本文へ
ここから本文です

二大分解系が独立に支える植物の成長戦略 -葉緑体分解をめぐる一つの議論に決着-

【概要】

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター分子生命制御研究チームの泉正範研究員、萩原伸也チームリーダー、東北大学の日出間純准教授、オックスフォード大学のポール・ジャービス教授、アリゾナ大学のジェシー・ウッドソン准教授らの国際共同研究グループは、主要な細胞内分解システムの「オートファジー[1]」と「ユビキチン・プロテアソーム系[2]」が植物では独立に働き、生体内の新陳代謝を支えていることを発見しました。

本研究成果は、植物が持つ高度な体内栄養リサイクルシステムの一端を解明するものであり、少ない肥料で環境負荷を低減しながらも、十分な収量・品質を維持できる農作物の設計に役立つと期待できます。

オートファジーとユビキチン・プロテアソームは、動植物問わず広範な生物が持つ細胞内成分の分解システムです。ある時は独立して、ある時は直接情報交換することにより、細胞内の老廃物分解と栄養リサイクルを担うことが多くの生物で報告されています。

今回、国際共同研究グループは、国際的議論の一つとなっていた植物の葉における二大分解系の関係について明確な結論を得るために、モデル植物のシロイヌナズナを用いて遺伝子欠損株や変異株を作出し、成長やストレス耐性を評価しました。その結果、二大分解系は独立に働くことで植物の栄養代謝を支えており、両者が同時に破綻すると活性酸素が過剰に蓄積し、葉が早期に枯れ、種子形成にまで異常が生じることを明らかにしました。

本研究は、米国植物生理学会誌『Plant Physiology』の掲載に先立ち、オンライン版(6月17日付)に掲載されました。

葉緑体における二大分解系は独立に働き、植物の栄養代謝を支える

【補足解説】

[1] オートファジー
植物、動物、酵母など、真核生物に広く保存されるタンパク質などの細胞内成分の分解システム。細胞質の一部や細胞内小器官(オルガネラ)を二重膜小胞で取り囲み、細胞内で高い分解活性を持つ酸性の小器官の液胞(あるいはリソソーム)に運ぶことで、分解・消化する仕組み。タンパク質や脂質をアミノ酸や脂肪酸にまで分解することで、それらを新しいタンパク質の合成や若い器官の形成に再利用できる。オートファジーの仕組みの解明によって、大隅良典博士が2016年のノーベル生理学医学賞を受賞した。

[2] ユビキチン・プロテアソーム系
真核生物に進化的に保存されるタンパク質の分解システム。ユビキチン活性化酵素E1、ユビキチン結合酵素E2、ユビキチン転移酵素E3が働くことで、標的タンパク質に小さなタンパク質タグであるユビキチンを付加する。あるタイプの鎖状のユビキチン化が起きたタンパク質は、細胞質のタンパク質分解装置であるプロテアソームにより分解される。さまざまなE3が存在し、それらが特異的なユビキチン化標的を持つことで、非常に高精度な選択的タンパク質分解が可能であるとされている。また、特に哺乳類細胞において、ユビキチン化を受けた細胞内小器官がプロテアソームではなく、オートファジーの分解対象となる現象が報告されている。ユビキチン化システムの発見は、2004年のノーベル化学賞の受賞対象となった。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<機関窓口>
東北大学 大学院生命科学研究科 広報室
TEL:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ