本文へ
ここから本文です

またしても、新種と知らずに食べていた!-食用海産巻貝類「シッタカ」の一種、クサイロクマノコガイ-

【発表のポイント】

  • 日本各地の海岸潮間帯に産するバテイラ属(Tegula)の諸種は一般に「シッタカ」等と俗称され、食用に供されるなど比較的よく知られた海産巻貝類の一群です。
  • その一員であるクマノコガイには、殻が漆黒色のものと緑褐色のものが見られ、後者にはクサイロクマノコガイの和名があるものの、これまでずっと同種(変異)と見なされてきました。
  • ところが今回、分子系統解析や形態・生息環境の比較、古文献再読等を行った結果、両者は完全に別種で、しかもクサイロクマノコガイは有効な学名1)を持たない新種であると判明しました。

【概要】

東北大学東北アジア研究センターの山崎大志学術研究員、平野尚浩助教、千葉聡教授、および岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)の福田宏准教授の共同研究チームは、「シッタカ」と呼ばれる海産食用巻貝の一群バテイラ属(Tegula)に属すクサイロクマノコガイが実は未記載種2)であったことを突き止め、学名を「Tegula kusairo」と新たに命名しました。この種は従来、一貫してクマノコガイ(Tegula xanthostigma)の種内変異(つまり異名、無効名)と信じられてきましたが、DNA塩基配列や形態・生息環境等の比較の結果、両者は完全な別種と認められます。本研究成果は日本時間12月10日、日豪共同刊行の軟体動物学雑誌「Molluscan Research」にオンラインで掲載されました。

2017年にはサザエが新種であったことが判明しましたが、今回もそれと類似した事例です。食用とされるごく身近な貝類ですら、分類未確定の種がいまだに少なからず含まれており、貝類の識別・同定・体系化の困難さが改めて浮き彫りとなりました。同時に本研究は、分子系統解析と形態比較等を組み合わせた多角的な検討が、生物多様性の認識に貢献した好例とも考えられます。

図1. クマノコガイおよび、今回の新種クサイロクマノコガイの殻。

【用語解説】

注1:学名
動物の学名は万国共通の国際動物命名規約に則って命名・使用されます。同規約の条11.2によれば、学名とはアルファベットのみで綴られるものと定められています。このため、例えばクサイロクマノコガイの学名を「テグラ・クサイロ」などと片仮名で表記してしまうと、それはもはや学名ではありませんのでご注意ください。

注2:未記載種
学名がまだ与えられていない種をこのように呼びます。古今東西のあらゆる文献の総体を1冊の巨大な書物とみなし、その中に「記載」することで新たな学名が成立するため、命名行為そのものをも記載と呼びます。この記載という語の意味がわかりにくいという理由で「新種として登録された」などの表記を頻繁に見かけますが、新種はあくまで「記載」するものであり、「登録」するなどという言い回しは実在しないことにご留意ください。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学東北アジア研究センター 
担当 学術研究員 山崎大志
電話番号・FAX:022-795-7560
メール:zaki.daishi*gmail.com(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ