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1Fの格納容器内にたまった水の中で金属材料はどう腐食するのか? -放射線環境下での腐食データベースの構築-

【本学研究者情報】

〇原子炉廃止措置基盤研究センター 廃止措置リスク管理技術研究部門 准教授 阿部博志
研究部門ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 長期にわたる東京電力福島第一原子力発電所(以下、1F)の廃止措置を安全かつ継続的に進めるためには、時間の経過とともに進行する原子炉などの材料の腐食を抑えることが重要です。しかし、1F特有の海水等の不純物成分が混入した高い放射線の環境における腐食反応に関するデータは十分に整理されていませんでした。
  • 本研究では、放射線環境下での腐食※1によるトラブルの発生の可能性や対策方法などを検討するうえで重要な、
    ① 海水混入系ラジオリシスデータベース(水の放射線分解(以下、ラジオリシス※2)のデータをまとめたデータベース)
    ② 放射線環境下腐食データベース(放射線照射下での鉄を主成分とする合金の腐食データをまとめたデータベース)
    ③ 腐食調査票データベース(1F廃炉工程における潜在的腐食影響 ※3に関して検討した結果をまとめたデータベース) からなる「放射線環境下での腐食データベース」
    を構築しました。
  • その結果、原子炉格納容器※4(以下、PCV)内にたまっている滞留水の酸性度や海水由来および原子炉の材料から溶出するイオンなどの影響により、材料腐食を加速する原因となる酸化性の成分の濃度が大きく変化することが明らかとなりました。
  • 本成果は、デブリ取り出しに向けた長期にわたる1F廃止措置をより安全に遂行するための足掛かりとなると期待されます。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:児玉敏雄)原子力基礎工学研究センター燃料・材料ディビジョン防食材料技術開発グループの佐藤智徳研究副主幹、加治芳行副センター長、安全研究センターの端邦樹研究副主幹、廃炉環境国際共同研究センターの上野文義研究主席、量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫)の田口光正上席研究員と清藤 一 主任技術員、大阪府立大学(学長:辰巳砂昌弘)大学院工学研究科の井上博之准教授、東北大学(総長:大野英男)原子炉廃止措置基盤研究センターの秋山英二教授と阿部博志准教授、東京大学(総長:藤井輝夫)大学院工学系研究科附属総合研究機構の鈴木俊一特任教授らは、1F廃炉作業の安全対策に必要な、「放射線環境下での腐食データベース」を構築しました。なお、腐食データベースのうち、放射線環境下での炭素鋼腐食へのホウ酸塩の影響に関するデータの取得については、研究協力として東京工業大学の多田英司教授に実施していただきました。

1Fの廃止措置を40年にわたり安全かつ継続的に進めるためには、経年的に進行する構造材料の腐食を抑制することが重要です。しかしながら、1F廃炉のような、放射線の影響を受けている環境での腐食反応の速度を決定する要因に関しては、十分にデータが得られている訳ではありませんでした。

本研究では、1F廃止措置特有の放射線環境下での腐食トラブルの発生可能性、腐食対策等を検討するうえで有用な情報である、①海水混入系での水の放射線分解(ラジオリシス)データ、および②放射線照射下での腐食試験※5データをデータベース化しました。また、③1F廃炉工程における潜在的腐食影響に関して検討した結果を腐食調査票データベースとして整理し、 「放射線環境下での腐食データベース」として取りまとめました。

本成果は、長期にわたる1F廃止措置をより安全に遂行するための足掛かりとして、保全対策の根拠や安全対策立案へつながることが期待できます。 「放射線環境下での腐食データベース」は、以下のURLより6月26日に公開されました。

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また、本データベースは文部科学省の「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」の「放射線環境下での腐食データベースの構築」において平成29年~31年に実施した内容がベースになっています。

放射線環境下にある1F格納容器材の腐食模式図と放射線環境下での腐食データベースの概要 (データベースは①海水混入系ラジオリシスデータベース、②放射線環境下腐食データベース、③腐食調査票データベース、の構成となっております。)

【用語解説】

注1 放射線環境下での腐食
放射線環境下に特有な現象で、水の放射線分解で酸化性の過酸化水素が発生し、それにより腐食が加速、誘発される可能性がある

注2 水の放射線分解(ラジオリシス)
水に放射線が入射されると、放射線と水が相互作用する。この結果、水分子が分解され、水素(H)と酸素(O)からなる様々な化学種が発生する。この現象を水の放射線分解(ラジオリシス)という。

注3 潜在的腐食影響
腐食の影響としては、現在は顕在化していないが、長期的に考えたとき、影響するかどうかの可能性

注4 原子炉格納容器(PCV、Primary Containment Vessel)
原子炉を格納する密閉性の高い、炭素鋼製の容器。PCVは略語。

注5 腐食試験
材料の腐食を実験的に評価するための試験。長時間腐食環境にさらして重量変化を測定する手法や、電気化学的な手法など様々な手法がある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学原子炉廃止措置基盤研究センター 支援室
TEL:022‐795-3185
Mail: cfrend*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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