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がん抑制タンパク質p53の液滴形成現象の発見 ― がん抑制機構の解明に期待 ―

【発表のポイント】

  • がん抑制タンパク質p53が、機能を保持した状態で、液滴状のミクロンサイズの会合体注1を形成することを発見
  • 液滴状会合体の形成と崩壊によるp53の機能調整メカニズムを提案
  • p53は液−液相分離を利用し、がん抑制の機能を制御している可能性

【概要】

東北大学多元物質科学研究所の鎌形清人准教授、高橋聡教授、永次史教授、および産業技術総合研究所人工知能研究センターの亀田倫史主任研究員らの研究グループは、がん抑制タンパク質p53が液滴状の会合体を形成することを発見し、液滴状の会合体により機能を調整する仕組みを提案しました。

がん抑制タンパク質p53は、標的となるDNAに結合し、細胞周期の停止、損傷したDNAの修復、およびアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こし、細胞のがん化を抑制します。これまでに、p53は、4量体を形成し溶液中に分散した状態で機能しますが、不可逆的な凝集によって、その機能が失われることが知られていました。しかし、この分散状態や固体様の凝集体とは異なり、液体の性質を持つ会合体へのp53の関与は余り明らかにされていませんでした。研究グループは、生物物理学的な手法を用いて、p53が液滴状のミクロンサイズの会合体を形成することを発見しました。これは、p53が、溶液中に溶けて分散した相と密に集合した相に分離する、液−液相分離現象と考えられます。また、p53の液滴形成には、特定の立体構造を取らない天然変性領域間の結合が関与することを明らかにしました。液滴状の会合体を経験したp53は、その機能を保持していることが分かりました。さらに、p53の液滴形成の促進および崩壊は、様々な生体分子やp53への翻訳後修飾によって、制御されていることが明らかとなりました。以上より、p53は液−液相分離を利用し、がん抑制の機能を制御している可能性が示されました。

本研究成果は、2020年1月17日(英国時間10時)に英国科学誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。また、本研究は、科学研究費助成事業、および産総研-東北大マッチング事業の支援を受けて、実施されました。

Fig.1 微分干渉顕微鏡を用いて、p53の液滴状の会合体を観察しました。 a)p53のpH依存的な会合体の形成。pH 6.5と7.0では球形の会合体を形成し、pH 5.5では非球形の会合体を形成しました。一方、pH 7.5以上では、ミクロンサイズの会合体は観測されませんでした。b)pH 7.0で形成したp53の会合体は、液体の性質を持つことが分かりました。300秒の時間をかけて、3つの球形の会合体が融合する過程が観察されました。右側の黒い線は、10マイクロメートルを表しています。原著論文の図1より転載しました。

【用語解説】

注1)会合体
2個以上の分子が比較的弱い分子間力によって集合し、一つの塊として存在している状態。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 鎌形 清人(かまがた きよと)
電話: 022-217-5843
Email:kiyoto.kamagata.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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