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電流‐スピン流変換の正確な評価法を確立 -次世代不揮発性メモリー素子(MRAM)の設計指針を提供-

【発表のポイント】

  • スピンホール角(電流―スピン流変換効率)の正確な評価方法を確立
  • スピンホールトンネル分光法と弱反局在解析を併用
  • スピン軌道トルクを用いた不揮発性磁気メモリー素子などの設計指針を提供

【概要】

中川原 圭太(東北大学工学研究科博士後期課程 学生)、新田 淳作(同教授)、好田 誠(同准教授)らの研究グループは、Luqiao Liu(米国・マサチューセッツ工科大学 教授)、三谷 誠司(物質・材料研究機構 スピントロニクスグループリーダ)、葛西 伸哉(物質・材料研究機構 スピン物性グループリーダ)の研究グループと共同で、スピンホールトンネル分光法と弱反局在解析※1を併用することによりプラチナPt薄膜のスピンホール角を正確に評価することに成功しました。スピンホール角はスピン軌道トルクを用いた高速・低電力不揮発性磁気メモリー素子(次世代MRAM)の設計指針となります。

スピンホール角は電流とスピン流の変換効率に対応し、スピン軌道トルク※2やスピンゼーベック効果※3の大きさを決める重要なパラメターです。スピンホールトンネル分光法と弱反局在解析を併用することにより、PtやタンタルTaなどの重金属だけでなくトポロジカル絶縁体や二次元層状物質など新材料のスピンホール角を正確に評価することが可能となります。また、スピンホール角はスピン軌道相互作用※4の起源解明や次世代MRAMなどのスピンデバイスを設計するうえで最も重要な値であることからこの分野の発展に大きく貢献することが期待されます。

本成果は、米国科学誌「Applied Physics Letters」のFeatured Articlesに選ばれ2019年10月14日オンラインで公開されました。なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業の助成を受けて行われました。

図1 スピンホールトンネル分光

【用語解説】

※1 弱反局在解析
量子力学によると電子は粒子でありかつ波の性質をもつ。このため伝導体中で散乱を受けながら自己干渉し伝導に寄与しなくなる定在波状態(局在状態)を形成する。この電子の局在状態は磁場により電子の位相が変化すると量子干渉が破れ電気伝導度が増加する。一方、干渉中にスピンが緩和する場合は干渉効果が逆転し弱反局在現象と呼ぶ。この弱反局在現象の解析からスピン緩和長を求めることができる。

※2 スピン軌道トルク
PtやTaのような重金属でスピン軌道相互作用の強い材料中では電流の方向と垂直にスピン角運動量を運ぶスピン流が生じる。このスピン流が磁性体中に流れこむとトルクを生じ磁性体の磁化方向を反転することが可能となる。

※3 スピンゼーベック効果
磁性体に温度差をつけると温度勾配と平行にスピン流が生じる現象。磁性体中で生じたスピン流をスピン軌道相互作用の強い金属に注入すると逆スピンホール効果により電荷の蓄積を生み出し起電力として取り出すことが出来る。このため磁性体/金属積層構造を作ると熱電変換デバイスとなる。

※4 スピン軌道相互作用
電子が電界中を運動することにより磁界を感じる相対論的効果。このため電界によりスピン操作が可能となる。また、電荷の流れと垂直な方向にスピン流を生じるスピンホール効果の原因ともなる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学大学院工学研究科
担当 新田淳作
TEL: 022-795-7315
E-mail: nitta*material.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関して)
東北大学工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
E-mail: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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