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クロム酸化物反強磁性体薄膜の微弱磁化を自在に制御する技術を開発 -従来不可能だった数ナノメートル厚の反強磁性スピンの電圧反転も視野に-

【発表のポイント】

  • 磁気記録デバイスの高密度化への突破口となる反強磁性体*1スピントロニクス*2が注目を集めている
  • クロム酸化物反強磁性体薄膜に任意の微弱な磁化を付与する技術を開発
  • 極薄クロム酸化物ヘテロ構造では反強磁性スピンの反転電圧が増大する問題を解決
  • 電圧で書き込める超低消費電力の反強磁性体記録デバイスの実現に大きく前進

【概要】

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「無充電で長時間使用できる究極のエコIT機器の実現」 (プログラム・マネージャー:佐橋政司)の一環として、東北大学大学院工学研究科の佐橋政司教授と野崎友大准教授(現: 産業技術総合研究所 スピントロニクス研究センター 研究員)らは、公益財団法人 高輝度光科学研究センター 分光解析Ⅱグループの中村哲也グループリーダーらと共同で、クロム酸化物の反強磁性スピンを可視化する技術を利用した材料開発により、クロム酸化物反強磁性体薄膜に、任意の大きさと方向を持つ微弱磁化(寄生強磁性磁化*3)を付与する技術を開発しました。

クロム酸化物は反強磁性スピンを電圧で操作できる数少ない材料ですが、この反強磁性スピンの電圧反転ではクロム酸化物の膜厚が薄くなるほど反転電圧が大きくなるという問題がありました。そのため、反強磁性スピンの反転はこれまで100ナノメートル以上の厚い試料でしか実現されておらず、大きな反転電圧が必要になることと加工が難しいことから、実用的なデバイスへ適用することが困難でした。今回開発した方向と大きさを制御した寄生強磁性磁化を付与したクロム酸化物を使うと、クロム酸化物の膜厚が薄い領域でも反強磁性スピンの反転電圧を低減することができ、数ナノメートルという極めて薄いクロム酸化物薄膜でも小さな電圧で反強磁性スピンを反転させる可能性が視野に入ってきました。

本成果により、反強磁性体の高集積・低消費電力・高速動作といった特徴を利用した、これまでの限界を超える革新的な磁気記録デバイスの実現に向けて大きく前進しました。

本成果は2018年10月12日に「physica status solidi - Rapid Research Letters」誌に掲載されます。

【用語解説】

*1 強磁性体と反強磁性体

強磁性体はスピンがすべて同じ方向を向いているため、操作・検出が容易であり、現在のスピントロニクスの機能を中心的に担う磁性材料となっている。一方で、反強磁性体は隣り合うスピンが反対方向に向いているため、互いに打ち消し合って全体として磁化を検出することはできないが、異なるスピン配列を区別することはできる。たとえば、クロム酸化物の場合、↑↓↑↓と↓↑↓↑という二つの反強磁性スピンの状態を持つ。反強磁性体は操作・検出が困難な一方で、外部磁場に対する安定性や強磁性体を超える高速動作が期待されており、次世代のスピントロニクス材料として注目されている。

*2 スピントロニクス

これまでエレクトロニクス技術で使われてきた電荷に加えて、電子が持つ磁石としての性質である"スピン"を利用することによって、これまで実現できなかった新しい機能を持つ電子デバイスを実現する技術をスピントロニクスと呼ぶ。磁気メモリやストレージデバイス、センサなどに用いられてきた。

*3 寄生強磁性磁化

反強磁性体に生じる弱い強磁性磁化のこと。反強磁性スピンが傾いている場合や、上向きスピンと下向きスピンの大きさが異なり完全に打ち消しあっていないときに現れる。

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詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学大学院工学研究科
担当:佐橋政司(教授・リサーチプロフェッサー)
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-05
電話番号:022-795-5203
E-mail:sahashi*ecei.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学大学院工学研究科・工学部情報広報室
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-4
Tel: 022-795-5898
E-mail: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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