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混ざり合わない混晶半導体の特異構造を利用した高効率光源実現に道-窒化アルミニウムインジウム超格子の自己組織化メカニズムを解明 -

【発表のポイント】

  • 混晶半導体の実力を最大限に発揮する高効率多機能発光素子の実現に寄与する成果。
  • 深紫外線から緑色までの光を呈する非極性面注1窒化アルミニウムインジウム注2(Al1-xInxN)薄膜に形成される特異なナノ構造を原子レベルで観察。
  • 本質的に混ざり合わないAlNとInNが、GaNへの成長初期過程において自己凝集することなく原子層レベルで交互に秩序配列する現象を解明。
  • この原子配列は膜中の欠陥を大幅に減らすことができるため、高効率なAl1-xInxN発光素子を実現し得る新しいナノ構造として有望。

【概要】

AlNとInNを混ぜ合わせたAl1-xInxN混晶半導体の禁制帯幅注3波長は、深紫外線から赤外線に渡り、ウイルス不活化なども可能な各種小型固体光源の発光層への応用が期待されます。東北大学多元物質科学研究所の秩父重英教授らは九州大学と協力し、非極性面Al1-xInxN薄膜の特異なナノ構造を、走査型透過電子顕微鏡注4、量子化学計算注5、空間分解カソードルミネッセンス注6等を用いて調べました。本来は互いに混ざり合わないAlNとInNは自己凝集することなく、窒化ガリウム(GaN)基板直上における初期のカチオン注7秩序配列を引き継いだ上で、原子層レベルで交互に配列する超格子注8を自己形成することを解明しました。本研究成果は、混晶半導体の実力が最大限に引き出された高効率多機能発光素子の実現に寄与すると期待されます。

本研究の成果は2020年10月29日に、英国科学雑誌Scientific Reportsにてオンライン公開されました。本研究の一部は、文部科学省「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」、科研費(16H06418、16H06427、17H02907)の助成を受けています。

【参考画像1】 m面GaN基板上に成長させたAl0.70In0.30N混晶の断面(a軸方向)HAADF-STEM像(上段)。m面GaN上のステップ端におけるカチオンの輝度プロファイル(下段左)、およびカチオン配列の模式図(下段右)。

【用語解説】

注1.非極性面
c面以外の面方位であり、特にm面ないしはa面は完全に極性が無くなる。極性とは、結晶の表裏のようなものであり、六方晶の(Al,In,Ga)Nはc軸方向に反転させると元とは異なる結晶軸方向になってしまう(反転対称性がない)。

注2.窒化アルミニウムインジウム
窒化アルミニウム(AlN)と窒化インジウム(InN)の中間的性質をもつ、いわゆる混晶と呼ばれる中間化合物。ヘテロ接合界面効果トランジスタや発光素子の機能補助層としての利用が提案されているが未だ世の中には出てはいない。

注3.禁制帯幅
結晶のバンド構造において、定常状態の電子が占有することができないエネルギー帯のエネルギー幅。

注4.走査型透過電子顕微鏡
観察対象の薄片試料に100~200 kVの高電圧により加速された集束電子線を入射させ掃引することにより、試料を透過した電子線の強度マップ像を得る電子顕微鏡。原子の位置を見分けることができる程の高い空間分解能を有する。

注5.量子化学計算
物質の構成最小要素である原子核や電子を取り扱うシュレディンガー方程式をコンピュータにより精密に解き、原子や分子の構造から反応にいたる諸問題をシミュレーションする手法。本研究では、カチオン同士の結合エネルギーを計算により求め、エネルギー的に安定な分子配列の仕方を明らかにした。

注6.空間分解カソードルミネッセンス
観察対象の試料に数kV~十数kVに加速された集束電子線を入射させ、電子線のエネルギーにより電子正孔対を励起する。電子正孔対の輻射再結合過程により放出された光子のエネルギーおよび強度をナノメートルからマイクロメートルの空間分解能でマッピングする手法。

注7.カチオン
正に荷電したイオン。本研究ではAl3+、In3+、およびGa3+を指す。

注8.超格子
もともと存在する結晶構造にさらに重なって秩序構造が形成された格子。異なる物質を規則的に層状に積み重ねて作製される人工結晶の意味も含む。

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 秩父 重英(ちちぶ しげふさ)
電話:022-217-5363
E-mail:chichibu*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

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