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結晶にも液晶にも液体にも分類されない新物質を発見 -分子自己集合体の科学における新知見-

【要点】

  • 分子の自発的集合化で単結晶のような三次元規則構造の「液滴」を形成
  • 固体と液体の性質を併せ持ち規則構造を崩さずに流れる不思議な流動性
  • 分子の小さなキラリティーが巨視的物質の運動性を制御するという新知見

【概要】

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の梶谷孝特任准教授、福島孝典教授らはキラル分子(用語1)が単結晶のような規則構造をもつ液滴を自発的に形成、さらに構造秩序を崩さずに一方向に回転しながら流れる現象を発見した。側鎖にキラルエステル基を有するトリフェニレン誘導体(用語2)を設計して相転移挙動と集合構造を調べたところ、この物質の中間相(用語3)では、ヘリンボーン構造(用語4)という特徴的な構造からなる二次元シートが積層し、あたかも単結晶のような三次元構造を形成していることが分かった。

分子の自発的な集合化によるナノメートル級の物質作製は可能だが、高性能な有機材料の開発に求められる、数ミリ〜数センチスケールの超長距離構造秩序を実現することは極めて困難だった。通常、単結晶は固い多面体の形状をもつが、この物質は液滴のような形状で、かつ流動性をもつという構造特性と運動性が相矛盾する性質を示した。さらに、この液滴状物質は重力下で構造秩序を維持しつつ、一方向に回転しながら流れ落ちた。精密な解析から、この一方向回転流動は分子のキラリティーによってもたらされていることを明らかにした。

この研究は高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 春木理恵研究員、理化学研究所創発物性科学研究センター 橋爪大輔チームリーダー、理化学研究所放射光科学研究センター 引間孝明研究員、東北大学 多元物質科学研究所 高田昌樹教授(理化学研究所放射光科学研究センターグループディレクター)、(株)JEOL Resonance 矢澤宏次主事、東京大学 物性研究所 柴山充弘教授らのグループと共同で行った。

研究成果は英国時間1月21日16時発行の「Nature Materials(ネイチャーマテリアルズ)誌」に掲載された。

【用語説明】

(1)キラル分子:三次元の物体などが、その鏡像と重ね合わすことができない性質(キラリティー、掌性)があること。化学では、結合の組み換えなしに分子をそれ自身の鏡像に重ね合わせられない性質をもつことを意味する。

(2)トリフェニレン誘導体:中心のベンゼン環に三つのベンゼン環が縮環した構造を有する平面状分子。側鎖にアルコキシ基 (RO−) またはアルキルチオ基 (RS−) を導入した誘導体は代表的な円盤状液晶分子として知られている。

(3)中間相:物質の複数の状態(気体、液体、固体)の中間に存在する相のこと。液晶は、液体と固体の中間相として代表的な例である。

(4)ヘリンボーン構造:V字形や長方形を縦横に連続して組合せて作られる構造のこと。ニシン(Herring)の骨(Bone)の形から名付けられた。

図1. (a) キラルトリフェニレンの分子構造、(b) 液滴中の分子集合構造、および (c) 基板上での液滴内部の分子集合構造

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問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学多元物質科学研究所
教授 高田 昌樹(たかた まさき)
Tel:022-217-5820
E-mail:takatama*tagen.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
Tel:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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