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最古の金属ガラス原子の並び方に特徴を見つける ―国際的な放射光X線・中性子実験と最新のデータ解析から明らかに―

(ポイント)

  • バルク(塊)状として最も古く得られた金属ガラス(注1)であるPd40Ni40P20の原子の並び方に、ガラスになりやすい特徴を見出しました。
  • 実験はフランスにある放射光施設や中性子源を用いて、日仏独英の共同で行いました。
  • 得られた実験結果は、日本あるいはハンガリーで開発したいくつかの最新のアルゴリズムを用いて解析を行いました。

(概要説明)

熊本大学の細川伸也教授およびラスロー・プスタイ客員教授(ハンガリー科学院より併任)は、フランス・国立科学研究センター(CNRS)、ドイツ・マールブルク大学、物質・材料研究機構(NIMS)、新潟大学、東北大学金属材料研究所、フランス・ラウエ・ランジュバン研究所(ILL)およびイギリス・バース大学の研究者と協力して、放射光X線を利用したX線異常散乱(注2)実験および強力中性子源を用いた中性子回折(注3)実験を行うことにより、最も古くバルク状で得られたパラジウム・ニッケル・リン系金属ガラスPd40Ni40P20の原子の並び方の特徴を捉えることに成功しました。実験データの解析には、逆モンテ・カルロ法(注4)、ボロノイ解析(注5)およびパーシステント・ホモロジー法(注6)などの最新のアルゴリズムが利用されました。

この研究により、なぜ金属原子が結晶として整列せず、ランダムに並ぶガラスとなり得るのかという、これまであいまいであった特徴をあぶり出すことができました。また、これまで経験的にしか語られることがなかった、ガラス形成能(ガラスになりやすさ)に一定の指針を与えることができ、今後の金属ガラスの新規材料開発に新たな指針を与えるものとして期待されます。

本研究は文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)、科学技術振興機構CRESTおよびPRESTO、東北大学金属材料研究所全国共同利用共同研究の支援を受けて実施されたもので、科学雑誌「Physical Review B」に令和元年8月28日(米国東部時間)に掲載されました。

図1:得られたPd40Ni40P20金属ガラスの原子配列

[用語解説]

(注1)金属ガラス
ある種の合金の液体を急速に冷却すると、液体のランダムな原子配列がそのまま凍結されてガラス状態を作り、金属ガラスになります。当初は、水冷した銅の回転ドラムに液体金属を吹き付けるなど、薄いリボン状のものしか作製できず、その応用範囲は限られていました。しかしながら、Pd40Ni40P20は、液体金属を水に浸ける程度でバルク状の金属ガラスを作製でき、金属加工ではなく鋳造で硬くて磨耗しない小さな金属部品を作製できるなど、応用が広がっていきました。

(注2)X線異常散乱
通常のX線回折では、用いるX線のエネルギーを変えても全く新しい情報は得られません。ところがある構成元素に関係するX線の吸収端、すなわち最も強い引力で原子核と結びついている1s電子を外部に叩き出すエネルギーの近くにX線のエネルギーを定めると、その元素からのX線の散乱が数%弱くなる異常(異常分散効果)があることが知られています。その結果、目標の元素にのみ限定された散乱情報のコントラストを得ることができます。これを利用した実験法をX線異常散乱と呼びます。

(注3)中性子回折
X線と同じように中性子を用いても、原子配列についての情報を得られます。この研究に中性子を用いた最も大きな理由は、X線とは散乱のメカニズムが異なり、P元素からの散乱の寄与が、他の元素と同じくらい大きいためです。X線は電子によって散乱されますので、電子の数が少ない(軽元素である)P元素の寄与は非常に小さいのですが、中性子はそれを補填してくれます。さらには、散乱の強さ、すなわち散乱断面積もX線とは異なりますので、元素別の原子配列の情報が増加します。

(注4)逆モンテ・カルロ法
通常は実験データにフーリエ変換と呼ばれる数学的な解析を行って原子配列を求めますが、この手法では逆に原子配列をあるモデルとして立ててから実験データを再現しようとする「逆問題」の立場で解析を行います。原子の位置を少しずつ変化させ、実験データにより合うときは採用、合わないときも一定の割合で採用するという、メトロポリスのアルゴリズムを使って、モデル原子配列が実験データをより再現するまで繰り返しを行います。

(注5)ボロノイ解析
中心原子のまわりに隣の原子がどのように配置しているかを判定する手段です。具体的には、隣の原子との間の結合線の二等分面を全ての隣り合った原子との間に取れば、隣接原子数と同じ数だけの多角形の面を持つ多面体(ボロノイ多面体)を作ることができ、その内部をその原子の領分とすることができます。そのときの表面の多角形の数を3、4、5、6、7角形の順に書いたものをボロノイ指数と呼びます。例えば多くの金属の結晶構造は面心立方晶あるいは最密充填六方晶ですが、いずれも12個の4角形でできていますので(0 12 0 0 0)、先に述べた正20面体構造では12個の5角形でできていますので(0 0 12 0 0)と書くことができ、それによって隣接原子の配位と特徴を明らかにすることができます。

(注6)パーシステント・ホモロジー法
あるものの配置を抽出するトポロジー(位相幾何学あるいは形の科学)解析の一つです。例えば、図3左のように原子が配列していたとします。その半径の大きさを段々と大きくしていくと、あるところで図3中のように右下に小さなリングが現れます。これを生成(誕生)と呼びます。さらに半径の大きさを大きくすると、図3右のように右下の小さなリングが消滅(死亡)しますが、新たに大きなリングが生成されています。このとき、横軸に誕生した瞬間の半径の大きさ、縦軸に死亡した瞬間の半径の大きさをヒストグラム(パーシステント・ダイヤグラム)として図形化すると、より大きな距離範囲での原子の並び方に特徴が現れます。

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問い合わせ先

〇研究に関すること
東北大学金属材料研究所
教授 加藤 秀実
E-mail:hikato*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL:022-215-2114

〇報道に関すること
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
冨松 美沙
E-mail:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL:022-215-2144

〇金属材料研究所全国共同利用共同研究に関すること
東北大学金属材料研究所 研究協力係
E-mail:imr-kenkyo*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL:022-215-2677

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