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小型積層マグネットへの世界最高磁場の捕捉に成功

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 淡路 智
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 高性能コーテッド・コンダクター(注1)を用いた小型積層マグネット(注2)を作製し、世界最高記録となる17.89 T(注3)の強磁場捕捉に成功しました。また、磁場捕捉に必要な時間を75分へと大幅に短縮しました。
  • コーテッド・コンダクターに大きな比熱を持つ鉛を蒸着することにより、強磁場捕捉にとって大きな制約となる熱磁気不安定生に起因するフラックス・ジャンプ(注4)を抑制しました。
  • 超伝導体(注5)の基板として用いているハステロイ(注6)基板の厚さを薄くすることにより、より高温でも17 T以上の強磁場が捕捉可能であることを示しました。

【概要】

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の陶山正裕大学院生、卞舜生助教、為ヶ井強准教授、東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターの淡路智教授、(株)フジクラ超電導研究部の飯島康裕フェローらの共同研究グループは、人工ピン(注7)としてBaHfO3を導入することにより低温・高磁場での臨界電流密度(注8)を高めた高性能のEuBa2Cu3O7コーテッド・コンダクターを用いた小型積層マグネット(12x13x12 mm3)を作製し、これを金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターの超伝導マグネットで発生した18 Tの強磁場中で6.5 K(-266.7℃)まで冷却し磁場を取り除くことにより、17.89 Tの強磁場の捕捉に成功しました。この捕捉磁場が、これまでの世界記録である17.7 Tを超えただけでなく、磁場捕捉に必要な時間も、これまでの1/15以下である75分に短縮することに成功しました。

本研究成果は、高温超伝導体の実用化へ大きく貢献するとともに、今後の捕捉磁場マグネットの開発・改良に大きな指針を与えるものと期待されます。

本研究成果は、2022年1月6日(英国時間)に国際学術誌「Superconductor Science and Technology」のオンライン版にLetterとして掲載されました。

(a)鉛を導入したコーテッド・コンダクター50枚を中心部に配置した積層マグネット#2におけるT = 6.5 Kでの着磁の様子。挿入図は、外部磁場がゼロになった後の捕捉磁場の時間変化。(b) 積層マグネット#1、#2における捕捉磁場(Btrap)の温度依存性。

【用語解説】

(注1)コーテッド・コンダクター
金属基板上に各種薄膜堆積法を用いて作製した超伝導線材の総称。代表的なものは、Y系銅酸化物高温超伝導体を堆積したもので、ハステロイ基板上に結晶配向を助ける中間層を堆積した上に、超伝導層を堆積し、さらに保護のために金属を蒸着等により付けています。

(注2)積層マグネット
幅12 mm程度のコーテッド・コンダクターを切断し、積層することによりバルクマグネットと類似の特性を持たせたマグネットの総称

(注3)T(テスラ)
磁場の強さの単位。地磁気は約0.05 mT。また、最も強い磁石であるネオジム磁石の表面磁場は約1 T。

(注4)フラックス・ジャンプ
臨界状態にある超伝導体において、何らかの擾乱により磁束量子が動き出し、その運動に起因するエネルギー散逸による局所的な温度上昇が、更なる磁束量子の運動を引き起こすことにより雪崩的に生じる超伝導体における磁束密度の急激な変化のこと。

(注5)超伝導体
電気抵抗がゼロとなる超伝導現象を示す物質の総称。リニアモーターカーや病院にあるMRI装置用の強力マグネットに用いられています。

(注6)ハステロイ
ニッケルを主成分とし、モリブデンやクロムを含む耐食性・耐熱性を高めた合金。

(注7)人工ピン
磁束量子の運動を抑制するために意図的に導入した元素置換や相分離を利用した化学的欠陥や、高エネルギー粒子線照射により生成された物理的欠陥の総称。

(注8)臨界電流密度
電気抵抗ゼロで超伝導体に流すことのできる電流密度の最大値。磁場の下において臨界電流密度は、磁束量子のピン止め力により決定されます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 教授 淡路 智
TEL:022-215-2151
E-mail:awaji*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材・報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
E-mail:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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