本文へ
ここから本文です

貧血の新モデル:赤血球産生のためのスイッチを発見 ‐BACHタンパク質は赤血球と自然免疫細胞の産生バランスを調節する‐

【発表のポイント】

  • 転写因子注1BACH2およびBACH1タンパク質は自然免疫細胞注2の産生を抑え、赤血球の産生を促進することを解明した
  • 貧血を起こす炎症や骨髄異形成症候群注3では、特にBACH2の働きが低下することを発見した
  • BACH2やBACH1の機能低下が貧血や白血病の発症に関わる可能性があり、貧血の新たな治療標的となりうる

【概要】

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の加藤浩貴(かとう ひろき)博士、伊藤亜里(いとう あり)博士、五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授、血液・免疫病学分野の張替秀郎(はりがえ ひでお)教授らのグループは、京都大学大学院医学系研究科腫瘍生物学分野の小川誠司(おがわ せいじ)教授、イタリアのパヴィア大学Mario Cazzola教授らとの共同研究により、BACH2およびBACH1タンパク質が赤血球の産生に重要であることを発見しました。

これまで、赤血球をはじめとする血液細胞は、細胞の元となる造血幹細胞注4で働く遺伝子のレパートリーが徐々に変化し、それぞれの血液細胞に特徴的な遺伝子群が働くようになることで産生されることが知られていました。各血液細胞に特徴的な遺伝子群の活性化には、転写因子と呼ばれる一群のタンパク質が深く関わりますが、造血幹細胞から各血液細胞への産生がどうやって決まるか、未だ不明な点が多く残っています。本研究では、転写因子であるBACH2およびBACH1タンパク質が、造血幹前駆細胞からの自然免疫細胞の産生を抑え、赤血球の産生を促進することを発見しました。これら二つの転写因子を欠く造血幹前駆細胞は、赤血球を作る能力が著しく低下し、自然免疫の細胞を効率良く作りました。また、貧血を引き起こす炎症や骨髄異形成症候群では、特にBACH2の働きが低下することも発見しました。

本研究は、造血幹細胞から赤血球と自然免疫細胞がバランス良く作り出される仕組みを解明したものであり、貧血や白血病など様々な血液疾患の理解につながることが期待されます。

本研究の成果は2018年9月24日午後4時(英国時間、日本時間25日午前0時)に学術誌Nature Immunologyオンライン版にて先行発表されました。

【用語説明】

注1. 転写因子:遺伝子の働きを調節する一群のタンパク質。約2万個あるヒト遺伝子のなかで、10%ほどが転写因子あるいは転写因子を補助するタンパク質の遺伝子であるとされる。転写因子は各遺伝子が体のどこで、いつ働くかを決める重要な役割をもっている。

注2. 自然免疫細胞:体内に侵入した病原体に対する最初の防御応答を行う細胞。自然免疫細胞は病原体を呑み込むか接触することにより排除する。

注3. 骨髄異形成症候群:高齢に伴い発症する血液の悪性疾患で、貧血や血小板減少などの造血障害がおき、しばしば白血病につながる。

注4. 造血幹細胞:赤血球や白血球など、すべての血液細胞になる能力を持つ細胞。

図1 ヒト骨髄における造血像

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
TEL:022-717-7596
E-mail:igarashi*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-7891
FAX:022-717-8187
E-mail:pr-office*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ