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クライオ電子顕微鏡によるヒト由来カルシウムポンプの高分解能構造の決定 ~細胞内カルシウム恒常性維持機構の破綻が引き起こす疾病の原因解明に光~

【発表のポイント】

  • クライオ電子顕微鏡による構造解析により、細胞中のカルシウムの恒常性維持に重要な小胞体膜局在カルシウムポンプSERCA2bの高分解能構造を世界で初めて明らかにした。
  • SERCA2bに特徴的なC末端テール領域による、構造・活性制御機構を世界で初めて明らかにし、小胞体カルシウムポンプの新しい活性制御機構モデルを提唱した。

【概要】

細胞小器官の一つである小胞体は、カルシウムを取り込むことで細胞内カルシウムイオン濃度を適切に維持しています。SERCA2bはこのカルシウムの取り込みを担い、全組織に広く発現している膜たんぱく質です。東北大学多元物質科学研究所の張 玉霞博士課程学生、渡部 聡助教、稲葉 謙次教授(生命科学研究科、理学研究科化学専攻 兼担)、および東京大学医学研究科の包 明久助教、吉川 雅英教授、京都産業大学の永田 和宏名誉教授(現 JT生命誌研究館館長)らを中心とした共同研究グループは、筋収縮の制御、神経伝達、アポトーシスの誘導、タンパク質の品質管理など、様々な生命現象において重要な役割をもつ細胞内カルシウムイオンの恒常性を保つ上で必須のカルシウムポンプSERCA2bの高分解能構造を、クライオ電子顕微鏡単粒子解析注1という技術を用いて、世界で初めて明らかにしました。

本研究成果は、2020年8月12日14時(アメリカ東部時間)に米国科学誌Science Advancesに掲載されました。

図 SERCA2bの二つの中間状態のクライオ電子顕微鏡構造
クライオ電子顕微鏡単粒子解析により、SERCA2bのカルシウムとATPが結合した状態(左)とカルシウムは解離しリン酸基が結合した状態(右)について、それぞれ2.9 Å、2.8 Å分解能で構造決定した。これにより、SERCA2bのC末端テールの位置と構造に関する情報が得られた。

【用語解説】

注1)クライオ電子顕微鏡単粒子解析
タンパク質の立体構造を高分解能で決定するための手法の一つ。電子線照射による分子の振動や損傷を抑えるために、観測対象のタンパク質を氷薄膜中に包埋し、極低温で電子顕微鏡像を観測する。個々の分子像は、様々な向きで氷薄膜に包埋された分子の投影像であり、投影方向毎に分類した分子像の平均像を組み合わせることで高分解能の三次元構造を構築する。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 教授
稲葉 謙次(いなば けんじ)
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
Tel: 022-217-5604
E-mail:kenji.inaba.a1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道担当に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
伊藤 智恵(いとう ともえ)
Tel: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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