温となる赤道地域や低緯度地域での発生頻度が他の地域よりも圧倒的に高い。極域は高気圧帯なので下降流が卓越し、雷雲が発達する条件にはない。しかし極域に近いノルウェーではメキシコ暖流が沖合いを流れ、北陸地方と同じ条件で冬季に雷が発生する。
オーロラは太陽からのプラズマ流れ(太陽風と呼ばれている)に起因するので、雷の発生とオーロラの発生には直接的な関係はない。しかし雷は大気の放電現象なので、オーロラの発生によるグローバルな電場の変化が雷の発生になんらかの影響を与えている可能性も考えられる。雷とオーロラの関係の解明は将来の研究課題として興味深い。
落雷や雲内放電はどの程度の頻度で起こっているのか?また落雷や雲内放電のエネルギーは地球環境にどのような影響を与えているのか?
全世界で起こっている落雷は平均で毎秒40~100回程度である。雲内放電は落雷よりも流れる電流は小さいが発生頻度は落雷よりも高い。これらが地球環境にどのような影響を与えているかはまだ全く明らかになっておらず、これからの研究課題である。雷活動によって放出されるエネルギーは太陽から光として受け取るエネルギーに比べ圧倒的に小さいが、大気の組成を変えたり(雷によって窒素酸化物が生成されることはすでに分かっている)、雲の形成に影響を与えることが考えられ、興味深い問題である。
原始地球では雷はどんな様子であったか?
原始地球でも激しく起こっていたと考えられる。雷は火山噴火の際にも起こることが知られており、原始地球では火山活動が現在よりも激しかったので雷の発生頻度は現在よりも高かったと想像される
B.スプライト・エルブスについての質問
(発生条件に関して)
発生頻度は落雷と比べてどうか?
スプライトやエルブスは一般に大規模落雷に伴って発生するので、小規模規模な雷の発生頻度が卓越する落雷の方がスプライトやエルブスよりも発生頻度はずっと高い。
スプライトは落雷に関係しているとのことだが、エルブスはどうか?またエルブスとスプライトは必ずセットで発生し、個々で発生することはないのか?
エルブスもスプライトも落雷に伴って発生する。発生の順序としては、落雷の直後、1ミリ秒以内(1ミリ秒は1000分の1秒)にエルブスが発生し、その後1ミリ秒から数10ミリ秒遅れてスプライトが発生する。しかしこの順序で発生するケースだけでなく、エルブスだけ、スプライトだけなど個々に発生するケースも多い。
負極性の雷ではスプライトは見られないのか?
発生頻度はずっと低いが、負極性の雷でもスプライトの発生が観測されている。
アフリカ上空にスプライトが多いのはなぜか?
世界の雷多発地域は、アフリカ大陸、南・北アメリカ大陸、東南アジア地域の3ヶ所であるが、アフリカ大陸ではスプライトと関係した大規模な正極性落雷の発生頻度が高いためにスプライトの発生頻度も高くなる。
エルブスやスプライトの発光時間は非常に短いとのことだが、稲妻の発光時間と比べてどの程度の違いがあるのか?またなぜ違いが生じるのか?
負極性落雷の場合に、雷雲から進展するリーダが地表に到達するまでの時間は約 20ミリ秒(1ミリ秒は千分の1秒)、リターンストロークは約100マイクロ秒(1マイクロ秒は百万分の1秒)である。これに対してエルブスの継続時間は 1ミリ秒程度、スプライトの継続時間は数ミリ秒から数10ミリ秒程度である。放電は電場によって加速された電子と空気分子の衝突によって起こるきわめて複雑な過程であり、継続時間が何で決まるかはまだ十分には理解できていない。研究はさまざまな手法で進められているが、計算機シミュレーションでこの複雑な衝突過程を再現する試みも始まっている。
スプライトは非常に短時間で終わってしまうとのことだが、目で見ることはできるか?また見えるとするとどんな風に見えるのか?
スプライトは100分の1秒程度の瞬間的な発光であるが、満月の明るさよりも明るい光を放射するので目で見ることができ、目撃した人も多い。
雷鳴のように、スプライトやエルブスにも音があるのか?
スプライトやエルブスからの音の研究は始まったばかりでまだ結論はでていない。しかしヨーロッパではこの研究が現在盛んに行われている。雷鳴のような可聴音は観測されていないが、超低周波音(20ヘルツ以下の耳には聞こえない音)が観測されたという最新の報告が国際学術誌に掲載された。超低周波音は気圧の微小な振動と考えられるが、スプライトやエルブスがそのような微小気圧振動を発生させるメカニズムは全く分かっていない。
エルニーニョや温暖化がスプライト・エルブスの発生に関わっているのか?
エルニーニョや温暖化は雷活動と深く関係しているので、雷活動によって起こるスプライト・エルブスも当然エルニーニョや温暖化に関係していると考えられる。地球平均気温と雷活動との間に良い相関があることがすでに発見されており、雷活動やスプライト・エルブスの活動が地球全体の気温を測る温度計として使える可能性もある。現在地球の平均気温は地上の多数の観測点で観測された気温の平均として求められているが、観測点は陸上の限られた地域に偏っており、現在の方法とは独立した地球全体の平均温度を求める方法が開発されれば地球環境変動の研究への大きな貢献となる。
(発光メカニズムや形・色について)
夜光雲とスプライト・エルブスとは全く違うものか?
夜光雲とは、中間圏の80 kmほどの高度に出現した雲に太陽光が当たって照らし出したものである。地上では日が沈んでいるが上空はまだ日が当たっているという時間帯でのみ見られる。発光はあくまでも太陽光の反射光である。一般にこのような高い高度には雲は出現しないが、非常に低温になると雲が出現する。地上付近が温暖化すると高高度では逆に寒冷化が進むが、最近夜光雲の出現頻度が世界的に増えており、これが温暖化の影響か注目されている。一方スプライトやエルブスは落雷に伴って発生する瞬間的な発光であり、夜光雲とは全く異なる現象である。
稲妻は線状だが、スプライトはなぜ広がった形をしているのか?またなぜスプライトにはさまざまな形があるのか?カラム状スプライトとキャロットスプライトの形の違いは何に原因しているのか?キャロットスプライトが単独で発生することはないのか?
スプライトの発光機構として、落雷直後に雷雲上方に発生した強い電場による放電発光モデルが提案されている。放電が始まる絶縁破壊電場の大きさは大気密度が小さい上空ほど低いので、まず放電は85 km付近から始まり下方に進展する。この進展は落雷の第1段階であるリーダの下方への進展と類似したストリーマーの形成によると考えられる。ストリーマーが下方だけに伸びればカラム状のスプライトとなり、ストリーマーがさまざまな方向に伸びればより複雑なキャロット状のスプライトになると考えられる。しかし何が原因でカラム状になったりキャロット状になったりするのかは全く分かっていない。カラム状スプライトとキャロットスプライトはそれぞれ単独でも発生するが、時には同時に発生する場合もある。
スプライトにフラクタル構造は見つかっているのか?
望遠鏡を用いたスプライトの微細構造の観測がすでに行われており、フラクタル構造をもつことが分かっている。一本のカラムを拡大するとさらに微細な構造が見えてくる。
スプライトが発生する高度は落雷の規模(エネルギー)の大小で変ってくるのか?
スプライトの発生が中間圏のどの高度からスタートするのかは落雷の規模や特性に関係することが最近の研究から分かりつつある。
スプライトの下向き放電の際に放電電流を流すものはイオンか?
スプライトの下向き放電では、下向きに進展するストリーマーの先端部に強い電場がつくりだされ、その電場によって電子が加速され、その加速された電子が空気分子と衝突し分子をイオン化するプロセスが進行する。したがって放電電流を流すものはこうして生成されたイオンと考えられる。
エルブスは電磁パルスによる発光とのことだが、オーロラの発光原理と同じか?またエルブスがドーナッツ状に発光するのはなぜか?ドーナッツの中心部分はどうなっているのか?
スプライトの下向き放電では、下向きに進展するストリーマーの先端部に強い電場がつくりだされ、その電場によって電子が加速され、その加速された電子が空気分子と衝突し分子をイオン化するプロセスが進行する。したがって放電電流を流すものはこうして生成されたイオンと考えられる。
スプライトやエルブスの放電電圧と電流は、落雷の場合と比べてどの程度か?
スプライトやエルブスは高高度で起こっているために、放電電圧は落雷の場合よりもはるかに低い。例えば、落雷の放電がスタートする10 km付近とスプライトの放電がスタートする80 km付近を比較すると、気圧は1万分の1程度なので、放電の絶縁破壊電圧も1万分の1程度の低い電圧で足りることになる。エルブスの発光する90 km付近の気圧はさらに低く(10 km付近の10万分の1程度)、絶縁破壊電圧もそれに比例して低くなる。放電電流に関しては、スプライトやエルブスの中をどの程度の電流が流れているかはまだ明らかになっていない。今後の研究課題である。
(その他)
スプライトはオゾン層に影響を与えるのか?
スプライトを発光させる電子は同時にさまざまな大気の化学反応を引き起こすので、オゾン層への影響も当然考えられる。現在計算機シミュレーションの手法を用いた複雑な化学反応過程の解明が東北大学の我々の研究室で進んでいる。
スプライトやエルブスは木星・土星や金星でも起こっているのか?
木星では地球よりもはるかに強い雷活動がすでに観測されており、スプライトやエルブスが起こっていることが予想される。また土星でも木星との類似性から同様の活動が期待される。水平方向の流れは雲のパターンの動きから求めることができるが、鉛直方向の流れは雲の動きからは求まらない。そこで雷活動の観測は鉛直方向の大気の流れ(上昇流)を知るきわめて有効な手段となる。
金星の雷に関しては長い論争の歴史があり、金星に雷活動があるのかないのかの結論は未だにでていない。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が現在進めている金星探査衛星計画(PLANET-C計画)では、この長年の論争に決着をつけるために雷・大気光カメラが搭載されることになり、東北大学の我々の研究室がその開発を進めている。金星でスプライトやエルブスが発見される可能性も当然考えられる。
電離層や熱圏ではスプライトは発生しないのか?
電離圏のE層領域やその上方のF層では、中間圏と比べ大気の電離度が高く、電流が流れやすい状態になっている。したがってエルブスを発生させる電磁パルスがE層の中までは侵入できないように、落雷によって雷雲上方発生した電場もE層の中までは侵入できないと考えられ、E層・F層高度領域(熱圏とも呼ばれる)ではスプライトは起こらないと考えられる。しかしスプライトの発生がこの高度領域に何らかの影響を与える可能性も考えられ、今後の研究課題として興味深い。
C.ブルージェット・巨大ジェットについての質問
青や赤の色はどのように発光しているのか?
ブルージェットの青は窒素分子のセカンドポジティブバンドと呼ばれる発光の寄与が最も大きく、他に窒素分子イオンの発光も少し寄与している。低高度ほど気圧が高くなるので、それに比例して放電を起こす絶縁破壊電場も高くなり、その結果その電場で加速された電子のエネルギーも高くなる。電子が分子に衝突し分子を励起し発光させる際、電子のエネルギーが高いほど短い波長の光(青側)が放出される。巨大ジェットの下部はブルージェットと同じ高度(20-50 km)で発光しているので青色となる。巨大ジェットの上部(50-90 km)はスプライトと同じく、窒素分子を励起させる電子のエネルギーが低くなくので、窒素分子のファーストポジティブバンドの寄与が最も大きくなり、赤色となる。
ブルージェットとスプライトの間にはどんな関連があるのか?
ブルージェットもスプライトも雷雲が発達した場所で発生するが、スプライトが落雷(大部分が正極性)と一対一の関係をもって発光するのに対してブルージェットにはそうした関係がない。ブルージェットの発生機構として、雷雲内で電荷分離が急激に進行することによって強い電場が発生し、その電場によってリーダ(ストリーマーとも呼ばれる)が上方に進展するモデルが提案されている。落雷の始まりで雷雲から地表に向かってリーダが進展するプロセスと類似したモデルである。したがってブルージェットとスプライトには直接的な関係はないと考えられる。しかし巨大ジェットがブルージェットとスプライトを合わせたような構造をもっているので、ブルージェットとスプライトになんらかの関係がある可能性も考えられる。
中間圏でブルージェットが発生することはないのか?また中間圏と成層圏にまたがるようにブルージェットやスプライトが発生することはないのか?
対流圏(地上から高度10 km付近まで)では気温は高度が上がるとともに下降するが、成層圏ではオゾン層が存在するためにオゾンによる太陽紫外線の吸収によって高度とともに上昇し、高度50 km付近で気温が極大となる。この極大となる高度よりも下方を成層圏、上方を中間圏と定義している。したがって成層圏と中間圏の間に境界がある訳ではない。最近では2つの領域を区別しない中層大気という名称もよく使われている。 ブルージェットがどの高度まで到達するかは雷雲でつくりだされる電場の強さによると考えられるが、一般に中間圏高度までは到達しない。スプライトに関しては、その下部から成層圏の中に伸びていくつたのような構造(テンドリルと呼ばれる)がよく観測されている。テンドリルは時には雷雲の上端付近まで伸びる。
ブルージェットの発生が巨大ジェットの発生に結びつくことがあるのか?
巨大ジェットの下部がブルージェットと類似した構造をもっているので、何らかの関係が考えられる。しかしブルージェットがひんぱんに観測されるのに対して巨大ジェットの発生はまれである。最近東北大学の流体科学研究所のグループと我々のグループの共同研究として提案したモデルでは、ブルージェットが正極性ストリーマーとして上方に進展するのに対して巨大ジェットでは負極性ストリーマーが上方に進展する。このモデルを用いた計算機シミュレーションによって樹木状の巨大ジェットの形状が再現されている。
D.観測のコストについての質問
FORMOSAT-2衛星に搭載された観測器(アレイフォトメーター)の額は?また衛星計画や地上共同観測への参加費用はどの程度か?
衛星計画や地上共同観測への参加費用に関しては、それぞれの計画ごとに異なる。衛星計画の場合は、費用の分担、搭載機器の開発体制、データの使用など、細かい点まで含めた協定書を取り交わす。アレイフォトメーターに関しては、プロトモデルの開発費(東北大学の我々の研究室で実施)と搭載用のフライトモデルの製作費(メーカーが担当)を合わせて5000万円程度である。衛星搭載機器としてはかなり低い製作費であるが、電源部、データ処理部、コマンド部などは共通機器としてカリフォルニア大学バークレイ校が製作したためである。
スプライト地上共同観測への参加費に関しては、共同研究の提案者が基本的な部分を負担し、参加者は電気代や観測施設の使用料などを分担する。アメリカのコロラド州で実施された共同観測への1回の参加費用は、5名程度の学生・スタッフの飛行機代・滞在費を含め300万円程度である。
観測用の機器は学内でつくるのか?値段は?
地上観測のための機器は、検出器、パソコン、光学部品、電子部品などを購入し、それらのパーツを用いて研究室で製作する。また光学系などの精密加工に関しては、東北大学理学研究科の機器開発室に製作を依頼する。観測器の製作費用はいろいろなケースがあるが、100~500万円程度である。
この研究の費用対効果の問題をどう考えているのか?
できるだけ低いコストで最大の研究成果を上げることを常に考えている。そのために独創的なアイデアで観測器を設計し、その製作を研究室で行うことによってコストの大幅な削減を図っている。費用対効果の問題を一般的に論じることはできないが、世界に先駆けたインパクトのある研究成果を上げることが最も重要と考えている。
E.グローバルな電気回路についての質問
グローバルな電気回路では地面にも電気が流れているのか?
地中は電気の良導体(電気伝導度は0.001 S/m程度)なので地電流と呼ばれる弱い電流が常に流れている。
グローバルな電気回路を利用することは可能か?地上から雲まで良導体でつなげば弱い電流が常に流れ、エネルギーを取り出すことが可能になるのでは?
グローバルな電気回路に流れている電流は、地球全体でも1000アンペア程度しかない弱い電流である。したがってこの電流をエネルギーとして利用する価値はない。また地球全体にわたって流れているので、一か所から取り出すことはできない。