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細菌における抗菌剤耐性の新しいメカニズムを発見

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:医学系研究科環境医学分野・教授・赤池 孝章
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 細菌感染症治療に繁用されるβラクタム抗菌剤注1が、細菌が産生する超硫黄分子によって分解・不活性化されることを発見しました。
  • 抗菌薬の「最後の砦」とされるカルバペネムも同じ仕組みで分解されました。
  • 分解された薬剤を高感度に検出できる分析法を開発し、それら分解物が菌体外に排出されることを見出しました。
  • 分解物をバイオマーカーとして、βラクタム抗菌剤の薬効を高める新しいアジュバント薬剤の探索が期待されます。

【概要】

熊本大学大学院生命科学研究部の澤智裕(さわ ともひろ)教授、小野勝彦(おの かつひこ)助教らのグループは、同大学院先端科学研究部の井原敏博(いはら としひろ)教授、北村裕介(きたむら ゆうすけ)助教、東北大学大学院医学系研究科 赤池孝章(あかいけ たかあき)教授らとの共同研究により、細菌がβラクタム抗菌剤を分解・不活性化する新しいメカニズムを明らかにしました。

βラクタム抗菌剤は、細菌の細胞壁合成を阻害する抗菌剤で、その優れた有効性や副作用の少なさから、多くの細菌感染症の治療に用いられています。なかでもカルバペネムと呼ばれるβラクタム抗菌剤は、従来のβラクタム抗菌剤が効かなくなった耐性菌に対する「最後の砦」とされています。これまでの研究から、細菌の硫黄代謝注2過程で生じる硫化水素が、細菌の薬剤耐性に寄与することが報告されていましたがその詳細なメカニズムは分かっていませんでした。今回、硫化水素が超硫黄と呼ばれる分子に変換されると、カルバペネムを含むβラクタム抗菌剤を強力に分解・不活性化することを発見しました。構造解析の結果、分解された薬剤は、βラクタム環が開環し硫黄が付加した、カルボチオ酸という新規化合物であることが分かりました。このカルボチオ酸に対する高感度分析法を開発し、その生成動態を解析した結果、βラクタム抗菌剤は、細菌に取り込まれた後、菌体内の超硫黄分子によりカルボチオ酸へと分解され、さらにそれが菌体外に排出されていることを発見しました。今回の結果は、これまでに知られていない、細菌によるβラクタム抗菌剤の分解経路を明らかにした画期的な成果です。今後、菌体外に排出されたカルボチオ酸を指標(バイオマーカー)とすることで、細菌の超硫黄分子産生を阻害する化合物のスクリーニングを計画しています。このような化合物は、超硫黄分子に依存したβラクタム抗菌剤の自然耐性を弱める効果(アジュバント効果)を有することが考えられ、その結果、より低濃度のβラクタム抗菌剤での治療が可能になり、新たな耐性菌の出現が抑えられると期待されます。

本研究成果は、令和3年3月30日(日本時間)に、アメリカ化学会の「ACS Chemical Biology」に掲載されました。

本研究は、科学研究費補助金ならびに乳酸菌研究会の支援を受けて行われました。

【用語解説】

注1:βラクタム抗菌剤
βラクタム抗菌剤は、その構造中にβラクタム環を有する化合物で、細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンの合成を阻害する薬剤である。ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、などが含まれる。

注2:細菌の硫黄代謝
細菌が嫌気的呼吸を行う際に硫酸や亜硫酸を還元して硫化水素を最終代謝産物として生成すること。また含硫アミノ酸であるシステインの異化過程でも硫化水素を産生すること。

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問い合わせ先

東北大学大学院医学系研究科 医学部広報室
電話:022-717-8032
Fax:022-717-8187
e-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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