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トポロジカル電流に生じる整流効果を発見 -量子異常ホール状態の散逸過程の理解に前進-

【概要】

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの安田憲司客員研究員、十倉好紀グループディレクター(東京大学卓越教授/東京大学国際高等研究所東京カレッジ)、強相関量子伝導研究チームの吉見龍太郎研究員、強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、強相関理論研究グループの永長直人グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、東京大学大学院工学系研究科の森本高裕准教授、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループは、磁性トポロジカル絶縁体[1]の量子異常ホール状態[2]において、印加電流方向に依存して抵抗値が異なる整流効果[3]を観測しました。

本研究成果は、量子異常ホール状態の端に流れるトポロジカル電流[4]に生じる新たな整流効果を実現したもので、今後、トポロジカル電流の散逸過程の理解が進むと期待できます。

今回、共同研究グループは、磁性トポロジカル絶縁体「Crx(Bi1-ySby2-xTe3(Crクロム、Bi:ビスマス、Sb:アンチモン、Te:テルル)」薄膜の量子異常ホール状態に着目しました。量子異常ホール状態のトポロジカル電流は、試料の端に一方向にのみ電荷キャリアを運ぶという性質を持っています。この性質に由来し、印加電流の方向に依存して抵抗の大きさが異なることが明らかになりました。

本研究は、科学雑誌『Nature Nanotechnology』オンライン版(7月13日付:日本時間7月14日)に掲載されました。

量子異常ホール状態における整流効果の概念図

【用語解説】

[1] 磁性トポロジカル絶縁体、トポロジカル絶縁体
トポロジカル絶縁体は、物質内部では電気を流さない絶縁体であるが、その表面のみ電気を流す表面状態を持つ特殊な物質である。さらに、磁性元素を添加することによって磁石としての性質も現れる。これを磁性トポロジカル絶縁体と呼ぶ。表面状態と磁石としての性質が作用する結果として、磁性トポロジカル絶縁体では量子異常ホール状態が生じる。

[2] 量子異常ホール状態
量子異常ホール状態では、試料端に方向性を持って流れるトポロジカル電流の一種である端電流が発生する。これは、片側1車線ずつの高速道路に例えられ、反対側の試料の端では端電流が反対方向に流れる。その結果、ホール抵抗(電流を加えた方向と垂直方向に生じる電圧を電流値で割ったもの)がプランク定数hと電気素量eで表されるh/e2(約 25.8 kΩ)の値に量子化する。さらに、端電流の流れる向きは磁化の方向によって反転し、上向きの磁化、下向きの磁化に対して、ホール抵抗はそれぞれ+h/e2, -h/e2となる。

[3] 整流効果、pn接合ダイオード
電流の方向によって、電流の流れやすさ(抵抗)が異なる効果のこと。最も代表的なものにp型半導体とn型半導体を接合したpn接合ダイオード素子がある。pn接合の界面において内部電界が発生することで、外部電場をかける方向に応じて抵抗が異なる。近年ではトポロジカル物質に特徴的なトポロジカル電流を用いることで、接合を含まない物質であっても整流効果を生じることが明らかになっている。

[4] トポロジカル物質、トポロジカル電流
トポロジカル絶縁体や量子異常ホール状態は、電子状態の幾何学的性質(トポロジー)によって特徴づけられる。これらの物質を総称してトポロジカル物質という。トポロジカル物質はその表面や端に、散逸の少ないトポロジカル電流を有する。低消費電力素子への応用に向け、その散逸の最小化が重要な研究課題の一つである。

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 低温物理学研究部門 教授
塚﨑 敦
Tel: 022-215-2085 
E-mail: tsukazaki*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 
情報企画室 広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email: pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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