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すい臓がん細胞の転移を促進するスイッチを発見 ‐BACH1タンパク質の機能上昇によるがん転移の惹起‐

【発表のポイント】

  • 転写因子注1BACH1タンパク質は、ヒトのすい臓がん注2細胞の転移注3を促進することを解明した。
  • 悪性度が高いヒトのすい臓がん細胞では、BACH1の働きが亢進していることを発見した。
  • BACH1はすい臓がんの治療において、新たな治療の標的となり得る。

【概要】

すい臓がんは、がんの中で最も治療成績が不良な「最凶のがん」と呼ばれています。東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授らの研究グループは、転写因子BACH1タンパク質がすい臓がんの転移に重要であることを発見しました。これまで、すい臓がんをはじめとするさまざまながんは、複数の遺伝子変異注4が組み合わさり細胞の増殖能が上昇して生じることが知られていましたが、がん患者の治療経過を大きく左右するがんの転移については、遺伝子変異は関わらないことも報告されてきました。しかし、がん細胞がどのように転移能力を獲得するか、その仕組みには未だ不明な点が多く残っています。本研究により、転移能力が高いすい臓がん細胞では転写因子BACH1タンパク質の働きが上昇していることを発見しました。逆に、BACH1の働きを低下させることで、すい臓がん細胞の転移能力を低下させることも明らかにしました。更に、BACH1の活性化状態がすい臓がん患者の治療経過の効果的な指標になることも見出しました。本研究は、すい臓がん細胞が転移能力を獲得する仕組みを解明したものであり、新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。

本研究の成果は、2020年1月9日午後7時(米国東部時間、日本時間10日午前9時)に米国癌学会の学術誌Cancer Researchオンライン版にて発表されました。

図1.ヒトの膵がん細胞が転移する機序(モデル)
膵臓で生じたがん細胞は当初は周辺の細胞と接着してその場所にとどまるが、BACH1の働きが亢進すると細胞接着に関わる遺伝子の発現が低下し、移動能が上昇し、肝臓など他の部位へ転移していく。

【用語解説】

注1.転写因子:遺伝子の働きを調節する一群のタンパク質。約2万個あるヒト遺伝子の中で、10%ほどが転写因子あるいは転写因子を補助するタンパク質の遺伝子であるとされる。転写因子は各遺伝子が体のどこで、いつ働くかを決める重要な役割をもっている。

注2.すい臓がん:すい臓がんは初期には自覚症状が乏しいため発見が遅れがちであり、進行が早く、また他の部位に転移することも多いため、その治療成績は5年生存率が10%程度にとどまっている。

注3.転移:転移には、細胞間の接着が低下し、細胞の運動能が亢進することが重要とされる。しかし、この性状は異常増殖などとは異なり、体細胞の遺伝子変異で説明することはできていない。

注4.遺伝子変異:遺伝子を構成するDNAの配列情報に変化が生じること。細胞増殖を促進する遺伝子に変異が生じてその作用が異常に上昇する場合、細胞増殖にブレーキをかける遺伝子に変異が生じてその作用が失われる場合、その組み合わせの場合など、さまざまな例が報告されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
教授 五十嵐 和彦(いがらし かずひこ)
電話番号:022-717-7596
Eメール:igarashi*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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