本文へ
ここから本文です

プロスタグランジンE2を介した免疫チェックポイント阻害薬の新たな耐性獲得機構の解明 ~新たな免疫療法への応用に期待~

【ポイント】

  • 牛伝染性リンパ腫ウイルス感染症に対する免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)の処置で、別の免疫抑制物質の産生が誘導されることを解明。
  • ウシではプロスタグランジンE2が受容体EP4を介してT細胞の活性化を阻害していることを確認。
  • 抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を併用すると、マウスのリンパ腫で抗腫瘍効果が増強されることを証明。

【概要】

北海道大学大学院獣医学研究院、同人獣共通感染症リサーチセンター、東北大学未来科学技術共同研究センター/医学系研究科抗体創薬研究分野による研究グループは、免疫チェックポイント阻害薬抗PD-L1抗体の処置により誘導されるプロスタグランジンE2(PGE2)が、抗体治療効果を減弱させるという新たな耐性獲得機構を解明しました。

近年ヒト医療では、免疫チェックポイント阻害薬をはじめとした免疫療法ががん患者に対する第4の治療戦略として注目されています。一方で、免疫チェックポイント阻害薬の奏効率は20~30%に留まっており、耐性獲得機構や奏効率を高める併用療法の開発に関する研究が盛んに行われています。本研究グループでは致死性の牛伝染性リンパ腫 (旧名:牛白血病)をモデルにした研究を通して、抗PD-1/PD-L1抗体が牛伝染性リンパ腫ウイルス (BLV) 感染牛に対して一定の治療効果を発揮することをこれまでに報告しました。さらに、PGE2の産生を抑制するCOX-2阻害剤と抗PD-L1抗体を併用すると、治療効果が増強されることも明らかにしました。しかしながら、これらの併用により治療効果が増強される機序は明らかになっていませんでした。

本研究ではまず、抗PD-L1抗体を投与したBLV感染牛の解析を行い、抗PD-L1抗体の投与後に血中PGE2濃度が上昇していることを発見しました。試験管内 (in vitro) における解析により、抗PD-L1抗体処置により炎症性サイトカインの一つであるTNF-αの産生が亢進し、このTNF-αを介してPGE2の産生が誘導されることを発見しました。さらに、PGE2が受容体EP4を介してT細胞の活性を直接抑制することを確認しました。そこでこれらの知見を基に、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を併用して効果を検証すると、ウシ及びマウスにおいて免疫活性化効果が観察され、リンパ腫モデルマウスにおいて抗腫瘍効果が増強されることを証明しました。本研究は、家畜の免疫療法に関する研究から得られた新たな知見をマウスモデルでも実証した画期的な研究であり、動物種によらない共通のメカニズムと予想されることから、家畜のみならずヒトにおける新規免疫療法として応用が期待されます。

なお、本研究成果は2020年12月21日(月)公開のImmunoHorizons誌に掲載されました。

図1. 抗PD-L1抗体とEP4阻害剤の併用における免疫活性化機構。免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)の処置によりプロスタグランジンE2(PGE2)が誘導され、受容体EP4を介してT細胞の活性化を阻害する(左図)。この現象はEP4阻害剤を併用することで解消され、免疫応答が増強される(右図)。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学未来科学技術共同研究センター
/大学院医学系研究科抗体創薬研究分野
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
TEL 022-717-8207   
FAX 022-717-8207 
メール yukinarikato*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院医学系研究科・医学部 広報室
TEL 022-717-7891 
FAX 022-717-8187 
メール pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ