本文へ
ここから本文です

人類で進化し、多様性が維持されている「こころの個性」に関わる遺伝子を特定

【発表のポイント】

  • 私たちはみな、多様な「こころの個性」(=精神的個性)をもっており、それらは時として精神疾患にもつながります。一方で、こうしたヒトの精神的多様性がどのように進化し、維持されているのかについて、その進化機構は不明です。
  • 本研究では、精神疾患関連遺伝子の中で、人類の進化過程で自然選択によって有利に進化してきた、こころの個性に関わる遺伝子(不安傾向や神経質傾向の違いに影響するSLC18A1遺伝子)を検出しました。
  • ヒトの集団内で、この遺伝子は遺伝的多様性をもち、自然選択によって異なる遺伝子型が集団中に積極的に維持されていることを示しました。
  • 本研究成果は、ヒトのこころの多様性が進化的に積極的に保たれている可能性を進化遺伝学的手法により初めて示したものです。本研究の進化学的な知見は、個性や精神・神経疾患の生物学的意義や治療の方向性について示唆を与えると期待されます。

【研究の背景】

現代人の5人に1人は、一生の間に何らかの精神疾患を発症するといわれており、その原因解明および治療は、精神医学や神経科学における中心的課題の一つです。また、精神疾患は遺伝率が高く、しばしば生物学的な適応度(生存や繁殖)に大きな影響を与える可能性があるにも関わらず、ヒトの集団中に頻繁に見られることから「進化的なパラドクス」と捉えられることもあり、その進化機構の解明は進化学的にも重要な研究課題です。さらに、統合失調症や自閉症などの精神疾患は、社会行動や認知機能など、ヒトを特徴づけるような高次脳機能の障害を示すことから、人類の高次脳機能の進化の副産物として精神・神経疾患が生まれたのではないかという仮説があり、精神疾患関連遺伝子は人類の脳の進化において重要な役割を果たしたと考えられます。

一方で、精神疾患という表現型は私たちが持つ「個性」の一部として捉えることもできます。実際、近年行われた研究の多くが、精神疾患と精神的個性1)の遺伝的背景にはかなりの重なりがあることを見出しています。過去の理論研究は、こうした個性にかかわる遺伝的変異は積極的に維持されうると提唱していますが、実際に精神疾患および精神的個性に関わる遺伝的変異が自然選択によって積極的に維持されていることを明確に示す証拠はこれまで報告されていませんでした。

本研究では、精神疾患の関連遺伝子に着目し、哺乳類15種のゲノム配列を用いて、人類の進化過程で加速的に進化した遺伝子を検出しました。また、約2500人分の現代人の遺伝的多型データを用いて、集団中で積極的に維持されている遺伝的変異の特定を試みました。

【語句説明】

注1 個性:
上の文脈においては、心理学の分野で主に用いられる「調和性」、「誠実性」、「開放性」、「外向性」、「神経質傾向」の5つによって表される精神的特性を指す。

詳細(プレスリリース本文)PDF

論文の詳細

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科 河田 雅圭(かわた まさかど)
電話番号:022-795-6688 / 電子メール:kawata*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
ホームページ: http://meme.biology.tohoku.ac.jp/klabo-wiki/(研究室)

(報道に関すること) 東北大学大学院生命科学研究科広報室 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193 / 電子メール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ