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まるでドミノ!? 細胞死が連鎖して広がっていく -鉄依存性細胞死(フェロトーシス)の拡散現象を発見-

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:医学系研究科生物化学分野・教授・五十嵐 和彦
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 鉄依存性細胞死(フェロトーシス)注1が脂質過酸化反応注2とともに、フェロトーシス細胞から周囲の細胞に伝播することを発見した。
  • このフェロトーシス拡散現象はフェロトーシス関連疾患注3の病態形成に関わると考えられ、新たな治療の標的となり得る。
  • このフェロトーシス拡散現象は、フェロトーシスを利用した新規の「がん治療」にも応用し得る。

【概要】

フェロトーシスは近年報告された鉄依存性の細胞死であり、心筋梗塞、脳卒中などの虚血性疾患注4やALS(筋萎縮性側索硬化症)注5などの神経変性疾患で観察されます。さらに、フェロトーシスはがん細胞の除去機構として働くことが分かっており、新たな「がん治療」戦略の鍵として注目されています。

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の西澤弘成(にしざわ ひろなり)博士、五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授らの研究グループは、加齢医学研究所の田中耕三教授らとの共同研究により、フェロトーシス細胞から周囲の細胞へ脂質過酸化反応が伝播し、フェロトーシスが連鎖していくことを発見しました。フェロトーシス細胞の培養液の健常細胞への添加や、フェロトーシス細胞との共培養によってフェロトーシスの拡散が容易に起こることも明らかとなりました。生体内でも同様の現象が起きていると推測され、疾患によっては、フェロトーシスの拡散現象によって説明できます。今後、虚血性疾患や神経変性疾患の新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。また、フェロトーシスの拡散現象を利用することでより効果的な「がん治療」を創出することができると考えられます。

本研究の成果は、2021年3月29日に学術誌Cell Death & Diseaseにて発表されました。

図1. フェロトーシス拡散現象
フェロトーシス細胞から周囲の細胞へ脂質過酸化反応が広がることによって、フェロトーシスが周囲に連鎖していく。

【用語解説】

注1.鉄依存性細胞死(フェロトーシス):2012年にDixonらによって新しく報告された細胞死機構。細胞内自由鉄(Fe2+)を触媒として細胞膜リン脂質の過酸化反応が連鎖し脂質ヒドロキシラジカルが蓄積することで細胞が死に至ると考えられている。自由鉄を除去する鉄キレート剤の投与によって抑制される。

注2.脂質過酸化反応:細胞膜やオルガネラ膜を構成するリン脂質が酸化されて、過酸化脂質や脂質ヒドロキシラジカルが蓄積する反応。細胞内自由鉄 (Fe2+)によって触媒され、フェロトーシスの原因となる。

注3.フェロトーシス関連疾患:様々な疾患において、フェロトーシスが関与することが報告されている。もっとも報告の多いものは、心臓や腎臓の虚血再灌流障害や脳卒中などの虚血性疾患とALS、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病などの神経変性疾患である。ただし、その他にも、脂肪性肝炎や慢性閉塞性肺疾患など、非常に多様な疾患の病態にフェロトーシスが関わることが報告されている。さらには、フェロトーシスを抑制することでこれらの疾患の病態が改善したという報告も多数ある。

注4.虚血性疾患:動脈閉塞などの原因で末梢組織への血流が不足し、発症する病態。代表的なものとして、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳梗塞がある。

注5.ALS(筋萎縮性側索硬化症):運動ニューロンが傷害されることで重篤な筋萎縮と筋力低下が起こる難病。病因の詳細は未だ不明であるが、フェロトーシスが病態に関わるという報告が多数ある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
教授 五十嵐 和彦(いがらし かずひこ)
電話番号:022-717-7596
Eメール:igarashi*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7149
FAX番号:022-717-8931
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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