2017年 | プレスリリース・研究成果
ナノ光ファイバーの偏光におけるカイラリティを解明 光ファイバーでつながる量子ネットワーク技術
発表のポイント
- 非常に細い光ファイバー(ナノ光ファイバー) における偏光と光の方向性との関係(カイラリティ)を詳細に計測することに成功した。
- この特性を用いると、ナノ光ファイバーにおける光子の方向性を制御することができ、将来の量子ネットワーク技術への応用が期待される。
概要
東北大学電気通信研究所のマーク・サッドグローブ准教授、菅原大和大学院生、三森康義准教授、枝松圭一教授らの研究グループは、ナノ光ファイバーと呼ばれる非常に細い光ファイバーにおける光の進行方向と偏光とが結合したカイラリティの性質を明らかにすることに成功しました。このようなカイラリティをもつ光ファイバーは、将来の量子光通信ネットワークにおいて重要な働きをするものと期待されます。
カイラリティ(キラリティとも呼ばれる)とは自然界においてごく普通に見られる特性で、例えば私たちの右手と左手などのように、自身とその鏡像とが同一物とはならない形態のことです。このような身近な例ばかりではなく、分子、光、素粒子など、自然界のあらゆるスケールにおいてこのようなカイラリティの例を見つけることができます。
近年、ナノ光ファイバーと呼ばれる非常に細い光ファイバーが開発され、その中を伝搬する光においては、カイラリティが重要な役割をもつことが指摘されています。特に、ナノ光ファイバーの近傍で発生した光が右回りあるいは左回りのどちらの偏光をもつかによって、光ファイバーのどちら側へ伝搬していくかが決定される現象が発見され、たいへん注目されています。ナノ光ファイバーの持つこのような性質を用いると、送信者から受信者へ向けて送信方向を確定した単一の光子を送ることができるため、将来の量子光ネットワークにおいて重要になると考えられています。
今回、東北大学の研究グループは、ヒトの毛髪よりも200倍程度細いナノ光ファイバーを作製してその表面に金のナノ粒子を付着し、金ナノ粒子を「光アンテナ」として用いて、外部のレーザー光をナノ光ファイバーに導入しました。このような細いナノ光ファイバーにおいては、自由空間の光とは異なる特殊な偏光の伝搬状態が存在し、それによるカイラリティが実現されます。実験では、入力するレーザー光の偏光状態を様々に変化させ、ナノ光ファイバーに導入された光がファイバーのどちら側へ伝搬していくかを精密に測定しました。そして、任意の偏光状態に対する伝搬の方向性、すなわちカイラリティの完全なマッピングに初めて成功しました。
サッドグローブ准教授は「ナノ光ファイバーにおけるカイラリティは数年前に発見されましたが、我々はその特性を完全に明らかにしたかったのです。ナノ光ファイバーは、将来の量子光通信ネットワークにおいて重要な働きをするものと期待されます。だからこそ、その特性を(例えば電気回路の部品の特性のように)完全に明らかにすることはとても重要なことなのです。」と話しています。
この成果は、英国オンライン科学誌Scientific Reports誌に12月6日(英国時間)に掲載されました。
論文情報
"Polarization response and scaling law of chirality for a nanofibre optical interface"
(ナノ光ファイバーを用いた光インターフェースのカイラリティの偏光応答とスケーリング則)
Mark Sadgrove Masakazu Sugawara, Yasuyoshi Mitsumori and Keiichi Edamatsu
Scientific Reports(Nature Publishing Group) 7, 17085;
doi:10.1038/s41598-017-17133-3(2017)
図.両側の球における緯度経度が入力光の偏光状態を表し、ある偏光の光がナノ光ファイバーの一方の出口に出力される強度を各々の球の表面上の色の変化で表す。その分布が左右の出口で明確に異なり,互いに逆向きの傾きをもっていることから、偏光によって伝搬しやすい方向が異なることがわかる。
問い合わせ先
東北大学電気通信研究所
枝松圭一 教授
Mark Sadgrove 准教授
電話 022-217-5070
E-mail eda*riec.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)