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DNA結合タンパク質のジャンプまで観察できるサブミリ秒分解単分子蛍光計測法の提案 ―がん抑制タンパク質p53の速い運動の発見―

【発表のポイント】

  • DNA結合タンパク質のDNA上での動きを計測できる単分子蛍光顕微鏡の時間分解能をサブミリ秒に向上
  • がん抑制タンパク質p53注1)のDNAへの過渡的な結合中間体を発見
  • p53がDNA上でジャンプすることを発見
  • p53が、DNA結合ドメインをホップさせながら、DNA上を動く可能性を提案

【概要】

DNA結合タンパク質は、細胞内にあるDNAの中から結合すべき標的部位を探索し、そこに結合して機能を発揮しています。この探索運動を明らかにするために、単分子蛍光顕微鏡を用いてその動きを追跡する方法が用いられています。しかし、測定の時間分解能(例えば、33ミリ秒)内に起こる素早い運動を計測することは困難でした。

東北大学多元物質科学研究所の鎌形清人准教授らの研究グループは、単分子蛍光顕微鏡に、強力なレーザー光による臨界角の全反射照明注2)とカメラの1次元検出を組み合わせることで、サブミリ秒の時間分解能を達成しました。この方法を用いてがん抑制タンパク質p53の挙動を観察したところ、DNAへの結合時に過渡的な中間体を経由することと、DNA上でのジャンプ運動を発見しました。さらに、p53は、DNA結合ドメインを結合・解離させながらDNA上を動く可能性が明らかになりました。本研究で提案したサブミリ秒分解単分子計測法は、DNA・蛋白質複合系の機能解析に役立つことが期待されます。

本研究成果は、2020年8月13日に英国科学誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。本研究は、科学研究費助成事業の支援を受けて、実施されました。

Fig.1 a)DNA結合タンパク質のDNA上での動きの単分子計測。b) DNA・タンパク質の複合系を対象としたサブミリ秒時間分解単分子蛍光顕微鏡。532 nmのレーザーでフローセル内のタンパク質を照明し、タンパク質から出る蛍光をカメラで検出します。ピンク枠は、今回改良した点を表しています。c) 全反射照明の模式図。入射角が臨界角を超えると、溶液とガラスの界面で、入射光が反射され、染み出し光が生じます。原著論文の図1, 2より転載しました。

【用語解説】

注1)がん抑制タンパク質p53
がん抑制タンパク質p53は、ゲノムの守護神と呼ばれ、ゲノムDNA上の特定の部位に結合し、下流の遺伝子の発現を制御します。そして、細胞周期の停止、損傷したDNAの修復、およびアポトーシスなどを引き起こし、細胞のがん化を抑制しています。ヒトのがん細胞の約50%において、p53遺伝子の変異が原因であることが知られています。

注2)全反射照明
ガラスと溶液の界面に入射光を導入する時、ある入射角(臨界角)を超えると、入射光が界面で反射する現象(全反射)が起こる。この際、界面付近で染み出し光が発生する。この染み出し光を利用した照明法。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 鎌形 清人(かまがた きよと)
電話: 022-217-5843
Email:kiyoto.kamagata.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話: 022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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